[間奏]壊レタ世界ノ歌(前)

 *壊レタ世界ノ歌

 NieR:Automataの名曲。作中には登場しないので、聴きながら読みやがれです。


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 ハア……ハア……ハア。



 弓張月が路地裏を照らしている。

 やや冷たい風が上気した頬の熱を攫っていくのに任せて、荒い息を整えようとするも落ち着く様子は無かった。


 ハア……ハア……しつこいんだよ…。


 未だに諦める様子を見せない複数の足音は、身を潜めた路地裏にあってもよく聞こえた。

 見つかるのも時間の問題だろう。その先の自分がどうなるかの未来なんて簡単に予測がつく。生娘でもないし複数プレイも経験済みだが、嫌なものは嫌だ。生理的に受け付けない相手とはどう考えても無理!

 とは言え、現状打てる手は無いに等しい。

 女の腕力では勝てない。特に武芸に秀でてる訳でもない。救援要請は遅きに失した。

 残る手段は逃げるしかないんだけど、これ以上走れる気がしないし……駄目だな、詰んでるなワタシ。


「ハア」

「にゃあー」


 溜め息に被せるように足元で猫が鳴いた。

 白い体毛に黒の斑模様だ。瞳孔が細く、口元が大きく開いている。どうやら怒ってるらしい。飛びかかられる五秒前って感じだ。


「もしかしてアンタの縄張り?」


 返ってきたのは唸り声。泣きたくなってきた。ナンパ野郎に追われ、挙げ句、野良猫に威嚇されるとは。

 ガヤガヤと喚き声が近くなる。続けて何かを蹴飛ばすような音。多分、ゴミ箱でも蹴ったんだろう。

 不穏な空気を察知してか、瞬時に駆けていき野良猫の姿はあっという間に見えなくなった。薄情者ーー!!


「みーつけた」


 振り向くとニヤニヤと下衆い顔を浮かべた三人組の男。吐く息は酒臭く佇まいからも真面でない事が窺い知れる。


「もう鬼ごっこは終わりかい?」

「次は俺達の遊びに付き合ってもらおうかな?」


 言いながら、内一人が乱暴にワタシの腕を掴んだ。


「嫌っ! 離せよっ!」


 三人が嗤う。加虐心が滲んでいる嗤いだった。


「そんな格好じゃ襲って下さいって言ってるようなもんだぞ」

「何本も咥えてるんだろ? 俺らにもお零れをくれよな、姉ちゃん」

「あんまりギャギャー騒ぐと此処でやっちまうぞ、ヘャハハハ!!」


 好き勝手言いやがって。こんな格好してるのは仕事の為だよ!

 せめてもの抵抗として睨んでみせるが、全く意に介してない。それどころか更に調子づく始末。


「うっひょー美人が睨むと唆るねえー」

「生意気な雌を屈服させるのは雄の義務。楽しめそう」

「おいおい、前みたいに速攻で壊すなよー」


 こいつらは慣れている。こうやって女を追い掛けるのは初めてではないのだろう。

「最近、ここいらも物騒だし女の子達は全員、送るからね」と言った店側の申し出を家が近いからって理由で断った自分を呪いたい。左右の腕を掴まれ、足を踏ん張ってみるも何の抵抗にもならずに引き摺られてしまう。


 もう、無理だ。


 そう思った時にゴウッと風切り音が耳元を横切り、続けてゴンッと音がして左腕を掴んでいた男が悲鳴をあげたのと地面に落ちたビール瓶が割れたのは同時だった。

 どうやら飛んできたのはこれだったようだ。

 散乱した破片に血が付着している。

 蹲った男の頭からは結構な血が流れているようだ。思考が追いつかない。疑問符だけが脳裏を覆い尽くし力が抜けたように、ペタンとアスファルトに座り込んでしまった。


 闇に顔が浮かび上がる。

 真っ白い生気を失った顔、けれど整った顔だった。それだけに異質さが際立つ。

 声にならない声が喉奥で鳴り、身体が震えた。人は未知なるものに原初の恐怖を感じるという、ワタシが体験しているのは正にそれで自らの意思で止めようもなく、ただただ震えた。


「まるで幽霊でも見たような顔だな」


 さながら闇が削れたように、若い男が全身を現す。それがワタシと八坂 裕也とのファーストインプレッションであった。


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 お待たせ致しました。

 再開です。が、まだ忙殺されてまして次の更新は何時になると約束出来ないのが悲しいとこです。ぴえん。

 時系列的には美桜と別れ、彩花と出会うまでの話になります。伏線を少し挿入したかったので、間奏という形にしました。


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