第11話 スクレイの意地



「艦は、降りてきた艦体を叩け。  新型はこのまま俺が潰す」


「少尉! ここは引くべきでは。 敵の戦力がわかりません」


 マレーは危機を感じて一旦引くように促す。すべてにおいて情報がない機体に見たこともない戦艦とくれば、これ程分が悪いことは無い。


「あほか! 潰せる敵が目の前に居るんだ。 このチャンスを逃す訳がねぇだろうが。 敵が強くなる前に摘むんだよ。 戦争で躊躇は命取りになる。 前にも教えただろうが」


「しかし……」


「やれって言やぁ、やればいいんだよ。 艦隊は敵戦艦を攻撃して足止めせよ」



「主砲もう一度。 あの紫の機体を狙え。 仲間に当てるなよ」


 ノンの指令でもう一度撃たれるレーザー砲にスクレイの機体が悲鳴を上げた。


「おい!うちの艦は何やってやがる。足止めしろって言ってんだよ」


 スクレイは動きの遅い自艦を叱りつける


「ノン艦長! 敵艦がこちらに向けて、砲撃してきました」


 ノンの乗る艦体が攻撃を受け被弾する。 船内ブリッジは小さく揺れる。 


「状態は?」


「損害軽微。 以上ありません」


「艦長、これではまともに援護できません」


 艦長は何よりも新型を最優して救う事を考えていたが、横暴なほどの敵の攻撃はノン達の行動を阻害させた。



「先に、浮上する艦隊を叩く。 それまで落ちるなよ新型」


「艦長! なら俺が行くぜ」


 低い声で男が一人名乗りを上げた。 


「グローリーか? それは危険すぎる。 この惑星はまだ未知だ。 身体への安全が保証できんぞ」


「大丈夫だろ。 敵さんも降りてんだ。 行けるよ」


 グローリーと言う男はどうも、軍隊には似合わない、風貌をしていた。 軍服も来ておらず、私服だろうその服装はセンスすら感じられない格好のおじさんだ。 おまけに髭まで手入れされていない。 


「それは助かるが、無茶だけはしないで欲しい」



「わぁってるよ。そんなもん」


 そう言うと中年のおじさんは歩きながらアルバで出撃した。


「全員、対空戦闘用意。目標、巡洋迎撃戦艦 サイジロス」


「艦長、あれを使ってみてはどうです?」


 砲電士を務めるジャンがこの艦に特別に備えられた兵器を使ってみる事を提案した。


「あれはいかん! あんなものをここでぶっ放すわけにはいかない。 多核積ミサイル準備。全弾発射後、両電子砲撃ちこめぇ!」


 ノン艦長は本気で敵艦を沈めに来ていた。 



 ギエン隊はレーダーに捉えられないように、雲に隠れながら、一歩引いて、その戦いを見ていた。


「隊長、あの艦体、サイジロスの攻撃にびくともしていません」


「サイジロスでは、火力が弱すぎるのか? そんなことはあるまい」


 ギエンは冷静な判断を下しながら、この戦いで敵の戦力を分析していた。



 その頃スクレイ隊のサイジロス内部ではエマージェンシーコールがいくつも流れる。 艦内は赤く光り、警告音がいくつも発せられた。 


「あんな小さなミサイルでこの艦が落ちるというのか」 


 サイジロスは煙を上げ被弾。 自力で浮く事も難しかった



「少尉ダメです。 敵の戦艦が強すぎます。 こちらの艦が落ちます」


 その報告に耳を疑うのは、スクレイ。 今までの戦闘でそんなに早く撃墜される事などありえない。


 そんな通信が飛んで来てすぐの事だった。 空で一つの大きな爆発が起こった。  浮かんでいたオレンジ色の戦艦。 サイジロスが上空で爆発したのだ。



 マレーもスクレイも、自艦の爆発に驚きを隠せない。 敵の戦艦は全くの無傷で、こちらの艦隊だけが木っ端みじんに落とされるなど、今までの戦艦の戦いであっただろうか。 それはまた、遠くから見ていたギエン隊も同じだった。



「少尉! 我が艦が……、 我が艦が落ちました」



 スクレイはぐっと怒りをこらえ、ただ、ニフティーに単身突っ込んだ。爆発にあっけを取られていたライルは、スクレイに吹き飛ばされる。


「我が艦隊を犠牲にしたんだ。 この機体だけでも破壊して持って帰る」


「こいつ、まだ、やる気でいるのか、?」


 ライルも黙ってやられている訳にはいかない。 渾身の一撃で、スクレイの機体を殴る。 


「ぐぬぅっぅぅうぅううぅ」


 その衝撃でスクレイの機体は吹っ飛んだ。 




 ノン艦長の率いる船の乗組員たちは、改めて自分達が乗っている艦のすごさと責任を思い知らされた。これが連合政府が注力して持ってきた、戦争を止める為の力なのだと。


 ただしノン隊長は微動だにもしなかった。


「良し、そのままニルス隊、出撃」


 艦務士を務める金髪の女性が、連絡を取る。


「付近に、浮上するエターが1機あります。 気をつけて」


「ニルス隊了解」


 ニルスの乗るアルバと後ろに2体のプリーマが続く。



「敵のアルバ隊? 3機。 こっちに来る。 少尉!」


 マレーはこの極地に脅えていた。どうやっても追い込まれる自軍と、まるで言う事を聞いてくれない、判断を間違えきった堅物上司。 このままスクレイの命令を聞いていれば間違いなく、全滅して終わる。そんな事は冷静はモノであればだれでも気づく事だった。 だからと言って自分の上司でもある隊の隊長を置いて逃げる等、一兵士であるマレーには許されはしなかった。 


 上官を見殺しにして逃げたとなれば軍法会議もの、命の保証だってあるわけではない。敵の容赦のない攻撃と、逃げて助かったとしても帰れなくなる。 これはもうここで死を選択させられたようなもの。 マレーにはその踏ん切りをつける事ができない。 死にたくない!

 

 マレーはただそう思って、迫りくる連合軍に脅えた。



「痛っててぇぇ、 何だ、こりゃ、カメラをやられたってか」


 スクレイの画面はほとんどノイズが入って視界を遮っていた。 


「くそ、殴っただけでこれかよ。 あいつの腕もダメになってんじゃねぇのか?」


 スクレイは戦闘経験から、これほどまでに殴れば、向こうの腕も無事ではないと思った。 だがそれが勘違いだった。 


「あぁ、見にくいったらありゃしねぇ!!」


 スクレイはコックピットを開けて視界を確保した。


「この方が良く見えていい」


 またニフティーに突撃する。

「人が乗ってる!!?」


 しつこすぎる。 ライルを困らせるスクレイ。 彼の腕が、あまりにもすごいが故、ライルはこれ以上向かってきては欲しくなかった。 スクレイは持っている斧でニフティーの足に絡めると、ニフティーはそのままバランスを崩してこける。 


 これで終わりだと斧を振りかざすが、ライフルの弾がとんで来る。 


「今度はなんだ」


 スクレイの身のこなしはそれだけ歴戦の戦闘を乗り越えてきたのを物語っていた。


「ほぉう、かわすのか。 そこの新型機体。 まだ動けるか?」


「助けてくれたのか? あの機体」


 ライルは自分のピンチを救ってくれたモノが登場するなんて思ってもいなかった。 現れた機体は自分ではなく、相手の機体の前に立ちはだかったので、敵ではないことが分かった。 


「なんだL.S.E.E.Dか。まさかてめぇらが来るとはな。 俺らの包囲網をすり抜けたのか?」


「お前さんの言ってることは良く分かんねぇけど、俺たちよりも先に、ここにきてることは褒めてやるよ」


 アルバのパイロット、グロスは敵のパイロットを称賛した。


「何だじじぃか? 俺はスクレイ隊のスクレイだ。 俺の名前ぐらい知ってんだろ?

 一応聴いといてやるよ。 名乗りな」


「勝気の多い奴だ。 ただのしがないおっさんで良いよ別に。 それより、お前のお仲間さんいいのか? うちの隊にやられるぞ」



「話変えてんじゃねぇよ、おっさん! こんなとこで死ぬやつはうちの隊に入らねぇんだよ。 名乗れよ」


「はぁ、仲間は大切にした方がいいぞ。 お前みたいな勝気づいた奴は嫌いじゃね。だけど仲間も守れねぇやつが、戦場に来るべきじゃね」


「うるせぇな。 説教か。 L.S.E.E.Dのおっさんに説教されるほど落ちぶれちゃいねぇんだよ。 てめぇ名乗る気もねぇならそこの、雑魚と一緒にこのまま叩くぞ」


「そんなに聞きたいなら別に教えてやってもいいけどよ、聞いたところでどうという事は無いぞ。俺の名はグロス=グレーリー。 ただの二等兵さ」



「ふ、ふふふふははははは、」


 スクレイは大笑いした。


「お前、冗談も大概にしとけよ。 ただの二等兵がアルバに乗って出てくる訳がないだろう。

何でお前が隊長機に乗って出てくるんだ。 もういい。コケにした分、粉々にしてやるよ」


「嘘じゃないんだけどな。 やるってんなら、相手になってやるぜ」


「その上からが気に食わねぇな。 老人の二等兵さんよ」


 スクレイが振りかざす斧よりも早く、彼の視界から消えた。 


「な、どこへ行きやがった」


「こっちだ」


 スクレイはグロスの攻撃を食らう。 



 ギエンはスクレイのオープンチャットを傍受していた。 


「な、グロスだと。 奴はさっきグロスと言ったのか? あのグロスが…… まさかな」


 ジトーもその名を聞いた時、ギエンと顔を合わせていた。 ニギューは特に反応する事は無かった。



「なるほど、流石はソルスティツィオと言ったところか」


「俺とこの機体に勝てると思うなよ、下っ端が」


「ほんと、粋がるところだけは称賛物だな。だが、隊長としては失格だ」


「消えろL.S.E.E.Dの兵隊が! 貴様ら等、この世からいなくなればいい。 俺たちが根絶してやるからよ」



「おぉ、怖い怖い」


 アルバに乗るグロスは、まるで遊んでいるかのように、軽々と、避けて見せる。 それが、スクレイを余計に裏立たせた。


「そこの新型! 聞こえるか? 聞こえていたら返事をしろ」


「お、おれの事か? 」


「おう、無事のようだな。 よくそいつを守ってくれた。 お前は急いで、サーゲンレーゼへ帰投しろ。 こいつは俺が引き受けてやる」


「どういう事だ? サーゲンレーゼ? 何のことなんだ」


 何よりも、ライルが驚いたのは、自分たちの国と同じ言葉で話かて来たことだった。 つまりこの人は地球人だとでもいうのだろうか?


 だけど、機体は見慣れない機体に乗っている。 どう見ても宇宙人の機体だ。



「何だ、お前、そいつを任されたパイロットなのにサーゲンレーゼの事は聞いていないのか? 

お前の目の前に見えてんだろ。 俺たちの船が。 お前が搬入される予定だった船だ」


 話が見えてこない。 ただ、グロスと言う男は自分たちの船にニフティーを積めと言っている事だけは理解できた。 ライルとしてはそれに従う事が、良い判断なのかわからなかった。 味方かすらわからないこの男の言葉を鵜呑みにして、おいそれと得体のしれない浮遊艦に乗って殺されたくはない。


「おいおい、お前もそこの奴みたいに、粋のいい奴だとか言わないでくれよ。 冷静な判断をするやつでいてくれ。 お前まで守ってやれる程の余裕はないぞ」


 グロスは一向に動こうとしないニフティーを見て、勘繰った。普通のパイロットにある素直さががじられないからである。



 スクレイはアルバに食いつく。 こういった敵がグロスの一番苦手とする相手だった。 撃っても撃っても向かってくる。 




「ちょっとピンチだな。 あれはアルバの動きじゃない。 スクレイを助けに行く」


 ギエンは艦を動かすように命令した。


「本気ですか!? 隊長! あんな奴ほっとけばいいんですよ。 いい気味です」


「そうも言ってやるな。 お前の気持ちは分かるが、出るのは俺だけでいい。 ニギューはここに残れ。」

 

 続けざまに、ジトーにも危なくなったら、急いで空に上がれと伝えた。


 グロスはもう止めにしろと、スクレイに伝えた。スクレイのソルスティツィオは左腕を持って行かれていた。


「引かないなら止めを刺す」


「ふん。 俺の艦は失ったんだ。 これ以上どこに帰ると言うんだよ」


「おまえ……」


 グロスはこの時、スクレイが少尉である意味を知った気がした。 

 グロスはそのままライフルで打ち抜こうとした時だった。 スクレイの方からライフル弾が飛んで来る。  ルネディが現れた。



「スクレイ! ここはいったん引け。 俺がこの場を引き継ぐ」


「ギエンか。 余計な手立てを。 俺は引かぬ! お前こそ、腰を抜かしたくせして、なぜまたのこのこ来た。 新型をやるのはこの俺だ」


「いい加減にしろ! スクレイ少尉。 お前だけの戦争じゃないんだぞ」


「だからだよ! だから仲間の為に、戦争を終わらせるために、少しでも軽くしてやる必要があるんだ。 尚更、L.S.E.E.Dがこんな怪物を導入しようとしているならここで止めなきゃこの戦争がもっと悲惨なものになるだろうが」


「スクレイ……。だがこの戦況はいくらお前でもまずすぎる。 隊長なら戦況ぐらい読め。 だからお前の部隊も失った。 これはお前の失態だ」


 スクレイには、その言葉が深く深く突き刺さった。 


「だからだよ……」


 スクレイはボソッとつぶやく。


「俺が責任を持って、新型は潰してく。 だからお前らは先に上に上がってろ。上で俺に感謝する事だな」


「少尉……」



 ギエンは彼の覚悟を読み取った。これ以上言っても平行線をたどるだけだろう。


「ならば、あのアルバの足だけは止めてこよう」


 ギエンはアルバに向かって攻撃を仕掛ける。だが、やはり当たらない。反応速度がまるで違う。 彼は、ある人の事が頭に浮かんだ。 まるであの人と一戦交えたみたいな感覚だった。

 だからこそ、なんとなくその似た癖を知っていた。


 アルバは向かってきたルネディの攻撃をかわした、がそれがフェイクである事が分かった時、すでに腰部を被弾した。 


「こいつ 隠し武器だと」


 グロスも予想していなかった攻撃にアルバの動きが止まる。 ことは無かった。 それでもアルバは背部のブースターを使って悠々と、反撃してくる。 


 サーゲンレーゼの援護が飛び交う。戦艦を破壊したサーゲンレーゼを邪魔するモノはいない。


「スクレイ俺ができるのはここまでだ」


「おう、逃げろ逃げろ。 てめぇにしては十分な働きだよ。 あと、マレーだけは拾ってやってくれ」


「仕方がない。これっきりだぞ。救ってやる」


「ふん、すまねぇな。 

 ……さて、ここからは俺の本領発揮だ。 L.S.E.E.Dの雑魚共は俺がぶっ潰してやるよ」


 アルバを超えて、向かうは新型! それが、スクレイの目標。


「新型、逃げろ、向かってくるぞ」


 ライルは交戦に応じた。



 ニルス隊は1機のエターを翻弄していた。 エターはボロボロになりながらも、何とか生き延びようとしている。 


 そこに、ギエンが介入した。


「何だ、! もう1機きただと。 どこから?」


 ニルスはギエンと交戦したが、ギエンによって、軽々と2機のプリーマを撤退させられた。一気に2対1と、形成を逆転させたかに見えたが、マレーのエターは戦力には数えられない状態だった。


「マレー兵長。 まだ動けるか」


「アナタは、ギエン少尉でありますか? 自分は大丈夫ですが、どうしてここに」


「話は後だ。 今すぐ、私のサイジロスに帰還しろ」


「しかし我が隊は」


「母艦が落とされたのだろう。 急いで撤退しろ」


「スクレイ少尉……スクレイ少尉はどうされたのでしょうか?」


「スクレイは自分のやるべきことをやっている。 とにかくこれもスクレイ少尉の指示だ。 急いで後退しろ」


「わ、わかりました。 スクレイ少尉は無事なのですね」


「アイツのしぶとさは君が良く知っているだろ」


「はい」


「しかしこの戦い方は感心しない。 無謀にも程がある。 こうなる事は予想ができるはずだ」


「すみません、 忠告はしているのですが……、これが、スクレイ隊といいますか……、少尉は誰の意見も聞きませんので……」


「分かっている。 君に言うべきではないか。 とにかく、教訓にすると良いマレー兵長」


「心得ておきます」


 しかし、ニルスのアルパは敵を逃すつもりはない。 瀕死の状態のエターに向けて追い打ちを掛ける。 


「あいつ、我々を逃がさないつもりか」


 ルネディは追ってくるアルバに猛攻を振るう。


「どうした、アルバのパイロット、そんなものか」


「こいつ強い」


 ニルスは身に危機感を感じた。 これは普通のルネディ―ではない。 


 そんな時、ノンから通信が入る。


「ニルス隊長、深追いはするな。 我々の任務はあくまで新型の回収。 ここで戦力を割く必要はない」


 目の前には手負いの敵機体が1機いる、 後一発でも当てれれば撃破できるのに。という葛藤が、彼を襲う。



「……わかりました。撤退します」


 ニルスは後退した。



「引いたか。 賢明な判断だ」


 ギエンは、マレーの後を追った。



 スクレイとライルは戦っていた。と言っても一方的なスクレイの攻撃が目につく形だった。 ライルは負傷したアルバに通信をした。



「そこの機体。 負傷しているんだろ。 手を貸してくれるなら、何か武器は無いか?」


「お前、武器無しで応戦していたのか? すげぇな。 まぁ、確かに武器は摘まれてないのかもしれないのか。ほらよ。 これを使え」

 

 渡されたのはアルバに装備されてる、エネルギーブレードだった。


 ボタンを押すと、青白く発光した光が伸びる。 


「ただのブレイドごときで、俺の機体と渡り合えると思うなよ」


 使い慣れるも何も、ライルはスクレイに何発か当てて見せた。 その動きにグロスは関心を覚えた。だからと言って、ライルも無傷では済まない。だが、ニフティーは硬い。それが唯一ライルが撃破されなかった理由である。


 ライルは長試合に披露していたが、ここで根をあげる訳にはいかない。 見かねたアルバが加勢に入る。


「貴様、卑怯な。俺たちの戦いに水を差すと言うのか」

 

「悪いな。 俺だって、1対1には入り込みたくねぇよ。 だけど、今回は戦争やってんでね。被卑怯じゃねーんだよ。 目的が違うんだ」


「大義名分ってか。いつの時代も嫌になるぜ。てめぇの信念すら貫けねぇ世の中によ 」


「勝手に言ってな。 こちとら大人の事情なんだよ」


 アルバの攻撃はスクレイを見事によわらせていった。ライルは立って見ていることしかできない。まるで自分とは違う、プロの戦い方。 そして自分とは関係を持たない、争いの理由に。



『警告、足元に小さな生体反応あり』


 気づけば町の近くまで来ていた機体は、いつしか、移動して街の中へと足を入れていた。 

 向かってくるスクレイは気づいていないのか勢いを止めない。このままでは、子供が巻き込まれてしまう。 


 ライルはただ止めたくて、ブレイドをふるった。 当てたところで、負傷するぐらいにと力を弱めた。 その一心は戦いたかったからではない。 足元の子どもを守りたかったからだ。だからライルは向かってくるスクレイにブレードをふるった。 それは綺麗に真っ二つに切れた。


 ライルはまた、酷い苦しみに襲われた。こんなはずではない。 ただ動きを止めたかっただけ。こんな結末を望んだわけではなかった。 この機体は異常なほど強すぎる。 加減をしたつもりが、加減すらできていない。 


 子どもはニフティーの足の下で口を大きく開けて泣いていた。



「ま、真っ二つだと?! おいおい、冗談だろ。 一体どこを狙ったらそんな風に切れる……

 このパイロットは、本当はすげぇ奴なのか……




 こうしてニフティーの前にはサーゲンレーゼが降り立つ。 地球でいきなり起こった小規模戦争は、一度幕を退いたのだった。


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