第8話 ギエン隊


 ライルがモニター越しに確認したのは丁度、ケイが撃たれた後だった。 



「うわぁぁぁっぁぁぁぁぁ」


 ライフルを撃たれ、崩れ落ちるケイのジンクス。 それを目にして、ライルは強く操縦桿を握った。 


 ロスランは向かってくる機体に気づいたがあまりの速さに対応が遅れる。 そのあまりの速さに、ライルも翻弄され、敵の機体を通り過ぎて地面に激突する。


「な、何だ今の機体は!えげつない速さだ」


 敵の機体をまじまじと見たロスランは確認した。 これはこの惑星の機体ではない。 これがデータにあった新型だと。ロスランは回線をオープンで開いた。


「隊長! 発見しました。 目の前に新型が現れました。 今、映像を回します」


「ロスランか。よくやった。今からそちらに向かう。 他の者も聞こえたな。座標はロスランだ」


 ギエンはロスランから送られてきた動画データを再生した。 丁度、真向を切ってすさまじい速さで通り過ぎていく機体。 間違いなく、今回狙うべき新型。 


「ジトー、この映像を見ろ。」


「間違いありませんね。 こちらの艦の照合とも一致しています」


「そうか、それにしてもあのパイロットは未熟か? 下手くそにも程があるだろ」


「連合軍もさほど人手に困っているのかもしれませんね」


「何でも入れてしまえばいいと言うものではないぞ」


「ごもっともで」


「これなら作戦は簡単かもしれん」


「隊長やってしまいます」


 ロスランは、すぐさま地面に落ちたニフティーの元へ行く


「いっててえぇ、」


『警告、後方よりエターⅣが接近。 ロックされています。 回避してください』


 ライルは急いでブースターを吹き出すと、態勢を取り直した。


「う、動き出した。 は、早い」


「うわぁぁぁぁぁ、 う、うぇっ、」


 あまりにも慌ててブースターを射出したため、体への負担が急激にかかり、嗚咽がするライル。


 ロランスはレーザライフルをニフティーに向け、投降するように通信した。  しかし何を言っているのかわからない。一か八か、攻撃を仕掛けてみる事にした。


「こいつ、戦わずにいようと言うのに、攻撃してくるつもりか、 くそ」


 ロランスはあまりの性能のニフティーに危機感を覚えていた。 それでなくても目の前に立っている機体は新型。 どんなものなのか全く想像がつかなかった。 動くと言うのなら、ロランスもまた、攻撃せざるを負えない。 自身を守るために。


 しかしロランスの撃ったレーザーライフル二発は確かにニフティーにかすったが、それほどのダメージを与える事ができなかった。


「な、こいつ戦艦以上の装甲を持つと言うのか」


「当たったのに、貫通すらしていない……。 宇宙人の機体は皆こんななのか」


 ロランスは一度距離を取った。 対するライルにはチャンスであったが、まだうまく扱えないライルは反撃の機会を逃した。




「隊長、この新型、戦艦以上の装甲を持っています。 ビーム兵器が効きません」


「そんなはずがあるか。 交戦しているのなら、我々が到着するまで耐えれるか」


「それは余裕そうです。 何でもパイロットが、その、扱いきれていないようで」


「映像にもあった通りだな。 わかった。急いで向かうから何とか持ちこたえろ」


 ライルはその間に、ロランスの至近距離まで接近していた。


「うわぁぁぁぁぁっ、こいつ」


 ロランスは驚いてフォトンソードを出すと、ニフティーに向けて振り下ろす。傷つけないつもりだったが、とっさの反射で攻撃してしまった。 だが、ニフティーはその手を受け止め、押し返した。 


「う、うわぁぁっぁ あ、熱い」


 ロランスが向けたソードが自分のコックピットの傍に近ずいて触れる。 そうしてエターの装甲が溶け出していく。


「こいつ、なんて馬力をしているんだ」


 このままでは自分のソードで焼き切れてしまう。そう思ったロランスはソードのエネルギー部分を収めた。 


「き、消えた?」


 ロスランはそのままニフティーを殴ってどかす。だが、モニターを見るとニフティーの姿がない。


 ロックされた警告音が鳴る。


「狙われている、後ろか」


 ロスランが振り返った時、ライルがロランスの捨てたライフルを射出する。


「当たれぇ」


 ライルの放ったレーザーはエターのコックピットを貫いた。


「バ、バカぁなぁっぁ」


 中は高温の熱で焼けきれ、そのまま大爆発を起こした。


「う、嘘だろ。……どうして、一発じゃ大してくらわないんじゃなかったのか?

 中に人は、人は乗ってないんだよな」


 ライルには信じられなかった。 自分はあれだけビームをくらっても何ともなかったと言うのに、相手の機体はただの一発で大爆発を起こしてしまったのだから。 



「ロスランどうした? 応答しろ、ロスラン! ダメだ返事がない」


 通信をしていたギエンはいち早くその異変に気付いた。


「隊長! 急にロスランの座標が」


「あぁ、知っている。 俺ももうじき着く」


 何があった、ロスラン。 ギエン達は急ぎ座標の近くまで飛ばした。ギエンが見た先には、ロスランの機体が跡形もなく吹き込んでいる光景だった。 煙幕が薄れて行くと、ロスランが持っていたエネルギーライフルを握ったニフティーの姿がある。


「バカな、ロスランをやったと言うのか、 なんという事を……」


 ギエンはニフティーに襲い掛かる。 


『左舷より、新手の機体が来ます。 識別、LST-208 TW 名称ルネディ  右へ引いてください』


 煙幕がまだ晴れない時を狙って、ギエンは正確にニフティーの位置を定めた。


「何? 避けただと」 


「新手の機体! さっきのとは違う

 うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 ニフティーはそのまま追撃してきたギエンの蹴りを食らう。地面に尻部をつけたまま、手に持ったライフルをギエンに向けて乱射する。


「そんな攻撃が当たるか!」


 ルネディがニフティーの前に飛び掛かり、ルネディの手に持ったフォトンソードが唸る。

 やられる。ライルが手で頭を覆った時だった、


「何だと!?」


 ルネディに向かって振りかざされた刀を避ける為、ルネディは高速で後ろに引いた。

 あんな動きが可能なのか? ケイは、敵の動きを図って、ライルを助けた。


「ケ、ケイ……、ケイなのか! ケイ無事だったんだな」


「おもちゃがしゃしゃり出てきやがって」


 ギエンが青いジンクスにとどめを刺そうとした時、ライルがルネディを蹴り飛ばす。


「ぬぅをぉぉぉ

 今ので左舷部を破壊されただと? なんて衝撃だ。 新型の力はどれ程のモノだと言うのだ」


 傷を負ったルネディへの攻撃はまだやまない、刀身を輝かせた、ケイの機体がルネディに切りかかる。


「うをぉぉぉぉっ」



 コックピットは何とか避けたが、ルネディは装甲ごと両断された。 


「あの機体の武器はプリュトニュウムに及ぶと言うのか!!」


「はぁぁぁぁぁ」


 ニフティが再度、殴りにかかるが何とかこれを避ける。しかしケイがタックルをかまし、ルネディは岩に激突した。


「ぐうぬっ」


 ルネディを狙おうとニフティーがライフルを構えようとしたその時。右舷からエターが射撃する。


「隊長!!

 大丈夫ですか」


「ニギューか」


 それと同時に、ジトーの後ろから大きなオレンジ色の戦艦が現れた。


「ジトー、強制的にオープン回線を開かせろ、形成逆転というところか」


「かしこまりました」


 エターがギエンの前に入り、ニフティー達を引き離す。 


「もう一機いたのか」


 ライルはケイを守りながら、下がり、一次見合わせる状況となる。


「隊長繋がりました」


「助かる。

 Can you hear me, the new pilot there! If you hand over the aircraft quietly, I will miss it without killing it. However, if you want to engage in battle, we will not forgive you either.」


「Answer, new model! Did you kill Ross Run! ??」


 ニギューが会話に入ってきたので、ギエンは話がややこしくなる為割り込むなとニギューに忠告した。


「何なんだ。 あいつらなんか色々言って来てるみたいだけど、なんでこんなに声が聞こえるんだ」


「分からない、どういう事だ?こっちにもお前の声が聞こえているぞ、ライル。」


 二人も混乱した。 通信をつないだわけでもないのに、全ての人のチャンネルが一斉に入ってくる。 まるで一つの部屋で話してるかのように。


「あいつらが何を言ってるのかさっぱりわからない。 と言うか、あれには生物が乗っているのか?」


 ライルは、破壊したエターの事を思い出していた。


「どうした、ライル? 息が上がっているが、どこか具合でも悪いのか?」


「大丈夫だ。 ちょっと気分が悪いだけだ」



「Answer! New model

Answer!」


 ギエンは相談してるようで全く答えようとしない、ライル達を脅した。


「隊長! 奴らは何語を話しているんだ? 全く会話がわからん」


「あの言葉、普通に聞いたことがある。我々と同じ者が乗っているのか? 意味は俺もわからんがな」



「だぁもう! わかんないんだっての!」


『マスター翻訳いたします』


 突然ニフティーがしゃべり出す。


『聞こえるか、そこの新型のパイロット? お前たちがその機体を大人しく渡すのならば見逃してやる。 だが、交戦を望むのであればこちらも容赦はしない』


「どういう事だ? 向こうはこの機体を欲しているのか?」


「おい!ライル。お前その機体に女ものしているのか! ここは戦場だと言うのに」 


「いや、違う、俺以外乗っていない」


「ならその綺麗な女性の声はなんだ。 奴らの言葉を理解しているのか?」


『エター機より:答えろ、新型! お前がロスランを殺したのか? 』


 ロスラン? 何を言っているんだとライルは頭をひねったが、さっき破壊してしまった敵側の機械が頭をよぎる。まさか、あの破壊した機体の事を言っているのだろうか……



『再度、ルネディ機:どうなんだ? 

 答えろ!

 との内容です』


「やっぱりこれには何かが乗ってる……? まさか人って事は…… 」


「ライル、!おい、ライル! 聞いているのか! あいつら、緊迫してきている。 このまま無言はまずい。 その女性にこちらの意志を伝えてもらったらどうだ」


 そうか、その手があったかとライルはニフティーに確認する。 


「ニフティー。 俺たちの言葉を向こうに伝わるように会話する事は可能か?」


『可能です』


「なら、今から話す内容を向こうに伝えてくれ」


『了解しました』


 こうして、ライル達はニフティーを介して、質問に答えた。


『お前たちはいったい何なんだ? 何故攻撃してくる。 この機体を欲してるようだが、この機体とお前たちは何なんだ?

 あと、エター機、ロスランとは人の名前か?』


「ん? あの新型のパイロットは女か? これは交渉の決裂か。 なんともふざけた事を言って来るパイロットだ。 どうも我々は舐められているらしいな、ニギュー」


 艦隊からジトーも怒りをあらわにした。


「我々ギエン隊のエンブレムを知らない訳でもない。 あの連合軍のパイロット、おとぼけを披露して挑発をあおっているつもりか知りませんが、この回答にはひどく頭にきますね」


 また、エターに乗っていたニギューも怒りをあらわにしていた。


「あいつ、ロスランを殺っておいて、ロスランを名前かだと。 人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」


『と言っています』


 ニギューのエター1機がものすごいスピードで突っ込んでくる。 


「おい! なんだかめちゃくちゃ怒らせてるじゃないか! 何を言ったんだ!お前の女は」


「知るかよ。 とにかく逃げろ!ケイ」


 2人はライフルを乱射して突っ込んでくるエターの攻撃を何とか避ける。


「止めろ!ニギュー。 その新型はまだ未知数だ」


「知ったこっちゃありませんよ。 隊長。 こいつの態度には腹が立つ。 たかが新型一機に引けを取るギエン隊じゃないでしょ」


 現状はニギューが圧倒的に押している。 戦闘慣れしてるエターに対し、逃げまとう事で精一杯なライル達。


「ジトー、ニギューの援護をしてやれ」


「かしこまりました

 総員、エネルギー弾装填、 目標、新型機体、ミルミー連射レーザー砲、放てぇ!」


 戦艦から無数のレーザー砲が撃たれる。


「ライル!!」


 ニフティーに対しての集中砲火。 ライルは砂煙に包まれた。 流れ弾に当たったケイの機体は、ライルの元へ向かおうとした際、負荷がかかり、機械の部品が飛んだのか、足から崩れ落ち、脚部が動作を止めた。


「隊長!」


「この場合は仕方がない。 奪取できないのなら、破壊するほかあるまい。 これでL.S.E.E.Dにまた兵器が増えては殺戮の限りだ。 我々の選択は間違ってはいない。 撤収の準備をしろ」


 これで終わったとギエンは思ったが、突如戦艦から通信が入る。


「隊長! 機体の反応がまだあります」


「何だと!

 離れろ、ニギュー!」


 ニギューは急いで飛び退いたが、狙いを定めたニフティーのライフルが、エターの左足を貫通する。


「くそったれ」


 砂煙がはけ姿を現すニフティーの姿を見て、彼らは驚いた。


「ばかな! 無傷だと、ありえない、あれだけの砲撃を浴びたんだぞ。 この機体は理を逸脱している」


 あれだけのレーザー砲を撃たれて、ハチの巣にならない機体などない。 ましてやこの細かな砲撃を、全弾回避するなど誰であれ不可能だ。


「やはり、この機体は聞いていた通り…… いや、それ以上…… なんて恐ろしい兵器を作ったんだ連合政府の連中は」


 ニフティーは単機でギエン達に飛び込んだ。


「ジトー、狙え。 ニギューまだ動けるか」


「大丈夫です隊長」


「どうやら、新型も怒ったらしい。 だが、これは我々に与えられらた任務でもある。 悪く思うなよ新型。 片を付けるぞ」



 ニフティーの支持の元、第二の目を得たライルの反応は早い。 


「隊長、こいつ、俺たちの攻撃を簡単にかわす」


 ギエンは考えて戦ったが、単調な攻撃ではすべて、先読みをされているように交わされた。そして、ニギューの機体がライフル弾に被弾する。


「ニギュー大丈夫か」


「すみません、かすっただけです。まだいけます」


 かすった個所からは火花が上がっていた。 長期戦は無理か。ギエンはそう状況判断をした。2対1で戦っても、押されたギエン隊はギエン一人でニフティーとやり合う。


 このギエンもまた、新型の認を任せられるほど、腕の立つ男。 ニフティーに対し、何度か有利な状況を創り出してはいたが、いつの間にか、崩される。 しかし、動きの隙をついたギエンは無謀とも言う突進を行い、ニフティを岩壁に押し当てた、当然ニフティーのライフルは当たり片腕を損傷したが、ニフティーは隙だらけとなった。


「今だ、ジトー撃てぇ」


「デザート砲発射!」


 ルネディは高く空へ舞い上がると、オレンジ色の戦艦が、大きなレーザー砲を向け発射した。



 ライルは死を覚悟した。 まるで、周りの空間がゆっくりとなったような気がした。これが死ぬ前に見る光景なのか。 ライルにはどうする事も出来なかった。 ギエンの培ってきた、良く線もの戦場の経験がものを言った。


「フィールド・ファルス展開」


 その前に立ちふさがったのがケイだった。


「ケイ、……お前何してる。逃げろ、ケイ!」


 ケイの機体は、光る刀を構え、戦艦の砲撃を防いだ。 周りには何やら青白い幕が張っていた。 それと同時にケイの機体が溶け出す。


「無理だケイ、もう離れろ、 このままではお前が」


「その機体を壊したい何かが、向こうにはあるんだろ。 なら、なおさら今その機体を失う訳にはいかないだろ。 大丈夫、 俺のこのジンクスは特別製だ。 こんな攻撃なら抑えられる」


 ケイの機体はどんどんと外側から溶けていく。戦艦が撃った光線も収縮していく。


「ライル、一つお願いがある。 もしどこかの街に行く事になったら、……もしヤンって言う女性に合う事があったら、俺にくれた半分の賞金、それをそいつに渡してくれないか。 そいつ他にもたくさんの子どもの面倒をみてるんだ。 あと、エリと言う女の子もいたら、戦いの恐ろしさを話してやってくれ。 頼む」


「何ッ……いってんだよ、……、ケイ、そんなの自分で言えよ! ケイ!」


「もうじき光線が消える、ライルのその時がチャンスだ。 もう、俺のジンクスでもそれ以上は動けない。 機会を逃すな、ライル」


 ライルは強く操縦桿を握る。 光線が晴れた時、同時に、ジンクスが張っていた、青白い幕も消え、ケイの機体は消滅した。跡形も残ることは無く、液体として消えてしまった。



「うをぉぉぉぉぉっ」


 ライルはエネルギーライフルを手あたり次第乱射した。


「隊長、まだ生きています」


「バカな、戦艦を撃ち落すほどのエネルギー砲だぞ、なぜ沈まんのだ」


 ギエンはこんな時だからこそ冷静に戦況を分析した。 それは的確な判断だった。


「ジトー回収しろ。 一度撤退する」


「隊長!目の前に、敵と対象物がいるんですよ」


「あれは無傷だ。 何度やってもこちらが消耗する。 一度体制を立て直す」



 ニギューはくやしさを堪えてルネディを抱えると戦艦へと退避していった。


 しかし、そんな姿をライルは許しはしない。 


「逃がすかよ!!」


 ライルはライフル撃ちまくった。


「隊長撃ってきます」


 ジトーは援護射撃を行い、ミルミー砲がライルの視界を遮った。 砲撃が止むと敵の姿は無かった。



「ちくしょぉぉぉおぉ!」


 戦場で残ったのはライルだけだった。 この意味の分からない戦いでジンクスはすべてが残骸としてその場に立ち尽くしていた。 もう二度と動くとは無い。

ライルの叫び声だけが響き渡った。



 ライルは自分のファクトリーに戻った。


「ライル! 無事だったのか!」


 血相を変えて出てくるロデル達。 イワンが震えながら聞いた。


「あ、あ、あいつらはどうなったな。 倒したのか?」


「いや、逃げたよ」


「ライル!」


 クレイドが走ってライルの元へとやって来る。 


「大丈夫? 怪我してない? !? ライル?、具合が悪いの?」


「あぁ、大丈夫、 ちょっと気分が悪いだけだ。どこもケガはしてないよ。 ちょっとベッドで横になる」


「ライル……」


 ライルが体を壁伝えに寄りかかりながら歩いていく姿に、クレイドは見ていられず肩を貸した。


「でも、これ、……ほとんど、無傷じゃねぇか?」


 ロデオはライルの乗って帰ってきた機体を見て、違和感しか感じなかった。ただでさえ、あのネクスト集団ですら太刀打ちできなかった兵器を持った相手に、こんなに綺麗な状態で帰ってくるのだから。


「はぁ?何言ってんだよ。 めっちゃ傷だらけじゃねぇか。 こことか、こことか、いっぱい傷はいってやがんじゃん。深い傷がよ。 新車だろこれ、勿体ねぇ」


「そう言う事言ってんじゃねぇだよ。 バカが。 大体車と一緒にするな」


 イワンはロデルに怒られていた。


 ライルは一人、ベッドで蹲って泣いていた。 言いようのない気持ち悪さと、戦場で失った、数少ない友との悲しみ、そして犠牲にさせてしまった、自分の不甲斐なさに、心底自分を責めて苦しんだ。



 朝――――。



「ライル!起きたんだね」


 嬉しそうに声をかけたのはクレイドだった。 丁度皆、朝食の支度をしてテーブルに並べている最中だった。


「おい! ライル感心したぞ。クレイドちゃん。 朝飯までこんなに上手いとはな。 機械にも詳しくて、こんな出来た子はいないぞ。 お前には勿体ねぇ。 大事にしろよな」


 ロデオは相変わらずおっさんめいた事を言う。


「所で聞かせてくれよ。 昨日のお前の勇士話をよっ」


 イワンが軽く発した言葉がライルの表情を曇らせる。


「あれ? 俺なんか悪いこと言ったか」


「イワンのあほぅが」


「さ、ささ。 ライルも朝御飯にしょ! 昨日ライルが優勝してくれたおかげで、たんまり食えるんだから!」


 クレイドは気を使って、その場の空気からライルを救い出そうと、話題を変えた。



「それじゃあ、皆揃ったところでいただきます」


 ロデルの合図と一緒に、皆は手を合わせて声をそろえる。


「俺、街に食料配りに行って来る」


 食事を終わらせたライルはそのまま席を立った。


「あっ、待って、私も行く!」


 クレイドは大慌てで、ライルの後を追った。 


「あ、ロデル! あれ、よろしくね」


 クレイドは出かけざま、笑顔で申し訳なさそうに手を合わせロデルにお願い事をしていた。


「おう、おう、任せとけって。 悪いな、ライルを頼むわ」


 ロデルは優しい笑顔で彼女を送り出した。


「何でぃあの二人。 イチャイチャしちゃってさ」


「お前はもっと気を使え! バカが。 戦場に出るってのはな、胸張って話せるほどすごい事して来てる訳じゃねぇんだよ」


 イワンは少し自分の行動が考え無しだった事に、反省した。


「でも、クレイドちゃんなんか、飯も残して出て行っちゃってさ。 そんなに慌てて行く事か?」


「本当にあの子は、いい子だよ。全く。 ライルよりも、よっぽどクレイドちゃんの方が心配になるわ」


「なんだ、ロデル。 お前その年でクレイドちゃん狙ってるのか? それは無理だぞ」


「イワン、そう言う所だぞ。  次言ったら殴る」



 街を何軒か回り、食料も半分ほど配り終えた後、ライルはジープを降りると、1人でに歩いて休憩した。まるで黄昏るよに、意志もなく彷徨う亡霊のように。


 クレイドは、そっとライルの横に座った。 決して彼女は何も言わない。 2人はしばらく外を眺めていた。




 ロデルとイワンが食事を片付けた時、突然激しく玄関の扉が開いた。 


「な、何ごとだ!」


 異変に気づいたロデルが振り返ると、複数のスーツを着た男たちが銃を突きつけ、入ってきていた。 軍隊並みの数に驚きを隠せない。


「ライル=ハレミ―はどこだ!? 答えないなら容赦はしない」


 ロデルたちは銃口を突き付けられた。


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