もゆ

 キィ、キィと音が聞こえた。

「錆びついてきちゃったみたいだね。うるさいでしょう? ごめんね、油を差さないといけないかな」

 ごめんね、と謝るのはぼくのほうだ。きみにいつも迷惑をかけてばかりで。


 とてもとても暑くて、きみは苦しそうだった。

 ぼくは気づいているんだよ。きみの腕がだんだんと細くなっていることにも。


「ねえ、もうぼくを置いて行ってくれ」

 ぼくは君の足手まといにしかならない。


 きみが立ち止まって、ぼくも止まる。


「わたしは」


 その時、急にそらが暗くなって、たくさんの水が降ってきた。

 きみは駆け出す。


 ぼろぼろの建物の中。

「きれいにしてくるから待っててね」


 きみは駆け出す。

 背中を見送ることしかできないぼく。


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