第46話 入稿後の、家族風呂

 こうして俺は夜雨と風呂場へ。いつものように先に服を脱いだ夜雨が浴室へ入って、俺も続く。そして夜雨の頭を洗おうとしたとき――


「たのも~♪」

「ぶぇっ!? は? ちょ、ちょちょちょ! ええ!? ま、まひるさん!?」


 いきなり開いたガラス戸から、タオルで前を隠したまひるさんが当たり前のように入ってきてしまった。しかしタオル程度では隠しきれない豊満なぽよんが横からぽよよんしている!


「な、なななにしてんすかまひるさんっ!」

「ママも早く入りたくって、来ちゃいました~♪」

「来ちゃいましたて! え、ええ~!」

「ママも……一緒? 夜雨は……いいよ……」

「こらーちょっと待ってよ待ってよ! それじゃあたしだけ仲間はずれじゃん! じゃあたしも一緒に入る! 入るからっ!」

「夕姉まで!? いや待ってくれよ! プールとかじゃないんだからさ! ちゃんと身体洗うのに水着ってわけにはいかないだろ!? うわマジで!? マジで入ってきやがった!」


 夕姉もまたタオル一枚巻いただけで突入してくる。オイオイなんか大変なことになってきたぞ!? 前よりやべぇ状況じゃん!

 まひるさん止めてくれ――と願いつつそちらに見たら、まひるさんは手を合わせてニッコリとしていた。


「家族風呂、良いですよね~♪ 温泉を舞台にしたアニメの影響で……大きなお風呂に家族みんなで仲良く入るのが、ママの夢だったんです♪」

「まひるさんの夢を壊したくはないですがここは落ち着いて止めましょうってぇ! 夜雨はともかくまひるさんと夕姉と一緒ってのはちょっと問題が!」

「朝陽ちゃん」


 まひるさんが俺を呼ぶ。


「ママね、ずぅっと、朝陽ちゃんと一緒に入りたかったんです~。本当は夜雨ちゃんが羨ましくって……今日までがんばったママへのご褒美に、ダメ、でしょうか~?」

「ま、まひるさん……」


 まひるさんは、いつもは見せないようなちょっぴり切なそうな瞳で俺を見た。


「……んだー! そんな顔されたら、ダメって言えないじゃんかぁ~……!」


 そう答えると、まひるさんはパァッと明るい顔で笑った。

 そんなわけで、結局家族四人でのお風呂タイムである。夜雨の髪や背中を俺が洗って、俺の背中を夕姉が、夕姉をまひるさんが洗う。そして夜雨と夕姉が入浴した後、俺がまひるさんの身体も洗うことになった。せめてものお礼だ。

 けど……しかし……! タオルを取ったまひるさんの背中を洗うのは、なかなかに照れるものがあった。目のやり場! 一面肌色っ!


「ありがとう朝陽ちゃん~♪ とっても気持ちいいよ~♪ それにぃ、家族だから何も気にしなくていいんですよ~♪」

「そーそー。タオルで隠してるからいいじゃん。入浴剤でお風呂だって濁るんだしさ」


 浴槽から夕姉が顔を出し、こちらを見ながら言う。


「そ、それともなによ。弟くん、あたしたちのこと意識しちゃってるワケ? んまー家族をいやらしい目で見て! ま、前だってあたしのハダカみて超コーフンしてたしさっ、やっぱり弟くんの方が、その…………ス、スケベじゃん……!」


 これにはさすがの俺も我慢の限界である。


「あのなぁ……そりゃ家族だけど、家族だけども! まひるさんも夕姉もスタイル良くてすげぇ美人なんだからそりゃ一緒に風呂なんて入ったら意識するしいろいろ見ちゃうだろ!」

「ふぁ」「ほえっ」

「夜雨だってこの天使レベルの美少女ぶりだ! もっと成長して高校生くらいになったらさすがに俺はもう一緒に入れんだろうし、だからこそ一緒に入ってくれる今のうちに可愛がって……って、夜雨? なんで泣きそうなんだ!? え!? どうした夜雨!」

「朝陽ちゃん~……うふふっ♥」

「お、弟くん、たまに素でこういうこと言うんだもん。こっちが照れるじゃん……」

「兄さん……夜雨と、もう…………ううぅぅ……」

「ち、違うぞ夜雨! 夜雨だってスタイル良くて美人だぞ! 夜雨だけそういう魅力がないってわけじゃなくてだな! 俺の言い方が悪かった! ごめん夜雨泣かないでくれ~!」


 まひるさんは頬に手を当てながら嬉しそうにニコニコ笑っていて、夕姉はこっちから顔をそらしてなんだか赤くなっており、夜雨は悲しげにしくしくしていて、俺は夜雨を必死に泣き止ませながら、とにかくてんてこまいの家族風呂時間を過ごすことになった。


 ****


 ――それからあっという間に日は進み。

 6月も中旬。いよいよ『サンフェス』イベントを目前に控えた夜。

 俺たち美空家一同は、リビングに集まってそわそわしていた。


「そ、それじゃ開けるぞ!」


 俺の声に、まひるさん、夕姉、夜雨がこくんとうなずく。


 ちゃんと届いた、俺たち『美空家』の作品。

 そう。『星導のルルゥ』の完全版!

 イベントを前に送ってもらっていた見本誌を、ついに開くときが来たのだ!


『……おお~!』


 俺たちの声が揃う。

 まひるさんが気合いを入れて描いてくれたルルゥの美しいカラー表紙。装丁もすごく綺麗でしっかりしており、紙の質も良い。

 一枚めくれば、夜雨のボイスが聴けるQRコード。

 続いて始まる俺の小説。書き直した文章は前より読みやすく、面白くなったと思う。せっかくだから夜雨のボイスも聴きながらみんなで読み進めた。夜雨は恥ずかしそうにしていたが、完璧なルルゥの声だと思う。まぁ俺も、家族に読まれるのは恥ずかしいけどな。


 そしてプレビュー版では止まっていたクライマックスのシーンに入る。

 ライカの選択。ルルゥの選択。

 最後のページは、二人が星明かりの下で笑い合うシーン。

 こうして物語は終わり、奥付には俺たち『美空家』みんなのペンネームと、明日のイベント日付が入っていた。


 ――本を閉じる。

 誤字脱字、日付の間違い、レイアウトのズレな印刷ミスもない。カラーもすごく綺麗に出ている。一切合切問題なし!


 俺たちは自然に両手を挙げ、家族全員でハイタッチをした。


「これにて無事全作業は終了です! お疲れ様っしたぁ!」


 俺の声に、三人が拍手をしてくれる。

 あとはもう、本番を迎えるだけだ!

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