宿敵


 ゆっくりと時間をかけて回復した視界にはライゼンの姿は見当たらなかった。

 クロムによって断ち切られた魔法の暴発によって天井は吹き飛び、玉座の背後には石壁ではなく鈍色の空が背景となっていた。


「や、やった………?」

「たわけ。奴がそう簡単に死ぬわけがなかろう。逃げたに決まっておる」


 呑気なことを口にする勇者を窘め、我は立ち上がる。

 身体中に激痛が走る。骨は折れ内臓もグチャグチャだろうが、クロムがライゼンと戦っている間に溜めた魔力を使い回復魔法で応急処置はできた。

 相手が魔王と言えどここまでの深手を負ったのは久方ぶり。思いのほか精神的にも衝撃が大きかったようで、気を抜けばすぐさま意識を手放すことだろう。

 遅々とした動きしかできん足で歩みつ、我はさらにクロムへの言葉を重ねる。


「それにしても我を超える……か。大きく出たものだ」

「オレは本気だよ。なんたって魔王の討伐は勇者の役目なんだから」

「なら――」


 ようやく着いた玉座に我は腰を下ろし、魔王らしく嗜虐的で傲慢な笑みを作る。


「今から我と戦うか?」


 すぐさま返事は返ってこなかった。

 抜き身の剣を片手に持ったクロムと我はしばし白み合い……どちらからともなく笑ってしまった。


「いやいいよ。今日は休戦にしよう。命拾いしたねリヴィ」

「同感だの。そっちこそ今日が命日にならんかったこと感謝することじゃ」


 剣を剣帯に戻したクロムは踵を返して我の城から出ようとし、扉の前で振り返る。


「絶対にあんたを超えるからな師匠魔王!」

「我が貴様に負けるはずがなかろう弟子勇者よ」


 交わされた再戦の契りが叶うのはきっとそう遠くない未来のことだろう。

 

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宿敵師弟 夜々 @YAYAIMARU8810

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