第18話 図書館でばったり④

 絶品ラーメン屋が食べれると噂のお店は、まだ開店三十分前だというのに列ができていた。


「並んでるね~」

「ですね。どうしますか?」

「このくらいなら待とうよ」

「分かりました」


 二人は列の最後尾に並んだ。二人の前には五人のお客が並んでいた。

 待っている間、正輝はさっきの本の続きを読もうと思って、カバンから本を取り出した。


「その本、面白い?」

「面白いですよ。今のところ」

「そっか。よかった~」


 真帆は嬉しそうに微笑むと、ショルダーバックから本を取り出した。


「真帆さんはどうですか?」

「面白いよ! さすが正輝君だね」

「よかったです」

 

 人に本をオススメした時はやっぱり心配になる。

 面白いと言ってもらえて、正輝も安心していた。きっと真帆も同じ気持ちなのだろう。

 開店時間まで残り三十分。本を読んでいたら、あっという間に過ぎるだろうな。

 正輝は本の続きを読み始めた。ちょうど、半分を過ぎたところだった。


「へぇ~。こんな展開になるのか」


 正輝はボソッと呟いた。


「今、どの辺なの?」

 

 真帆が、正輝の本を覗き込んだ。真帆の顔がすぐ近くにある。長い睫毛が上下に動いていた。

 正輝は少しだけ顔を真帆から離した。


「今、そこか~。そこから……」


 うんうん、と頷く真帆。その薄い唇を開いてネタバレを言いそうな気がしたので、正輝は先回りして、忠告をした。


「真帆さん。それ以上言うの禁止です」

「え~。言いたい!」

「ダメです。ネタバレしたら怒りますよ」

「それは、嫌! 正輝君に嫌われたくない」

「嫌いにはならないですけど。とにかく、ネタバレは禁止で」

「は~い」


 真帆は少し不満そうに口を閉じて、自分の本に視線を戻した。

 そうこうしているうちに、時間は過ぎ、いつの間にかラーメン屋は開店していた。前のお客に続いて二人は店の中に入っていった。

 店内に染み付いたラーメンのいい匂いが、お店の中に入った瞬間に正輝のお腹を鳴らさせた。

 店員に案内されて真帆と向かい合うような形でテーブル席に座った。


「どれにする?」

「とりあえず、僕は当店のオススメってやつにします。初めてですし」

「正輝君は無難なタイプだ。私は何にしようかな~」

 

 真帆はメニュー表を見ながら、どのラーメンにしようかと楽しそうに悩んでいた。

 

「これに決めた!」


 メニュー表の『担々麺』を指さした真帆。 

 二人のメニューが決まったので店員さんを呼んで注文をした。


「正輝君はラーメン好きなの?」

「好きですね。と言っても、普段は家でご飯作って食べるので、こうやってお店に来るのはたまにですけど」

「そうなんだ。じゃあ、一緒にラーメン屋回らない?」

「お母さんが仕事でいない時ならいいですよ」

「やった! そういえば、正輝君はお母さんと二人暮らしなの?」

「ですね。両親は数年前に離婚して、僕はお母さんと一緒にあの家に残りました」

「そっか」


 真帆が心配そうな顔で正輝のことを見ていた。

 別に真帆に心配されるほど、正輝たちは苦労していない。二人で、ちゃんとうまくやっている。


「私に手伝えることがあったら何でも言ってね」

「……はい」 


 真帆があまりにも心配そうな瞳で見つめてくるので、正輝は頷いてしまった。

 ちょうど、そこで注文していたラーメンが二人の前に運ばれてきた。


「うわ~。美味しそう~」

「ですね」

「正輝君のラーメンもちょっとちょうだい~。私のもあげるから!」

「いいですよ。交換しましょう」


 お互いのラーメンを小皿に取り分けて交換した。

 正輝は真帆からもらった『担々麺』から食べることにした。


「辛い。よくこんなに辛いの食べれますね」

「えー。全然辛くないよー」


 真帆は何ともないといった感じで『担々麺』をするすると啜っていった。

 辛い物得意なんだな。

 正輝は『担々麺』一口だけ食べて残すと、自分のラーメンを食べることにした。


「いらないの?」

「すみません。食べれなそうです」

「じゃあ、私がもらってもいい?」

「え……」


 正輝が返事をする前に、真帆は正輝が残した『担々麺』を完食してしまった。 

 正輝はそれをポカンと口を開けてみていた。


「なんでそんな間抜けな顔してるの?」

「だって……」

「もしかして、間接キス、気にしてるの?」

「……」


 正輝は真帆から視線を逸らした。


「恥ずかしがっちゃて、可愛い」

「もう、からかわないでください!」


 真帆は恥ずかしがる正輝のことを見て愉快に笑っていた。

 正輝は頬を膨らませてラーメンを啜った。

 噂通り、当店のオススメラーメンは絶品だった。


 

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隣の椎名さんは距離感が近い!(仮) 夜空 星龍 @kugaryuu

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