ブチギレた私は陰キャを卒業します!〜キャラが違う?今までが演技だっただけですが何か?〜

美原風香

第1話 ブチギレました

「うっせぇ、ブス。俺の物に触るな」


 拾い上げたシャーペンを雑に奪い取られる。まだそれはいい。その前の言葉に私は固まった。私の様子を見てそいつはニヤリと笑う。


「あ、もしかして傷ついちゃった? そうだよね、ブスって自覚ないもんね」


 いや、私が気にしたのはそっちじゃないんだよね。何、ブスに人権はないわけ?俺の物に触るなってそういうことよね?


克人かつと〜。そんなに言っちゃ可哀想よ? ほら、葉月はづきさん

 固まっちゃってるわよ?」


 いや、あなたが一番失礼なこと言ってるよね?

 志田克人しだかつとの彼女、美峰悠里みみねゆうりの登場に、内心でため息をつく。


「ほんとだ。ごめんねぇ。それにしても悠里ゆうりは優しいなー。ブスにはブスってちゃんと言ってあげないとわからないかなって思ったんだけど」

「まあそうだけど〜。だってこの子ブス故に色々頑張ってるのよ? 勉強とか運動とか。だからブスのままでもいいのよ〜きっと」


 はっ? あなたは何を言っているんですか。私がブスでいるのには理由があるんですけど? 

 きっと、今の私は間抜けヅラを晒しているだろう。しかし、二人はこっちの様子などお構い無しに話を進めていく

 ……それとも元から間抜けヅラとでも思われているのかしら。

 あ、やばいふつふつと怒りが湧いてきた。


「そうだったんだ〜。確かに勉強と運動だけはできるもんね〜。まあそれをブスが台無しにしてるんだけど」


 こいつ、こっちが黙ってればペラペラと勝手なこと言いやがって。

 あーキャラが崩れてきてる。はい、深呼吸しましょう。スーハースーハー。

 そもそも、志田克人はちょっと顔が良くて読者モデルをやってるからって調子に乗りすぎなのよ。運動神経はいいようだけど勉強は全然だし、何よりこの性格が人としてありえないと思う。

 美峰悠里に至ってはちょっと可愛くて、男にモテるからって気持ち悪い表情で他の女子を見下すんじゃないわよ。知ってる? 男はあんたの胸にしか興味がないからね。

 心の中で罵詈雑言を言っているうちに少し落ち着いてきた。だが、その間にも二人の話は進んでいる。

 そして、こいつらは言ってはいけないことを言った。


「そうだ! 葉月さん、あなた私のモノにならない? そしたら「結構です」えっ?」


 モノ扱いですか、この私を。超有名女優、芹沢由真せりざわゆまの娘、葉月由音はづきゆねをモノ扱い。知らなかったとはいえ、ただで済ましてあげる程お人好しではありませんよ?

 きっと、二人を睨みつける。


「お二人が随分調子に乗っているようなので、教えてあげます。

 私はあなた方が思っているような人間ではないと。世の中にブスなんていないということを」


 二人の唖然とした顔を一瞥すると私は二人に背を向けて、堂々と教室から出ていく。


「えっ、あの子何言ってるの?」

「まあ、あの言い方はないよな。でも、美峰さんと志田に逆らうなんて終わったんじゃねえか」

「可愛そうだけどブスって認めた方が楽だったんじゃない?」


 そんな言葉が聞こえてきたが、私は気にしなかった。

 だって、明日痛い目を見るのは彼らの方なのだから。


 家に帰って鏡を見つめる。そこにいるのは肩までの黒髪を、耳を隠すように下ろし、前髪が目のギリギリでパッツンになっている、黒ぶちの冴えないメガネをかけた見るからに陰キャの女の子だった。制服だってきっちり規則通りに着て、スカート丈も膝まである。確かに野暮ったいのだろう。人によってはブスと思うかもしれないが、だからと言ってモノ扱いはおかしい。だから私はこの容姿をやめる。


「わざとだったけど、しょうがないよね」


 もし今私の顔を見る人がいたら悪女といったに違いない。まあ、見る人なんていないのだけど。

 髪を掴む、とするすると外れる。ウィッグだったのだ。その下から出てきたのは……。

 少し茶色みがかった腰まである長い髪だった。


「これ、押し込めるの大変なのよね。まあ、明日からはつけないしいっか」


 一気に印象が変わったがもう慣れていることなので気にしない。そしてメガネを外し、メイクを落とす。

 一通りケアを終えてもう一度鏡を見た時、そこにいるのは全くの別人だった。

 長い髪がサラサラと揺れ、目はぱっちり二重。さっきまでのぼんやりとした顔立ちに対し、1つ1つの造りがはっきりした美少女がそこにいた。


「やっぱ、胸の大きさだけは足りないわね。ま、まあきっと大きくなるわ!」


 自分の胸を見て美峰悠里の胸を思い出して慌てる。残念ながら私の胸はCカップ。あのFはありそうな胸とは比べ物にもならないが、他に勝るものがあるのだからよしとしよう。


「胸の大きさまで勝っちゃったら申し訳ないものね!」


 ひどい言い草かと思うかもしれないが、あの、人を見下すような態度をとる女に遠慮はしないと決めた。そもそも私が容姿を偽ってたのは他にできないことがないからだったのだから。

 私は、小さな頃から何でもできた。自慢に聞こえるかもしれないが事実だ。ピアノもバレエもサッカーも。勉強だってテストで満点を逃したことはない。

 これはきっと血なのだと思う。女優の母と弁護士の父のいいところを全て受け継いだのだ。そして、容姿も母に似て綺麗と言われるものだった。

 だから、色々な人の嫉妬を買ってきた。特に女子の。だからこそ、気がつけば自分の容姿を偽って、勉強と運動ができることと釣り合いを取っていたのだ。


「でも、もう我慢できないわ。今まで散々ブスとか陰キャとか言われてきたけど、モノ扱いはないと思うのよね」


 私にだって誇りはあるのだから。


 鏡の前で笑みを浮かべた由音は誰が見てもドキッとしてしまうほど魅力的だった。

 



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