第7話 初めての1日

 翌日。あたしは再び街を訪れている。

 服装は昨日にも似たコーディネートで、リリアちゃんは金髪に合わせたキュートな服を着せた。これなら奴隷には見えないはず。

 あたしの場合の契約の紋様は足の太ももだから短いスカートだとバレるかもしれないけど、リリアちゃんは右腹だからお腹を出さなければ問題ない。


「あ、あの……」

「うん? どうかしたの?」

「どうかしたというか。なんでこんなに……うぅ」


 昨日の威勢はどうしたのか顔を少し赤く染めてあたしの後ろに隠れながらついてくる。

 丈短いスカート似合いそうだから、貸したけど恥ずかしかったのかな。


「まあ、とにかく。服屋いくわよ」


 まあ立ち止まったりしたほうが人の視線を集めてしまいそうだ。あたしはリリアちゃんを半ば強引に引っ張りつつ、この街の服屋へと向かった。

 服屋にたどり着いて中に入ると多種多様の服がきれいに並べられている。

 昨日リリアちゃんを買った時にお金の大半使ったからあれだけど、まああとでまた手に入るし最悪お金なくても暮らせるから購入に躊躇はしない。

 そう思っていると、店の奥から扉を開けた時のベルの音に気づいたのか、ウェーブかかった黒髪の大人の女性がでてくる。


「あら、いらっしゃい。初めてかしら?」

「はじめてよ」

「見ない顔だと思った。ようこそ、ミルダのお店へ。店長でこの服を作っているミルダよ。ゆっくりしていって」

「ありがとう」


 早速中を見て回らせてもらう。ある程度買いたいと思うまでは手では触れずに周りから眺める形だけれど、いい素材を使っていそう。

 女神様から貰ったものは、高いものから低いものまで揃っていたけれど、店にくるとその値段を実感できる。

 そしてあたしはここで突っ込みたくなってしまう。女神様、色々とお金かけ過ぎじゃないですか。

 あたしの家に服に道具あたりまでは最初からあそこに揃ってたこと考えると、いたれりつくせりだと改めて実感する。


「リリアちゃん。気に入ったの……」


 一度、振り返ってリリアちゃんに話しかけようとするとそこにはいなかった。

 よく見ると入口付近で、呆気にとられてる。あの子、元貴族だったんじゃないの。


「リリアちゃん、どうしたの?」

「い、いや、だって。こういうお店とかに入るの初めてで」

「えっ?」

「今までは、兄とかが勝手に色々用意してこういう店に入ることはなかったから! 悪い!?」

「別に悪くはないけど。入口で突っ立ってても何も起きないから、一緒に見ましょう。そもそも、今日探しに来たのはリリアちゃんの服だし」

「そうだったの!?」


 昨日、後で服を買いに行くって言った気がするんだけどな。


「まあ、だから気に入ったのあったら言ってね」

「サイズもある程度なら調整できるわよ~」

「え? それなら、あたしも良いのあったら自分用に買おうかな……」

「ふふっ、買ってくれるなら私は大歓迎だから言ってちょうだいね~」


 ミルダさんは呼ばれない限りはカウンターにいるようだ。


「だから、ほらリリアちゃんもくる」

「わ、わかったわよ」


 元々、貴族だったのも理由かリリアちゃんが選ぶのは丈が長めのスカートが多い。それと色合い的には白や黄色にオレンジなどの明るかったり清楚なイメージの色だ。

 最初は恐る恐る色々伝えてきたけど、最後の方になると目を輝かせながら服を見ていた。


「じゃあ、調整するために大きさとか測るから。ちょっと、こっちきて」


 リリアちゃんがそうやって店の奥に連れて行かれる。その間、あたしは店の端に作られていた休憩スペースで待つ。

 だが、少ししてすぐにミルダさんだけが強い足踏みであたしのもとまでやってきた。


「ねぇ! ちょっとあなた! あのこ奴隷よね!?」

「えっ? あっ……まあ、そうね」


 やばい。服脱がせて測ってたらお腹見えちゃうのか。もう少し気にするべきだった。


「奴隷だと駄目?」

「いえ! むしろ大歓迎よ! ずっとあなたみたいな人を待っていたの!」


 何故か両手を掴んで力説してくる。その目は子供のように輝いていた。


「奴隷制度があることないことは仕方がないわ。だけど、奴隷であれど素材がいい子はたくさんいる。それなのに、奴隷だからという理由で服とか美を疎かにしている人をよく見かけていたの。私だったら絶対に奴隷なんて買ったらいろんな服を着せて見せびらかすのにってね!」


 ものすごい饒舌だ。あと、それは自分の服を見せたいのか可愛い奴隷を見せたいのかで意味合いが変わるような気もするけど、突っ込まないでおこう。


「ごほんっ、ごめんなさい。まあ、だから私としては大歓迎よ。たまに奴隷お断りの店もあるし、お金とか余裕があるならうちの店を贔屓にしてくれると嬉しいわ。それだけ。それじゃあ、まだ途中だったから戻るわね」

「あ、うちの子のことお願いします」

「は~い!」


 ミルダさんは上機嫌で戻っていった。


 ただ、その後奥からは「ちょっと!? そこまで測らなくてもいいんじゃ!」「いえ、重要なことなのよ!」「そんなの聞いたこと、ひゃんっ!? そこ触らないでっ!」「敏感なのね」「くすぐったいだけよ!」というようなやり取りが漏れて聞こえてきた。


 本当に胸の大きさとか腰の細さ測ってるだけなのよね。

 今まであたしは受けたことがないから想像つかないな。自分で多少はできるけど、ミルダさんは本職だから信じていいと思うけど。

 微笑ましいとも言えそうなやりとりが終わって静かになったと思うと、疲れきったリリアちゃんと、満足感あふれるミルダさんがでてきた。


「結構量あるからまた数日後に来てちょうだい。他に何かあるならサービスするわよ」

「下着ってある? あたしとサイズ違うから」

「一緒に見繕っておくわ!」

「じゃあ、お願いするわね。代金は先払いのがいいかしら?」


 そこそこの数は買ったものの、極端に高価な服は選んでないから払えないわけじゃない。


「こういう時は、値段の3割り先に払ってもらうことにしてるから。前払いは……この額お願い」


 あたしは指定された額を払う。受け取ったお金の計算が終わると一枚契約書にサインして渡された。


「受け取る時はその契約書と交換。忘れるんじゃないわよ」

「わかったわ。それじゃあ、また数日後にくるわね」

「ありがとうございました~」


 ミルダさんの見送りを受けつつ私達は店を後にした。


「リリアちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫よ。これくらいどうってことないわ」


 精神的にはお疲れなのがバレバレだけど、なんでここまで維持を張って強がるんだろう。


「まあ、じゃあ特にやることもないし少し休憩してから帰るわよ」

「わかった」

「食べたい物とかある?」

「それはあなたが決めるべきことじゃない……?」


 やっぱりそうなのかな。

 少し甘い物を食べたい気分だったので、喫茶店でお茶してから家まで帰った。

 日はまだ落ちきってなかったから畑の作業でも教えようと思ったけど、予想以上にリリアちゃんは疲れていたので1人でやろう。

 こうして、リリアちゃんがうちにきてから初めての1日が終わった。

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