第5ステージ オモイは行き違い!?④

 笑いすぎて怒られたが、おかげで和やかな雰囲気となった。離れていた時間もあっという間に埋まった気がする。


「で、ハレさんは何が話したいんですか」


 やっと本題に入れる。単刀直入に俺はあずみちゃんに尋ねた。


「あずみちゃんが唯奈さまのライブに行きたいかどうか、聞きにきた」

 

 「もう本当にハレさんはハレさんですね……」と呆れられる。


「どうして返信しなかったとか、何があったとか、そういうことは聞かないんですね」

「悪いけど、検討がつかないんだ。俺が悪かったら申し訳ない、でも俺たちの関係はあくまで同志なんだ」


 趣味の上で繋がっている仲間。

 たとえ、何があっても戦場にかけつけてくれる戦士だと信じでいる。


「俺は一人じゃ嫌だ」


 そんな仲間に身勝手な言葉を投げかける。


「一人じゃ嫌ですか。……少しくらい事情を聞いてもいいんじゃないですか」

「……拗ねている?」

「拗ねていません!!!」


 そう言いながらも顔は不機嫌そうで、何があったのか聞かなきゃいけない感じになる。


「あのーそのー、あずみちゃんは何かあったの? どうかした?」 

「言ったら私のこと嫌いになりますよ」

「じゃ、じゃあ聞かないほうがいいね」

「私はですね、ハレさんの」

「なんなの! 話したいの!?」

「話したいけど、話したくないんです!!」

「わけがわからないよ!」


 どうして欲しいのか意味不明だ。

 女心は複雑だ。自分もそのはずがだ、さっぱり理解できない。


「もういい、俺が勝手に話すから。あずみちゃんは聞いてくれ」


 黙って何も言わないので、肯定したとみなす。


「こないだ、一人でラジオの公録にいったんだ。最近はさ、あずみちゃんとライブやリリイベに行っていたから一人は久しぶりでね。で、正直言うと物足りなかったんだ。イベント自体は楽しかったのに、何か足りない」


 欠けていた。


「隣の席に人がいなかったんだ。本当にいなかったんだけど、そういうことじゃない。始まる前のワクワクの共有、終わった後の語彙力ない会話、落ち着いてから感想を言い合って共感と違いを楽しむ。それが一人だとなかった」


 だから、物足りなさを感じた。

 目の前の彼女が不機嫌そうに答える。


「それは、私じゃなくてもいいんじゃないですか? あの人、灰騎士さんでもいい」

「そうだけど、って言ったら怒るだろ?」


 わかりやすく、頬を膨らます。


「違うよ、灰騎士さんとは違う。あの人もいい人だけど、あずみちゃんとは違うんだ」

「……何が違うっていうんですか」


 だって、


「あずみちゃんは面倒、厄介で」

「ハレさんが言います!?」

「誰よりも楽しんで、笑顔で、感情豊かで、面白い子だから。隣にいて、こんな楽しくて、素敵な可笑しなオタクはいないよ」

「……うぅ」


 褒めすぎたのか、顔を逸らされた。

 けどお世辞でもなく、素直な俺の気持ちだ。


「幕張でペンライトを貸して、喜んで唯奈さまを応援してくれたのが嬉しかった。俺のおかげで、楽しめたんだと誇らしかったんだ」


 声をかけてよかった。あの時、勇気を出して、躊躇わずに渡してよかった。


「横浜では、始まる前も終わった後もずっと楽しかった。……まぁ終わった後の勘違い告白はびっくりしたけど、今となってはいい思い出だ」


 一緒にいられてよかった。今まで1番最高のライブだった。


「俺はさ、ずっと一人だったんだ。聞いてくれる?」

「ええ、授業はもうとっくに遅刻なのでお気に召すまま」


 ごめんと謝り、誰にも話したことのない過去を語り出す。


「小学校の頃から兄貴の影響なのかな、兄貴の読み終わった少年漫画雑誌を毎回楽しみに読んでいたんだ。気づけば兄よりもハマっていて、兄貴が読むより先に読むようになったっけ。そして中学の頃からアニメやラノベも好きになっていった。でも女子が好きなジャンルよりは、完全に男子向けだったな」


 少女漫画よりも、冒険、バトルの少年漫画を好きになった。

 男性アイドルよりも、アニメを演じる声優さんや、主題歌を歌う声優さんを好きになっていった。気づけばラジオを聞き出し、声優雑誌を友達と見せ合って、話すようになった。

 そう、


「周りにオタク話をする友達もいたんだ」


 けど、俺と同じような女の子はいなかった。


「自分も男っぽい感じだからさ、俺は気兼ねなくクラスの男子にオタク話をしていた。男たちと喋っている方が話が合ったんだ。女性声優大好きだし、その人の出ているアニメばっかり見ていたからな」


 でも、女だから、とちょっと遠慮されていたところがあったんだと思う。


「俺は他の男子と変わらず、一緒に盛り上がりたかった。だからこんな格好に、男っぽい喋り方に気づいたらなっていたんだと思う。同じ立場で、同じ感想を持ちたかった。同じになりたかった。俺は話せる友達、語れる人が欲しかった」


 でも、友達は離れていった。

 受験、恋愛、部活動。

 皆、違うものに夢中になり、俺だけが取り残されていった。


 違う、取り残されてなんかいないんだ。

 皆が間違っている。オタクから卒業という言葉の意味がわからない。

 現実を見ろとか、どうでもいい。

 

「だって俺にとっては日常の生活より、声優さんを応援することが何より大事だった」


 頑張る姿に勇気をもらい、輝く姿に感動した。


「俺は頑張るあの子に夢を見せてもらい、実現する姿を自分のことのように嬉しく思った。俺がいたから、俺が応援したから、と思いたかった」


 今しか味わえない。失ったら二度と戻って来ない。


「輝く人の、光の一部になれることが嬉しかった」


 歩む軌跡に、自分がいた。

 いたことを誇りに思った。夢を一緒に見させてもらった。

 

「だから何よりも優先にしたさ」


 そしたら、俺は一人になっていた。

 その気持ちを共有できる人が周りからいなくなってしまった。ついてこれない。やってられない。呆れられ、意固地になっていると思われ、馬鹿にされ、変な目で見られた。


 一人になった、と思っていた。


「……でも違ったんだ。SNSには同じようなオタクがいた。ネットがあって良かったな~と思うよ。一人でいいといいながら、共感を求め、本名も知らない存在が大きな支えとなった。結局、一人にはなれなかったんだ」


 面倒で、誰よりも真剣な人がいてくれたから、俺が俺でいていいと思えた。


 ――そして、現実でもそんな人に出会ってしまったのだ。

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