第四幕!私が大活躍するの巻だ!

 サンチョ博士とアレン先生は、お互いの嫌悪感を込めた握手をした後、ピラミッドに乗り込むべく潜入の準備をしていた。


「いいか、ウンコ先生!決して私たちが邪神のエネルギーを抽出して、新たなエネルギーにしようとしてるだけなんて敵に察知されるなよ!」

「お前だけじゃ!お主こそ封印を最優先だと忘れるでないぞ!!」


「はいはい」という生返事を呼び水に、博士の独り言が始まった。


「それにしても封印を一段階解いただけで、英雄視とは、私としてはただ邪神のエネルギーが欲しかっただけなのに、今度そのビジネスでもやってみるか?!」


「聞こえてるぞ」と博士とドンキホーテが、釘をさす、「冗談だよ、親友!」と、冷や汗をかきながらサンチョ博士はいう。

 しかしサンチョ博士の軽口は終わらない。


「それにしても海の民とやらはバカだよなぁ私が、ただ単にエネルギーが欲しいだけなんて知らずに私を担ぎあげちゃってさ!全く愉快だなドンキホーテ!」

「なあ…ちなみなんだけどさ、海の民の特徴教えてくれないか博士?」


 藪から棒になんだろうと、博士は不思議がったが、ドンキホーテに教えてやった。友達だし、アレン先生じゃないから。


「顔はタコと、クラゲの触手みたいなのまみれで、体は人間で水陸両用だ、あ、わかるか?水陸両用の意味、猫はわからないだろう?あとスッゲーバカみたいな布切れを身につけてる。知能は高い、人間の言葉なら全部聞き取れて理解できるんじゃないか?なにせバベルの塔の出来事を経験しなかったなんて言われる種族だ。で?そのうみんちゅがどうした?」

「あー二人とも悪いニュースと悪いニュースがあるんだけど、どっちが聞きたい?」


 ドンキホーテの問いにアレン先生もサンチョ博士もピラミッドを見つめながら笑う。「どっちも同じだ」

 と。


「じゃあ悪いニュース一つ目だ。あーさっきの会話まるごと聞かれてたみたいだ」


 そして二つ目と、ドンキホーテは指を二本立てる。


「気配からして囲まれているぜ。」


 瞬間、博士にもわかる。ちょうど両手の指で数えられるほどの敵の数の気配。

 ドンキホーテはすぐさま二人の服を掴み投げ飛ばす「行け!ここは任せろ」とウインクしながら。

 その行動にサンチョ博士は涙した、そんな…ドンキホーテ自ら犠牲にと、しかしドンキホーテの強さはサンチョ博士も嫌という程知っている。

 ここはドンキホーテを、信じ嫌いなアレン先生と共に、先に行くことにした。これはアレン先生のためではない!ドンキホーテのためだと心の中で叫びながら。

 アレン先生もドンキホーテの部分だけ同じ気持ちでピラミッドに向かう。

 幸い装置を間近で見たいとドンキホーテ達にせがまれる妄想を博士はしていたため、ピラミッドの元にまで空気の巨大なトンネルは続いていた。

 そしてこれまた幸い、ピラミッドの周りにも空気はある。それもその通りだ博士はピラミッドの周りに空気を定着させて装置を取り付けたのだから。

 そのトンネルの中サンチョ博士は思いっきり叫ぶ。


「いけ!英雄、頼んだぞ!あのピラミッドの装置は私達がなんとかする!」


 アレン先生に引っ張られていく、サンチョ博士。ドンキホーテはその友の熱い声援に耳に届く、ドンキホーテはハッと振り返り言った。


「あーちょっと待ってくれぇこれはなんていうか英雄じゃあないなぁ…なんというか自分たちの蒔いた種を摘み取ってるようなどっちかっていうと農家じゃねぇか?!!」

「この際どっちでもいい、いいから頼むぞ!」


 アレン先生の言葉は、再びドンキホーテの耳に届く、ドンキホーテは剣の峰で海の民を気絶させながら、応えた。


「英雄じゃあねんだよなぁ」


 いい加減しつこい。いつのまにか英雄か英雄じゃないかみたいな話になっていた。サンチョ博士は叫ぶ。


「どっちでもいい!お前は英雄マニアか?!英雄オタクか?!」

「どっちでもねぇよ!英雄が好きだからさ、こういう時にそう言われるとなんか腑に落ちなくてよう…」


 と木霊のように帰ってきた。


「わかるわかるぞ友よ、その気持ちはなんかいい例が思いつかないがわかる!」


 この回答はその悲痛な木霊に寄り添えているのか甚だ疑問だがドンキホーテは気が晴れたのか、襲いかかる海の民をシバきながらいう。


「ありがとう…博士」


 なんか消え入りそうな、いわゆる死にに行くようなセリフをドンキホーテがほざいたため、思わず博士は振り返る、ドンキホーテの戦場を、振り返る。

 いつのまにか、ドンキホーテの目の前には、あくまでも博士の予測ではあるが、とてもじゃないが、ドンキホーテに対処できないのではないか、という量の敵が襲いかかっていた。

 あんぐりと口を開けて博士がいう。


「ていうか!いつのまにか敵増えてないか!?えーともう!全部の指使っても数えきれんぞ!」


 アレン先生は本当に天才かどうか疑いたくなる計算方法をしているサンチョに呼びかける。


「なんでお主はそう局所的に本当の阿呆になる!ドンキホーテが命をかけておるのだぞ!ささっと装置を解除して封印を掛け直しておさらばじゃ!」

「いやだ!いくらなんでもドンキホーテが死んでしまう!唯一のワシの親友だぞクソ猫!いや、今は猫じゃないか…とにかく!ワシはドンキホーテの援護に…」


 しかし動かなくなっていくのはドンキホーテではなく敵の方であった、数の差など物ともせず海の民をのしている。


「いやぁ、なんか、その、要らんみたいだ、ほら今!目があってウインクされたあいつ本当に英雄だよ!!」


 ハッとドンキホーテは振り返る。


「だからぁ!英雄じゃあ無いってええ!」


 その大声に誘われてさらに海の民の援軍が押し寄せる。流石に余裕をかましすぎだとサンチョ博士は目を瞑り叫ぶ、おそらく次に目を開けば親友の惨たらしい死体が…


「お前は本当に英雄馬鹿か!!なんでそんなピンポイントで英雄の単語拾えんだよ!しかもこんな遠くで多勢に無勢の状況で!!いや…?結構、勝ってる?マジかよドンキホーテお前は英ゆ、化け物だ!」

「ありがとうそれならしっくりくるよ!」


 とにかく納得したならいい、これ以上叫ぶと逆に負担が増えそうだ。とりあえずサンチョはもう振り返ることはせず。


「ドンキホーテは大丈夫そうだが、とにかく速く封印をしないとな!!!」


 とピラミッドを、アレン先生と共に駆け上っていく、どうやらピラミッドの警備兵も、先ほどのドンキホーテの騒動に合流しに行ったらしい。

 アレン先生も駆け上がりながら珍しく、主張があったと皮肉げに笑う。


「ああ、ドンキホーテも無限に戦えるわけではないからのぅ!いかに英ゆ、化け物的な強さだとしても!」

「そうだな、いかに英雄、とは程遠く!まったくもって良心のかけらもない残虐非道な化け物じみた強さだとしてもおお!」


「言いすぎだぞ!!!」


「ごめんて…」と思わず立ち止まり謝る。

 英雄と呼ばないために努力したのにあんまりである。




 そんな精神的な障害を、乗り越えついに、ピラミッドの頂点あの怪しい巨大な装置の接続端末のようなものが刺さっていた。


 アレン先生が早速封印の状況を調べる。


「さあ!サッサッと封印を仕掛け直すぞ!こりゃまた随分と無理やり接続したのぅ…すぐに抜いたらーー」


 サンチョ博士が装置を抜く


「は?」


 アレン先生は腹の底から困惑の一文字を捻り出す。

 機械から真っ青な水晶が落ちてきて、サンチョ博士は危なげに、それをキャッチする。

 どうやらそれが抽出した邪神エネルギーとやらのようだ。呆然としているアレン先生を水晶越しに見て、まるで信じらないというように、博士は言う。


「は?おい何してるすぐに抜いたぞ?」


 その言葉に、アレン先生の混乱はマグマのような怒りに変わる。


「アホか!?すぐに抜いたら危険じゃって言おうとしたのじゃ!」


「おま!クソ猫!すぐ抜いたらお前が一瞬で封印を仕掛け直すって段取りだと思ってたぞ!?」

「流れを読め!流れを!そういう雰囲氣の話ではなかったろ!?」

「お前がサッサッとなんて言わなければ私だって焦らなかったさ!大体!私は嫌いな相手の話は左から右に流れていくタイプでね!ハッ!!!」

「上等じゃ!その片方の耳ぶっ潰して頭の中に嫌でもとどめさせてやる!!」

「はっ!比喩表現もわからんか低脳な猫め!」

「無能!」

「お、おぎゃああ!それ奉公先で言われて一番、傷ついた言葉!!それをピンポイントで選ぶとは!今ちょっと下積み時代、思い出して泣きそうだぞ!さすが私の天敵、油断ならんな!」

「そろそろ終わったか?」


 そんな醜い争いの中、ドンキホーテの、声が間近でした。


「そんなわけあるか今絶賛こいつを消そうと…は?!ドンキホーテどうした!?」


 博士は振り返るとそこに親友がいた。これには流石の博士も驚いた。


「いやぁ…マジで言いにくいんだがなその、一人何度、剣の峰でぶっ叩いても立ち上がってくる海の民がいて、その殺さないようにぶっ叩いてて気絶させようとしてたら、すごいなんか痛ぶってるみたいになっちゃってさ」


 ドンキホーテは遠い目をする。


「そいつなんか一族の最年少戦士だったみたいなんだよ、それでそいつの恋仲の娘らしき海の民が来てさ、言うんだ、言葉のわからない俺でもわかったよ「もう戦いはやめよう」って言ってた俺たちは、いつのまにかハグしてたんだ…」


 なんだその阿呆らしい展開…


「じゃあそのもう、海の民とは和解したのかのぅ?」


 アレン先生は引きつった顔で笑う。ドンキホーテは希望を持った、笑顔でいう

 

「ああ!バッチリだぜ!もう戦わないってさ神様でも殺さない限り!」


「まあ言葉なんてわからないけどな!」ドンキホーテの言葉に、はっはっはっ3人は笑い合う。


「なあところでさ、サンチョ博士!アレン先生!くだらない喧嘩してるってことはもう、封印は成功したんだな!」


 アレン先生とサンチョ博士は顔を見合わせて、いう。

「いやのぅ…」

「それが…失敗した」


「こいつのせいで…」二人はお互いを指を指す、ドンキホーテはもう「ああ…これは俺の責任かもな」と頭を抑え空、いやここは海の水面を、見上げる。


 その瞬間であった、魔方陣が浮かび上がり、全部ぶっ壊れたのだ。


 3人に影が覆いかぶさる。ドンキホーテはその姿をまじまじと見た。顔には巨大な穴がいくつも空いており、体は人間の胎児のようなもので、でっぷり太ってあり背中にはコウモリの翼が生えていた。


 もうだめだ、最後の発明品をサンチョ博士は見つめていた。その時、博士は走馬灯をみた。一説によれば走馬灯を見るのは記憶から生存に、有利な情報を見つけるためだという。

 サンチョ博士は水晶を、抽出した邪神エネルギーを見て思う。そして自身の言葉を思い出した。


 ――今破壊したら、強力なエネルギー故、暴走、爆発してしまうぞ!


「ウンコ…」

「なんじゃカス…?」


 最後の瞬間がお前となんて嫌だ、水晶をアレン先生に見せる、珍しく今日は主張が合うとアレン先生はほくそ笑んだ。


 サンチョ博士は危険なエネルギーの、塊である水晶を邪神に投げつける。邪神はそれを自身の一部だと認識したのか、恐らく口であろう多数の巨大な穴の中に水晶を取り込んだ。


 アレン先生は集中する恐らく邪神といえど人間の体の構造をしているのなら今あの水晶が通っているのはあそこだと、光線の魔法が邪神の喉らしき器官を潰す。

 そしてどうやら、水晶にクリーンヒットしたようで、水晶の中のエネルギーは暴走。


 邪神は体の内側で爆発が起こり、そのまま生き絶えた。



「なあ今のって…」


 あっさり倒された、邪神を見てドンキホーテはいう。


「喜べ世界を救えたのぅ…!」


 猫の姿に戻り息も絶え絶えなアレン先生。


「ああじゃあ逃げるか…!」


 と同じく息を絶やしているサンチョ博士。


 ――全く肝心な時には息が合うだからなぁ…


 ドンキホーテは二人を抱え、ピラミッドに背を向け逃げた。勝利の栄光とは程遠い謎の達成感と疲労感をその身に覚えながら。





こうして帰ってきて早々に、博士とアレン先生は喧嘩をしているというわけだ、まあでも止める必要もないとドンキホーテは思った、いずれ疲れて止めるだろう。


ともかくこれがサンチョ博士とドンキホーテそしてアレン先生の日常なのである。

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