第16話 唐突に開かれた距離
アルトは帰宅早々に同居人が家の玄関前で3人揃って倒れているという予想外の事態に困惑していた。
「状況がよく呑み込めないのですが、とりあえずただいまですロベルトさん」
この瞬間クレアの中で心に亀裂が入るのを感じた。いつもであれば真っ先に
(ま、まあアレだ。ロベルト達も言ってたように告白を断られた手前、最初に私に話しかけるのは中々気まずいのだろう)
クレアはパニックになりかける自分の心をなんとか言い訳をして落ち着こうとした。
「セルレアさん、ロイさんもただいまです」
「ああ…うん、お帰りアルト」
「その…特に怪我等もされてないみたいで安心しました」
2人は返事をしながらチラチラとクレアの方を心配するように確認する。
頭では分かっていても基本何においても
「それでは僕は一旦部屋に戻りますね」
「ちょっとまて!」
これまでは順番的に仕方ないと思い『流石に最後には自分にも話しかけてくれるだろう』と考えていたのもあって何とか耐えていたクレアであったが、後回しではなく本格的にスルーされるとなればとても静観することなどできず自ら話しかけた。
「その…私の事を忘れているんじゃないかアルト」
「え?ああ、すいません。居ることに気付きませんでした」
ほぼ目の前にいたにも関わらず認識されていなかった事を告げられてクレアは言葉一つで気絶しかける程のダメージが彼女の心を襲おい彼女の
「ま、まあ視界が狭くなる時もあるよな。たまに」
「そうですね、今度から気を付けます。フォートレスさん」
いつもの母さん呼びや
これまでアルトの中で間違いなく大きかったであろう自分の存在彼女がまるでその他大勢の内1人みたいに扱われたように感じ、その呼び方は他者からのどんな罵倒よりも遥かに彼女の心を抉る一言となった。
(あ、あり、ありえ、ありえナイ。コンナノウサダ。ウソニキマッテル。ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ)
これまでの経験からちょっとそっとではビクともしない鋼鉄の鋼の
目の前で自分に向けて送られた言葉をまるで受け止めきれず現実逃避するクレアだったが彼女の心を粉砕せんとばかりに与えられる例えようもなく継続し続ける胸の痛みが現実なのだと否が応でも突きつけられた。
「それでは今度こそ僕は部屋に戻りますね」
立ち去ろうとするアルトを必死に呼び止めようとするも彼女の人生の中でのショッキングな出来事がまさに今連続更新され、そのかつてない精神ダメージによって僅かも声が出せず、何とか手を伸ばすも届かず、支えるのがやっとだった両足も限界を超えた事により支えきれなくなって前のめりに倒れた。
(マテ、マッテクレ。ワタシハ、ワタシハ…)
軽やかな足取りで部屋に戻ろうと彼にクレアの悲痛な叫びは届かず、アルトは振り向く事なくその場を立ち去った。
アルトのいつもとはかけ離れた対応や微妙な表情の違いなどから色々とアルトに思うところのある勇者パーティーだったが、それよりも今まさに打ち上げられた魚の如く身体を震わせながらも1歩動けず、死んだ魚のように白目を向いて声にならない声で泣くクレアが否応なしに視界に入った。
その哀れすぎる姿に同情を抱くものの、今下手に声をかけてクレアに絡まれたら八つ当たりか1日以上夜通しで愚痴を聞く羽目になって今のクレアと同じか或いはそれ以上に過酷な状態になるのを危惧した3人はクレアに罪悪感を感じるも藪蛇を突かないようにと音を立てないように慎重かつ素早くその場を後にした。
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