第14話 現実見ましょう

「それでようやく本題なのだがアルトをどう慰めればいいと思う」


(そもそもクレアさんが慰めること自体がアウトな気がする)


「それよりもクレアさんはこれからアルトとどう向き合っていくかを考えておいた方がいいと思いますよ」

「どういう意味だ?」

「クレアさんの言っていたおはようからお休みまでなどの日常はこれから基本出来なくなると思った方がいいですよ」

「おいロベルト。何の確証もない実現不可避なふざけた話で人を不快この上ない気分に害するじゃない」


(ここまで絶対に実現しないと言い切れるのはある意味すごい)


「なら一つ聞きますけど普通振られた相手と今まで通りの関係を築けると思いますか?今までと同じ態度を取り続けられると?」

「…」


 クレアは一瞬フリーズした。常識的に考えるとロベルトの言うことが正しいと思ってしまったからである。しかし当然ながらそんなことは認めることができないクレアは抵抗する。


「ア、アルトなら大丈夫なんじゃ…」

「アルトだからこそ僕は無理だと思います。あの子はとても繊細な子ですし、何より一番大好きなクレアさんから相手にされなかったと考えたら今まで通りが無理なの当然として…もしかしたらしばらく目も合わせてもらえませんかもね」


 アルトの育ての親として長年アルトを見てきた母の立場からしてもロベルトの指摘した通りアルトが優しい反面繊細で傷つきやすい子なのはクレアもよく理解していたため反論する言葉が見つからないが、それでも認めたくないクレアは必死にその事実から目をそらす。


「はははは。じょ、冗談が面白くないぞロベルト。私をからかおうと噓を言っているのであろう」

「残念ながら冗談ではありません」

「…う、噓だ。頼むから冗談だと言ってくれ。な?」


 ロベルトに指摘されてからひきつった笑顔をしていたクレアだったが、今は何もかもすべて失う寸前の絶望の淵に立たされている人のような今にも泣きそうな顔をしながら訴えるものの、目を向けられたロイもセルレアも無言のまま顔を晒した。


「普通の告白でさえ勇気がいるというのに義母とはいえ育ての母への告白となると相当…それを考えるととても冗談とは」

「それじゃ何か、これからアルトからのおはようやお休みは無くなるかもしれないということか」

「かもというか…そもそも会話してくれるかも」


 クレアの顔色がみるみると青ざめていく。


「それじゃ朝のハグは」

「口も聞いてくれなかったらそれ以上はまず無理でしょう」

「なら昼のハグも」

「朝が無理なら昼も無理です」


 わずかな希望を探して必死に食らいつこうとするもロベルトによってそれらの可能性はあっさりと切り捨てられる。


「アルトが泣きながらホームか飛び出していったことを考えてもダメージが大きいのは明らかやからな。普段より多少ギクシャクするどころかもしかしたら『もうお母さん嫌い!』って言われるかもしれへんな」

「き、嫌い!アルトが…私を…嫌い?」


(そんなことはない。あるはずがないしあってはならない!あの子が私を嫌うはずが…ないよな?ないよな?)


 自分に必死に言い聞かせようとするものの口でこそ批判していたがロベルトの発言を内心では否定しきれず不安は募っていき、疑心暗鬼の心を吹き飛ばす為に今までの笑いかけてくれたアルトの姿を想像した。


『母さん』


(アルト…)


 自分に微笑んでくれるアルトのその姿だけでクレアは精神的になんとか立ち直ろうとしていた。しかし、


『僕もうお母さん嫌い』


 精神的不安定さからかクレアはロイに指摘された最悪のケースを想像してしまった。それによって彼女の心はガラス細工の様に簡単に砕け散った。


(アルトガワタシヲキライ?ソンナワケナイ。ウソダ、ウソダ、ウソダ!)


「イヤーーー!!」


 またしても精神崩壊を起こしたクレアによって彼女の悲痛な叫び声が再びホーム全体に響き渡った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る