そき姉の番

「は?」


そき姉が言ってる意味がよくわかんなかった。俺は自分の胸を見て、それからまたそき姉の顔を見た。


「なんでだよ。そき姉は別におれの身体とか興味ねえだろ?」

「そうだな。

だがこういうのは互いに触り合うのがフェアじゃないかい」


少なくとも高校時代はそうだったぞ、とそき姉は言う。

俺は顔をしかめた。


「知らねえよ。つかヤダ」

「なんでだ」

「嫌いなんだよ。触られんの」


そき姉は呆れた声で言った。


「よくもまあ、それでセックスさせろだなんて言えたものだな」

「セックスは触られなくても出来るだろ」

「そういうやり方は知らん」


俺は椅子に深くかけ直した。


「つか先に触らせろよ」

「それだと君に逃げられてしまう可能性があるだろ」

「別にいいじゃん。

つか、さっきまで条件も忘れてたくせに」

「ああ、だが今思い出した。

どうするんだ?別にやめても私は一向にかまわないが」


そき姉は脱ぎかけのカーデガンを身体に引き寄せた。

と同時におっぱいも寄ってたゆんと弾む。

俺は呻きながら唇を噛んだ。


「……わかった」

「ありがとう。じゃあもっと近くに来てくれ」


そき姉はニコニコとこちらを見ながら言う。

俺は立ち上がり、車椅子の手すりに自分の手を乗せた。

そき姉の顔を至近距離で見下ろす形だ。


「もうちょっと前屈みになってくれないか」


俺は渋々そき姉の言葉に従った。

そき姉が至近距離で上目遣いに俺を見る。

俺はそれだけでクラクラしてくる。


「いいか」

「いいから早くしろよ」

「では失礼」


俺の身体は恥ずかしいくらいびくりと震え、そき姉の手から逃れた。


「どこ触ってんだよ!」

「胸だが」

「ちげえだろ!そりゃ脇だろ!」


そき姉は掌を俺に向けたまま言う。


「緊張してるようだから、そこからスタートしようかと……

直接胸に行くのも躊躇われたものでな」

「いらねー気遣いだっつうの。あーもういいよほらっ」


俺はそき姉の手を掴んで自分の胸に当てた。

その瞬間、俺は自分でやっときながら、緊張して固まった。

そき姉は手を動かさないが、俺の心臓はぎゅっと潰れて止まってしまいそうだった。

体中の血がサイダーみたいにしゅわしゅわしてる。

おれはすぐにそき姉の手をどけた。


「も、もういいだろ」

「おや、もう終わりかい?

片方しか触っていない上に、自分の意思では手を動かしていないんだが……」


そき姉はにこりと笑う。俺は泣きそうになった。

この女、遊んでやがる。

俺は呻りながら、もういちどそき姉の車椅子の手すりを掴み、前屈みになった。


そき姉の両手が、触れるか触れないかみたいな繊細さでおれの胸を包む。

俺は声を出しそうになるのを必死にこらえた。

でも身体がびくりと震えるのは止められなかった。

そき姉は胸をなでさするように手をスライドさせる。


俺は情けないくらいぞくぞくして、立ってるのがやっとだった。

もーだめかも、と思ったとき、そき姉は手を離した。


「もういいぞ」

「へ?あ…そう」


多分3秒くらいだった気がする。

俺は身体を起こした。

髪をかき上げながら息を整える。熱いし変な汗掻いた。


「だいじょうぶか?身体、つらくないか」

「うるせえ。だいじょうぶだよ」


俺はなんだか恥ずかしくて目を伏せた。

それからそき姉をじろりと睨む。


「今度は俺の番だぜ」

「ああ、どうぞ」

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