第6話 初武装
「一休みしよう」
「は、い」
影井さんの事を紳士的と思ったのは気のせいだったみたいね。中学1年生の女の子に手加減なくこんな山登りさせるなんて。実際整備されていない獣道を登るというのがこんなに体力いるなんて知らないんだもの。そ、そりゃ倒木があれば手を引いてくれたし、荷物だって持ってもらっているけれど、もうそういうレベルじゃないわよこれは。文明人のすることじゃ……、そうだったわ。もう文明人でいられないんだったわね。
休憩中のあたしの思考を分かっているように影井さんはサポートをしてくれているわ。山道の歩き方、ちょっとした体の休め方、細かい事が多いけれど本の虫で文芸部に所属しているあたしが知らない事を少しずつ教えてくれている。や、やっぱり紳士なのかしら……。
「さっきチラッと岩場が見えたからね。多分そこからなら遠くまで見える。そしたら……」
影井さんがとりあえずの行動方針を説明してくれるけど、そこまであたしの足が動くかしら。
「体力的に大変だとは思うけど、頑張って。これが日本の山ならここで待たせるんだけど、ここでは何が起きるか分からないから一緒に居た方が良いと思うからね。それにとりあえずの移動目標を見つけてから今日寝る場所の確保もしないとだし、文芸部所属の華さんとしては辛いだろうけど水場を確保できるまでは頑張って」
そう言いながら影井さんは近くにある竹のような植物を”鉈(影井さんが手にしている刃物の事を歩きながら教えてくれたのよね。本来は薪割りやブッシュを切り開いたり小ぶりの木を切り倒すのにつかうそう”)で切りだしているわね。あ、今度はリュックから折り畳み式のノコギリを取り出して切ってるわ。何を作っているのかしら。
「はい、これ持ってね」
しばらく待っていたら影井さんは、2本の竹みたいな、いえもう竹で良いわね。竹で作った長さの違う棒を渡してきたわ。
「これは?」
あたしが聞くとふふっと笑って説明をしてくれたわ。あら笑うと随分と若く見えるわね。20代前半と言っても通りそうだわ。
「こっちは杖だよ。山歩きではこれがあるだけで随分楽になるからね。もう1つの長いほうは、杖兼槍ね。長さとしては、まだ森の中だから取り回しと、あと華さんの体力を考慮していわゆる短槍にしてある。あ、槍だからと言って無理に刺そうとしなくていいからね。あまり知られていないけど槍ってのは突いてよし、振って殴ってよしの武器だからね。ただ、基本的には少し振り回して牽制に使うのを前提にしてね。使わずに済めばいいけど、念のために持っていて。あともし使う事になって突いた時に抜けなかったら無理に抜こうとしないで手を離してね。振り回されると危ないから。それとこれを」
そういうと次は竹を細長く割ったものをあたしの足と腕に巻きつけてきたのよね。これっていわゆる防具かしら。つまり、ここを休憩場所に選んだ理由にはこれもあるってことね。
「本当はボディを守れるものまで作れると良いんだけど、今はこれで我慢して。無いよりはマシだし、このくらいなら動きにくいってことはないでしょ」
「あ、ありがとうございます」
「いや、もう私たちはバディだからね。華さんの安全は私の安全でもあるから」
そういうと、今度はあたしに渡した槍と同じようなものを2本と何か細い部分で槍を30センチくらいに短くしたものを10本くらい作ってベルトに差したわ。あれも武器かしら。そして影井さん自身も手足に細長く割った竹を巻き付けてるわね。異世界ファンタジー小説ではこんなの出てこなかったからちょっと新鮮だわ。
「じゃあ、あとひと踏ん張りで見晴らしのいい場所に着くから頑張ろう」
影井さんの掛け声であたし達はまた山登りのスタートね。頑張るわ。
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