第7ステージ 押しかけはお門違い!?②

 自分の大学で、同志・あずみちゃんに会うなんて思ってもいなかった。


「ここがハレさんの大学なんですね~」


 道も知らないはずなのに、俺より先に大学内を歩く。見ただけで、なんだか嬉しそうだとわかる。

 突然の来訪であったが、俺に文句を言う資格もなかった。だって、俺も突然押しかけたことがあったのだ。武道館ライブのチケットを取る前、連絡のつかなくなった彼女に会うため、いきなり彼女の大学に訪れ、あずみちゃんを説得した。

 あの行動のおかげであずみちゃんと仲直り?できたので、したことの後悔はしていない。だが、あの時のあずみちゃんも今の自分のような感情だったかと思うと、申し訳ない気持ちになる。

 自分の大学なのに、居心地が悪い。

 そんな風に思っていたら、同級生に話しかけられた。


「よう、ハレ」

「やぁ、久野」

「今週のヨンデー読んだ?」

 

 あずみちゃんとは少し離れていたので、俺一人と思われたのだろう。俺もせっかくなので話を返す。


「空飛びのスピンオフ漫画がやばかったな! 戦闘機の空戦が熱すぎた」

「だよな~。漫画もアニメも面白すぎる!」

「だろ? 勧めてよかったよ」


 よかったよかったと思ってふと前を見たら、あずみちゃんがむすっとした表情をしていた。俺の視線に気づいたのか、同級生も謝る。


「あ、ごめん。連れと一緒だったんだな。じゃあ、また」

「おう、またな」


 同級生と別れ、不機嫌そうな顔のあずみちゃんに追いつこうとした。が、その前にまた別の友人に話しかけられた。


「ハレー、今日の授業終わり?」

「うん、終わり。浅海は?」

「終わり終わり。で、合コンの話なんだけどさ」

「だから、行かないって言っているだろ? なんで、俺が男サイドで参加するんだよ!」

「ウケがいいから」

「よくないだろ!」

「あと、敵が減る」

「そっちが目的か! って、ごめん、今友達と一緒だからさ。また今度話そうぜ」

「おお、ごめんごめん」


 突然きたお客さんではあるが、ゲストのあずみちゃんを放っておき過ぎだ。

 彼女へ近づき、「ごめんな」と謝る。当然、友人もあずみちゃんを目撃するわけで、


「っておい、女子友達!? ハレが女の子といるじゃないか! あの、お嬢さん、お名前は? もしよければ」

「…………」


 ご丁寧にトークアプリのQRコードを差し出して話すが、あずみちゃんは無対応だ。

 圧倒的、無。眉ひとつ動かさない。友人がいたたまれなくなってきた。

 友人も話しかけても無理だと思ったのか、俺の方にひそひそと話してくる。


「おい、ハレ。あの子に、合コン開いてくれるようお願いしてくれない? この通りだ」

「えー」 


 必死だ。確かにあずみちゃんは喋らなければ、オタクトークをしなければ、清楚でお淑やかに見える、可憐なお嬢さまだろう。だが、中身は厄介な声優オタクだ。合コンなんて望んでいないことはわかっている。合コンにお金を使うぐらいなら、唯奈さまのために使うだろう。俺と同じだ。

 それにしても、友人には会うたびに合コンの話ばかりされる。大学というのは出会いがあるようで、意外とないものだろうか。バイトばかり、ライブばかりにかまけている俺なので、わからない。

 

「うわっ」


 グイっと、腕を掴まれて引っ張られた。引っ張ったのはあずみちゃんだ。相変わらず、顔が不機嫌で、


「あげませんっ!」


 と友人を威嚇した。「あげません」ってどういうこと!?

 友人もビビってしまっている。


「ひぃいぃぃ。その人、ハレの彼女?」

「いやいや、俺の性別知っているだろ?」

「性別迷子」

「おい」


 性別が迷子だから、こうして男友達のように話しかけてくれている。気楽な浅い友人関係だが、明言されるとちょっとだけ癪だ。

 そんな中、あずみちゃんはいまだ俺から離れず、相手を睨み、唸っている。ドラミング状態だ。

 友人も恐れをなしたのか、「じゃあな!」とそそくさと去ってしまった。


「あずみちゃん」

「グルルルル」

「……もう腕を離してくれる?」


 友人が去っても腕を離してくれない。


「ハレさん、騙しましたね……」


 密着されたまま、話しかけられるとこそばゆい。距離が近すぎてどこを見ていいのか、迷ってしまう。


「え、騙した?」

「ハレさん、大学で人気すぎです!!」

「人気すぎ? 俺が?」

「全然、陰の者じゃ、ないじゃないですか! めっちゃ話しかけられるじゃないですか」

「そんなことないよ。陰キャだよ。オタク話を授業同じ奴と話すぐらい。あと、やめたけどサークルが同じだった人とかと話すぐらいだ。浅い関係だよ」

「嘘つけ~、皆、ハレさんを狙っているんだー! 男友達みたいで話しやすいとか言いながら、ハレさんの魅力に気づいていて、俺だけはハレの良いとこ知っているとほくそ笑んで、あわよくば彼女にしたいと画策しているんだ~、そうなんだ~」

「妄想がすぎるよ!?」


 彼女の言葉を否定するも、腕を掴む力が強まった。


「わかりました。ハレさんは自覚なさすぎです」

「なんか、ごめんな」

「だから、今日はマーキングします」


 マーキング?


「じゃあ、行きましょうか。ハレさん」

「どこに……?」

「図書館に、大講堂に、生協に、学食……」

「行き過ぎでは!?」

「いいから、いきましょう」


 腕に抱き着かれたまま、俺をぐいぐいと引っ張る。


「って、だから、この状態のまま行くの!?」

「だから、言っているじゃないですか。マーキングです。ハレさんに悪い虫がつかなように見せつけるんです。私がいると、ハレさんのこの腕は私のものだと!」

「え、そういうこと? って、引っ張らないで、うわああああ」


 こうして、俺は腕組みのまま構内を歩かされたのであった。

 友人、教授、色々な人に見られ、もう本当に陰キャと名乗れなくなってしまったのだ。

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