三枚目 『兆し』

「助手君助手君、見えて来たよ。あれが問題のダンジョン、『盗賊のねぐら』!」


 言われた方向に目をやるとそこには、地面にぽっかりと開いた大きな空洞。

 入口周辺には泊まり込みで探索をしているらしい、他の冒険者が野宿した形跡がそこかしこに残されている。

「俺達以外にも結構な冒険者が来てるんだな」

「新規ダンジョンともなればこんなものだよ。冒険者なんて一獲千金を夢見る人が多いからね。それに、かなり広いダンジョンだからって事でギルドからの報酬も結構高いし。なんでも現在進行形で大きくなっているらしいよ」

「……ダンジョンって生き物の一種だったのか?」

 勝手ににょきにょきと巨大化するダンジョンってかなり気色悪いんだが。

「キミは何を言ってるの、ダンジョンが生きてる訳ないじゃないか。中に住み込んでいるモンスターが拡張を続けてるって意味だよ」

「おい、そんな哀れんだ目で俺を見るな。この世界って俺の常識と合致しない点がよくあるから、そうなんじゃねえかと思っただけだ! ていうか、紛らわしい言い方しないで初めからそう言ってくれよ」

 俺の言葉にクリスは、そう言えばと呟き、

「助手君が住んでた日本では野菜が飛んだりしないんだったっけ。それだと採れたての野菜とかは食べられないんだよね? そんなので満足出来るの?」

「それが当たり前だって思ってたから特に不満はなかったぞ。でも言われてみたら、こっちの野菜はかなり美味いよな。初めてキャベツ食った時はかなり衝撃を受けたぞ」

「それってあたしがキミにスキルを教えてあげた日のキャベツだよね? あれはここ近年だと一番の出来だったから猶更だよ。あー、また食べたいなー」

 あれで飛ばなかったら最高なんだけどな。

 そんな下らない話をしている間に、こちらを値踏みするかのように睨む見慣れない冒険者の脇を通り抜け。

 漸くダンジョン入口前で立ち止まった。

 遠くから見ていた時は唯の大穴かと思っていたが、実際は地面に垂直ではなくなだらかな傾斜となっており、地中深くへと続いているようだ。

 明かりもなく暗い洞窟の中を覗き込んでいる俺に、クリスは笑いかけてきて。

「さて助手君、準備は良いかな?」

「勿論ですよお頭、いつでも行けますよ。よく考えてみたら、お頭と一緒にクエスト受けるのってこれが初めてじゃないですか?」

「そう言われればそうだね、前にキミ達がダンジョンに行くって言ってた時は忙しかったからね」

「そ、その件に関しましては、いつもお世話になっております」

 いや本当、今回の事と言いいつもいつもご迷惑をお掛けしております。

「それはもういいよ、あたしもいい加減慣れてきたし。今回だってこうして手伝ってくれてるんだしさ」

「そ、そうっすね……」

 ヤバい。屈託なく微笑むクリスを見てたら、一抹の罪悪感が。

 ……今度、高級料理店にでも連れて行ってあげよう。

「それじゃあ、ダンジョン探索いってみよう! お宝があたし達を呼んでるよ!」

 どこか楽しそうに洞窟へと潜るクリスに続き俺も足を踏み入れた。



 昨夜クリスが言ってたように、ダンジョンの通路は地中をそのまま掘っただけの単純な造りになっていた。

 その上、分岐点や分かれ道は非常に多く、一度迷ったら二度と出られない事だろう。

 本来なら明かりを灯して大勢のパーティーメンバーを引き連れ、毎日少しずつマッピングしながらビクビクと進むところなのだろうが……。

「クリス、分岐点まで来たぞ。道が四本に分かれてるけどどっちに行けばいいんだ?」

「そうだね。昨日は右から二つ目の道を行ったから、今度は一番左の道をいってみようか。そっちからもお宝の匂いが強くするんだよ」

「一番左だな。頼むからはぐれないでくれよ、クリスの『宝感知』とマップが命綱なんだからな」

「そう言うキミこそ急に走り出したりしないでね。あたしはキミの『千里眼』を当てにして、ちゃんとした明かりは持って来なかったんだからさ」

 千里眼を持つ俺は言うまでもないが、今まで数多の貴族屋敷に忍び込んできただけあって、クリスは暗闇の中を先行する俺に危なげなく付いて来ている。

 しかもお互いに潜伏スキルを所持しているからか、ダンジョンに潜って早二時間が経過しようとしていたが。

 ここまでモンスターには一度もエンカウントしておらず、恐ろしいスピードで探索をしていた。

「いやー、千里眼と潜伏のコンビは本当に使えるな、前回苦労したのが嘘みたいだ。やっぱりあれか、上手くいかなかったのは隣にアクアが居たからなのか?」

「本人のいないところで悪口言ったりしないの。アクアさんだって悪気があって邪魔してる訳じゃないと思うし、大目に見てあげてくれないかな?」

 後輩に庇われる先輩女神って、あいつはそれでいいのだろうか。

「そうは言うがな、あいつがいると本当にロクな事が起きないんだよ。前にキールのダンジョンに潜った時も、アクアのせいでアンデッドにめっちゃ集られたし」

「そ、それはそうかもしれないけど……。で、でも、アンデッドには潜伏スキルは効かないから、やっぱりアクアさんがいてくれて助かった部分もあるんじゃない?」

「そりゃアンデッドに遭遇すればそうだけど。俺はお頭の次ぐらいには幸運値が高いから、そもそもアンデッドなんかに見つからないと思う」

「た、確かにキミの幸運値は高いけど……だけどさっ!」

 普段散々な目に合わされているはずの迷惑な先輩をここまで持ち上げるとか、本当にエリス様って優しいよな。

 だが、ここで引き下がっては何かに負けた気がする。

「因みにクリスは今までにも単独でダンジョンに潜った事は有るのか?」

「随分と藪から棒だね。まあ、そんなに多くはないけど何度かあるよ」

 ふむふむ。

「ちょっと聞きたいんだけど、その時にアンデッドに見つかった経験は?」

「え、えーと……、一回も無いです」

「よし、では次の質問。俺達ってもう結構長時間ダンジョンに潜ってるよな。だけどここまでの道筋でアンデッドはおろか、一匹のモンスターも見かけてないじゃん? この状況から推測するに、本職の盗賊にして俺の尊敬するお頭である処のクリスさんは、本当にアクアが俺の足を引っ張ってないって断定出来るんですか?」

「…………そう言えばキミはまだ巻物の詳細については知らなかったよね! 実際お宝を見つけてもどれが本物か分からない何て事になったら大変だから、今のうちに教えておくね!」

 こいつ、旗色が悪いからってあからさまに話を変えてきやがった。

 まあ、これ以上話してても埒が明かないし、ここは大人しく講釈を拝聴するとしよう。

「助手君は、昨日ダクネスが話してた内容を覚えてるかな?」

「使い方次第では国を亡ぼせるヤバい魔道具とか言ってなかったっけ?」

「それはあくまで最悪のケース。本来の魔道具としての性能はもっと単純なんだよ」

「と言うと?」

 暗闇の中でハッキリとは見えないが、歩を進めながらクリスの気配がする方に振り返る。

「その魔道具の力はね、任意の事象についての真実を書き記す事が出来るんだよ。正しく真意を綴った巻物だね」

「へー、物事の真意か。それってどこまでの内容が書かれてんの?」

「使用者が望む限りどこまでもだよ。相手の貯金残高から奥さんに秘密にしてる隠れた趣味まで、何でも際限なくね」

「……マジですか」

「大マジだよ」

 なるほど、それは確かに国家戦争にも発展し得るわ。

「でも、そこまで詳細に知れるんだったら知りたい情報を探すのも一苦労だな。世界中の情報を全部っつったらとんでもなく膨大だろうし。そもそも一巻じゃ絶対足りねえだろ?」

「意外とそうでもないんだよ。形状は一般的な巻物と大差ないんだけど、百科事典みたいに既に書かれてる訳じゃなくて初めは白紙になっててね。使用者が知りたい事を巻物に頼んだら、羊皮紙上にその都度情報が示されるって仕組みみたい。スマホの検索機能と同じ感じって言ったら分かりやすいかな?」

「物凄く分かりやすい例えをありがとう」

 こうしてサラッと日本の話を振ってくれるのもあって、やっぱりクリスとの会話は気を遣わなくていいのですっごく楽しい。

 しかしどんな事でも教えてくれる巻物か。

 それってつまり、周りの連中の俺への好感度なんかも調べられるって事だよな。

 いや待て、それよりももっと深いところまで探ってみてもいいんじゃないか。

 そう、例えばダクネスやウィズのスリ……。

「言っとくけど、見つけた所で使わせないからね。なんかキミに渡したら、その……すごくエッチな事に使いそうだし……」

「や、やだなー、俺がそんな男の風上にも置けない事する訳ないじゃないですかー」

「棒読みなのがすっごい気になるけど。まあ、そういう事にしておいてあげるよ」

 流石は、出来る方の女神様。

 どこぞの駄女神と違って、ちゃんと空気を読んでくれ……。

「……クリス、その魔道具を回収出来たらさ。一回だけでいいから俺に使わせてくれないか?」

「いや、だからね。いくらキミ相手でも使わせてあげる訳には……」

「そこを何とかお願いしますよ、エリス様! 人の子の話に耳を傾けるのも女神様の大事な仕事なんじゃないんですか?」

「この姿の時にエリス様はやめてってば! でも……そうだね、確かに事情も聴かずに突っ撥ねるのも人としてどうかと思うし、聞くだけ聞いておいてあげるよ」

 俺の只ならぬ雰囲気を感じ取ってくれたのか、どうやら言い分ぐらいは聴いてくれるらしい。

 雰囲気的に真剣な表情をしてくれているクリスへ、俺はここ最近のアクアの様子を説明した。


「――って感じでアクアのヤツが黙秘権を貫いてやがってさ。強引に聞くって手段も考えたけど、あの様子じゃ喋ってくれそうにないから、自分で調べる事にしたんだよ」

「本当にキミってアクアさんに対しては容赦ないね。もっと優しく接してあげなよ」

 十分優しく接してるつもりなんだけどな。

 あれから何度か分岐点を通過していく度にマッピングをしつつ。

 一通り話し終えたところで、クリスは呆れた口調でそんな事を言ってくる。

「エリス様ってアクアとの付き合いは長いんですよね? 写真の入手法とかに心当たり有りませんか?」

 めぐみんとダクネスの言い分によれば、アクアは随分前から問題の写真を眺めていたらしい。

 その上で、めぐみんが俺達の集合写真かもしれないと言った事に違和感を覚えていないのだから、アクアがあからさまに見始めたのはここ一月ぐらいと思われる。

 かと言って、鋭敏である俺がつい最近まで気付かなかったのだ。

 めぐみん達も気付いてないずっと前からアクアが持っていたとしても不思議ではない。

 そこで念のため、先輩風を吹かせるアクアに何だかんだと仕事を押し付けられ交流のあったエリスが、何か知っているのではないかと尋ねてみたのだ。

「そうですね。先輩が時々懐かしそうに、でもどこか哀しそうに何かを見ていたのは印象的だったので覚えているんですが。一度気になって尋ねてみたら、大切な思い出が込められているとしか教えてくれませんでした。でも、今のカズマさんの話を聞くに、多分その写真だったんだと思います……って、助手君につられて口調が戻っちゃったじゃないか!」

 エリス様呼びのせいか女神モードになってしまい、プンスコ怒ってくるクリス。

 しかし、思った通り。

 アクアはあの写真を天界にいる時から持ってたんだな、そしてエリス様も詳細は知らないと。

 こうなってくるとアクアの交友関係を当たっても意味が無いか。

 それ以前に、そもそもエリス様以外にアクアと仲のいい女神の知り合いがいないけど。

「あのアクアがここまで周到に秘密を守り通してるなんてな。あいつの事だから絶対どっかでボロを出してると思ったのに」

「普段キミがアクアさんとどう接しているのか一度しっかり観察したいものだね。まあそれはともかく、キミが巻物を使いたいって理由は把握したよ。でも、どうしてそこまでしてアクアさんの写真の事を知りたいの? 相談屋さんにも、放っておいて大丈夫だってアドバイス貰ったんだよね?」

 声の調子が部分的ににやけてる気がしないでもないが、疑問を抱いたらしいクリスに、

「その相談屋は悪魔みたいな性格だからあんまり信用してないんだよ。普段はいらん事迄勝手に教えて来るくせに、今回はやたら消極的だったから特にな。それに、アクアの隠し事なんか絶対ロクな事じゃないってクリスなら分かるだろ? だから早めにケリを付けときたいんだよ。……なんだよ」

 俺の後ろをついて来ていたクリスが足早に俺の隣に並び、

「何でもないよー。ただ、助手君はやっぱり根っこのところは優しいよねって話」

「その言い方だと普段は優しくないように聞こえるんだけど」

 と言うか、ニヤニヤした言い方しながら肘で脇腹を小突くのは止めて欲しい。

「了解したよ。巻物を無事に見つける事が出来たら、その時はアクアさんの写真について調べる事を許可しましょう。さてと、それじゃあ猶更気合入れて探さないとね! アクアさんの為にもがんばろー!」

「別にアクアの事はどうでもいいんだけど。っと、ここが突き当りか。『敵感知』には反応なし。戸棚とかが置いてあるし、盗賊団の誰かが生活してたのかもな」

「ううっ、よくこんな洞窟の奥で生活できるね。あたしなら三日で嫌気が来ると思うよ。……うん、『宝感知』に反応がある。この反応からして、その辺りの一角にありそうかな。助手君、部屋の右奥の方に何かない?」

 言われるままに、クリスが指さす周辺にあったそれっぽい箱を次々と開けていき、

「うーん、それっぽい物はなひゃあああああっ!」

「きゃああああっ⁉ な、何どうしたの⁉」

 慌てて駆け寄って来たクリスに俺は、

「開けた瞬間にモンスターの頭が飛び出すとかどんな嫌がらせだよ、ふざけんな!」

 持ち上げた小さめの箱を地面に叩きつけた。

「なんだ、ただのビックリ箱か。急に大声上げるからモンスターでも飛び出したのかと思ってヒヤヒヤしたじゃないか」

「不意打ちで顔に毛深い物がぶつかってきたんだ、驚くなって方が無理だろ! しかもちょっと湿っぽいし変な匂いするし!」

「でもキミには『罠発見』も教えたよね? どうして罠と分かってるのに警戒もしないで開けたのさ?」

「あっ……」

 そう言えばそんなスキルもあったな……。

「……もしかして、忘れてた?」

「忘れてないよ?」

「「…………」」

 き、気まずい。

「ま、まあ済んだ事は良いじゃないか。それよりクリス、どれにお宝が入ってるか分かるか?」

「自分が覚えてるスキルぐらい確認しときなよ。はあ、それより今はお宝の確認が先だね。うーん、ちょっと暗くてあたしには分からないな。……『敵感知』に反応もないし、少しの間なら大丈夫か」

 若干呆れ気味なクリスがごそごそと何かを取り出し。

 シュボッと軽い音と共に辺りが明るくなった。

「えーっとね……あっ、それそれ、その大きめの箱。それの中から結構なお宝の匂いが漂って来てるよ」

 明かりに照らされほんのりと映し出された、お宝を発見してか嬉しそうに破顔するクリスに、

「なあ、今手に持ってるそれって……」

「ああ、これ? 前に助手君やダクネスが使ってるのを見て便利そうだなって思って、この間買っておいたんだよ」

 そう言って手に持ったオイルライターをゆらゆらと揺らしてきた。

 それを買って来たって事はつまり……。

「……それ、どこで買ったのか聞いてもいいか?」

「勿論ウィズさんのお店だよ。キミだって持ってるんだから当然知ってるでしょ?」

「い、いや、ちょっと確認したかっただけだ。そ、それで、そこの店長やバイトに思う所は……?」

 遠回し目にウィズの正体に気が付いたか探りを入れてみたが、どうやら杞憂だったらしく、

「キミが何を聞きたいのかよく分からないんだけど。まあ、前々から知ってたけど、ウィズさんはいい人だと思うよ。人当たりもいいし凄く親切だし。でもバニルさんには残念ながら会えなかったんだよ。丁度、助手君が持ってる仮面も買いたかったから相談したかったんだけど。そんな事よりもほら、早く開けてみなよ!」

「お、おう……」

 知らない間にウィズは修羅場を潜り抜けていたんだな。

 ……今度からウィズには、クリスが来たら注意するよう言っておこう。

 内心冷や汗を流しつつも、クリスが教えてくれた箱を開き――



 日が暮れて暫く経った頃。

「ちょっと、二人共遅いわよ! もうとっくにご飯の準備できてるんですけど!」

 屋敷に戻ってきた俺達に、開口一番でアクアが文句を言ってくる。

「まあまあ、無事に帰って来たのだから良いではないか。それで、巻物は見つかったのか? ……どうした二人共、そんな微妙な顔をして。随分と身軽だし、あまり上手くいかなかったのか?」

「ああ、いや。巻物は見つからなかったんだけど……」

「何て言うか、その……ね?」

 曖昧な返事をして顔を見合わせる俺達の様子に、アクア達は疑問を抱いたらしく。

「一体何があったのですか? 他の冒険者に先を越されたとかモンスターに装備を盗まれたとかそう言う……」


 ドサッと机に置いた袋の重みに、三人が絶句した。


「あ、あははー、あたし達の運が良いのは分かってたけど、ここまでくると何だか申し訳ない気がしてくるね」

「俺、冒険者なんかやめて、クリスとコンビ組んでトレジャーハンターにでもなろうかなって今真剣に考えてる」

 頬をポリポリと掻いて乾いた声を上げるクリスの横で、俺は天井を見上げて一人悟りの境地に至っていた。

「ち、因みに袋の中身はどれぐらいなんですか……?」

「「五百万ちょい」」

「「「ご⁉」」」

「追加して言うと、モンスターにすら一回も遭遇しなかった。勿論、誰かがアンデッドに集られる事もなければ、意味もなく魔法ぶっ飛ばしてお荷物になる事もなく、性癖を抑えきれず暴走する事もなかったからすごく楽だった」

「「「っ⁉」」」

 俺の飾り気が一切ない何気ない言葉に、誰かさん達がビクッと肩を震えさせた。

 何故か挙動不審な三人を敢えて無視しつつ。

「お頭、今日は一日中ダンジョンに籠ってて疲れたでしょう。今日は俺が奢りますから、たっくさん飲み食いしてくださいね! と言うか、ダンジョン探索の間だけじゃなくて、これからもずっとこの屋敷に住んだらどうですか?」

「え、えーっと、ありがたい申し出だけど、あたしは別に宿には困ってないし……」

「遠慮しなくてもいいのに、俺とお頭の仲じゃないですか。でも、そう言う周りに気を遣えるところも魅力的ですよね。さっすがお頭、俺と結婚しませんか!」

「「「‼」」」

 おっと、クリスと普段通りの会話をしていたらなんか三人が固まっちゃいましたね。

 でも、こんな反応を見せるこいつらは新鮮でいいな。

「キミって奴は、キミって奴は‼ 皆がいる前でそんなこと口走るなよ! ち、違うからね、助手君はあたしをからかってるだけだからね⁉ 本気にしちゃダメだよ⁉」

「何言ってるんですかお頭、俺はいつだって本気ですよ。前にも何度か告白したじゃないですか!」

「キミは余計な事を言わないで‼ ほ、本当だから、あたしと助手君の間には何もないから、唯の友達だから! お願いだから誤解しないで!」

 なんか被害が俺にまで飛んできて若干心が痛いが、顔を真っ赤にして慌てて言い訳を始めるお頭はすげー可愛いです。

 そんな俺とクリスのやり取りを見て思う所があったのか。

「カ、カズマカズマ、今日は一日がかりの探索でしたし、さぞやお腹が空いている事でしょう。私がよそいますから、こっちにお皿貸してください。いつもカズマには助けられてますし、一番いい部位をとってあげますよ!」

「そ、そうだな! 日頃お世話になっている事だし、お前が疲れている時ぐらいは私達が労ってやろう。カズマはそのまま座っててくれ、今いい酒を取って来てやるからな、酒を注ぐぐらいは任せろ!」

「ちょっ、二人とも私がやろうとした事を先にやらないでよ! ええーっと……そ、そうだわ! ねえ、コソ泥並みに鼻の利くカズマさん、私は特に思う所はないのだけれど、よかったら……」

「お前は何もすんな」

「なんでよおおおおおっ!」

 めぐみんとダクネスが甲斐甲斐しく世話をしてくれる、絶賛モテ期到来中な俺にアクアが泣き付いてきたが、そんなの知らん。

 だがこうして改めてじっくり観察すると分かるが、やっぱりこいつら見てくれはいいんだよな。

 それに最近は最初に出会った時に比べて、多少は軟化してきた奴もいるにはいるのだが……。

「どうしたのカズマ、そんなに私達の顔をじっくり見て? もしかしてちょっと傅かれてるからって調子に乗って、私達に如何わしい事をしようと考えてるんじゃないでしょうね?」

 三人を流し見た後、どうしようかとオロオロしているクリスに視線を送り。


「やっぱりクリスとコンビ組もっかな……」


 ボソッと呟いた俺の言葉に、今度はクリスまでもがビクッと震えた。



 それからというもの、俺とクリスは毎日のようにダンジョンに潜った。

 時々、他の冒険者パーティーとすれ違う事もあり進捗を聞いてみたが、高価なお宝にはあまりあり付けていないのに、モンスターにはしょっちゅう鉢合わせるらしい。

 しかもそのモンスターが結構強いらしく、野営するパーティーの数は目に見えて減って行った。

 同業者が減るとお目当ての巻物が他の手に渡る可能性がぐっと減るので、本来なら手放しに喜ぶべきなのだろうが。


「カズマ、今日も何か見つけたのか? まあ、いくら二人の運が良いとは言え、二日連続で高価な宝になどありつけは……なんだ、この紙は?」

「盗賊団が昔盗んで行った、隠された遺跡の場所を指し示す地図みたい。ギルドのお姉さんの見立てだと、研究者に売ったら恐らく数千万は下らないそうだよ」

「「「…………」」」


 古代の遺跡を探り当てる為に必須な代物を見つけたり――


「カ、カズマ、流石に今日は何もありませんでしたよね?」

「当たり前だろ、そんな毎日高価なお宝が手に入ると思ったら大間違いだ。ちょっと浸かったら傷が治る源泉を見つけたぐらいだよ」

「そ、それは……医療従事者にでも教えたら、さぞかし高値で買ってくれそうですね」


 超回復が可能な薬湯が湧き出る摩訶不思議な源泉を発見したり――


「カズマさんカズマさん、今日は何を見つけて来たのかしら? ここの所毎日すごく稼いでる事だし、ちょっとぐらい……」

「稀少な鉱石はゴロゴロ手に入ったけど、お前には一つもやらんからな」

「まだ何も言ってないんですけど⁉」


 総額一千万はしそうな宝石箱を見つけたり――


 他の人に申し訳ないぐらい、俺とクリスはダンジョン内のお宝と言うお宝を片っ端から手に入れていた。

 俺達だけ超高価なものをポコポコ見つけてるのにも驚きだが、これだけお宝に遭遇しておいて目的の物に当たらないのもある意味凄いと思う。


 そして、探索を始めて一週間ほどが過ぎた、ある日の夜。

「ぷぁっはー! やっぱり労働後に飲むシュワシュワは格別よね!」

「いや、今日お前は何もしてないだろ。探索行ってんのは俺とクリスだし」

「固い事言わないでよ、私達はパーティーでしょ? 仲間とはお互いの苦労を分かち合い、喜びも分かち合うものなの。仲間の功績は皆の功績。なら、カズマの活躍を私の活躍だと言っても問題ないはずよ!」

「一度お前がノコノコついてきた時、アンデッドに襲われるは貴重な財宝は無くしかけるはで俺達の足を散々引っ張りまくったお前が何を言ってんだよ」

 即座に耳を塞いで聞こえないフリをするアクア。

 コイツ、いつも酒、酒言ってるし、お望み通り耳の中にシュワシュワ注いでやろうか。

 即座に浄化されるだろうけど、コイツの酒なら問題ないし。

 秘かにアクアへの制裁を考案しているとダクネスが、

「なあクリス、明日には例のあれを手に入れられそうか?」

「多分ね。あたしのスキルによると、大きなお宝の反応がするのは残り一か所。ギルドの人に確認してもそれっぽい物はまだ見つかってないらしいし、そこにあるんじゃないかって睨んでるんだよ」

「カズマ達ばかり良いものを手に入れるとは、他の人達が気の毒ですね。……私としては困りますが、ここまで来たら二人共ギャンブラーにでもなった方が良い気がしますね」

 それは俺も思ってた。

 ダンジョンだけでもこれだけ無双しているのだ、賭け事でもしたら常勝無敗を達成できる気がしてならない。

「ダメだよ、今回あたし達の幸運が輝いてるのは大義名分があるからこそ。私欲の為の賭け事なんてロクな結果にならないんだから」

 そう言うもんなのだろうか。

 まあ、幸運を司る女神様本人がそう言ってるんだ、きっとそうなんだろう。

「という訳で、ギルドに報告してない人がいないなら、明日の探索で見つかるはずだよ。それが終わったらダクネスの家まで渡しに行くから、安心して待ってて」

 ダクネスに言い聞かせたクリスが、チラッとこちらを見て目配せをしてきた。

 いきなりどうしたのかと思ったが、恐らく例の約束を覚えているというサインだったのだろう。

 それに思い至った俺はサムズアップで応えてやった。

 そんな俺達のアイコンタクトを、どこか不機嫌そうに眺めていためぐみんが、

「そう言えば、今日ギルドにボッチを探しに行った時に妙な噂を聞きました。なんでも最近、この街で見慣れない冒険者が見受けられるのだそうです」

「ああ、それなら俺達も聞いた。明らかに冒険者なのにほとんどギルドに顔を出してないんだってな。そいつらは何をしにこんなとこまで来たのやら」

 気にならなくはないが、今のところ俺達には関係のない話だ。

 触らぬ神に祟りなしって言うし、何かが起こるまでは傍観していて問題ないだろう。

「でも、その人達って結構長い間この街にいるんでしょ? それでまだ何も起きないんだから放っておきなさいな」

「アクアの言う通りだ、きっと余暇を楽しみに来た冒険者とかだろう。心配するだけ損ってもんだ」

「……ダクネス? どうしたの、そんな難しい顔なんかしちゃって?」

 先ほどからやけに静かだったからか、少し心配そうなクリスに声を掛けられたダクネスは、はっとしたようで。

「い、いや、少し気になる事があったのだが問題ない、明日調べれば分かる事だ。では、お前達は引き続き探索を頼む。くれぐれも用心を怠らないようにな」

「クリス、明日もカズマの事をお願いしますよ。本来なら私もついて行きたいところですが、寧ろ足手まといですからね」

 心配してくれるのは嬉しいが、その子供を心配するかのような瞳が凄くムカつく。

「そうね。クリスはともかく、貧弱なカズマさんは私がちょっと目を離した隙にすぐ死んじゃうものね。カズマ、ちゃんとクリスの指示を守るのよ?」

「お前は俺の母ちゃんか⁉」

「はい、任されました!」

「お頭も何言ってるんですか?」

 そんなたわいもない話をしながら、俺達はいつも通りの夜を過ごした。

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