第20話 夕姉の場合
続けて俺は、夕姉のところへ向かった。
そして何度片付けようが時を戻したかのように服の山が出来上がっていた部屋で服に囲まれながら同じ質問をする。
「は~? そんなのキャラクターになりきればいいじゃん!」
と、鏡の前でピンク色のウィッグを着けている夕姉はまひるさんと同じようなことを簡単そうに言った。
俺は尋ねた。
「で、その心は?」
「いや別になぞかけとかじゃないし! そのまんま。コスの極意は身も心もキャラクターになりきることだもん。――よし。どーお? 似合うっしょ!」
長いピンク色の髪を手で払い、クールな笑みをキメる夕姉。
うん、いやまぁ実際似合うのがすごいところなんだよな。いわゆる2.5次元的な人だし。身のこなしとかもなんかアニメから出てきたみたいに想える。
「んふふ、それっぽいでしょ? 原作があれば何度も読んでキャラに感情移入したりしてさ。そうすると言動も自然とそのキャラクターそのものになってくの。そこまでいけば人前に出ても恥ずかしくなんかないし、露出の多い際どい格好とかでもヨユーだよ。もちろん恥ずかしがるタイプのキャラなら別だけどね。あ~、そういうのが一番キツイんだよなー個人的に!」
「ふーむ……そういうもんか」
以前のイベントでも思い出しているのか、夕姉はちょっと照れた様子で「やめろやめろ黒歴史ー!」とか悶えていた。片付けるペースより早く衣装がどんどこ増えてくからなぁ。すげぇなほんと……。
まぁともかく、そんな夕姉の発言にはやはり説得力があった。
なぜなら今夜の夕姉は、『ピーピングキュート』というアニメに出てくる人気の女性キャラ――『キスティ』のコスプレをしていたからだ。
その格好は今にも下着の見えそうな短めのスカートに、上はなんと下着すら身につけていない裸onパーカーである。そして頭にはウサギをモチーフにしたヘッドフォンを装着している。ちょっぴり天然気味なあどけないロリ巨乳キャラだ。性格は……まぁ、イタズラ好きなところは夕姉に似ているか。
胸のサイズもかなり近…………ていうかこの衣装ダメじゃない? 今にもこぼれそうですよ!?
「あっ、弟くんのいやらしセンサーキャッチ! すーぐお姉ちゃんのおっぱい
「覗いてないわ見えただけじゃ! つか、さすがにその格好が悪いだろ! そもそも前開き裸パーカーってどんなキャラだよって改めて思うわ! アニメみたいに絶対おっぱいポロリするじゃんそれ!」
「そういうキャラなんだから仕方ないじゃん! 本番ではちゃんとカバーするし大事なとこは隠してるからもし見えても安心……って、ホ、ホントにおっぱい見てたの? うう、ス……スケベ!」
「そういう反応されると俺が困るんだって!」
胸元を手で隠しながらジト目を向けてくる。相変わらずウブなくせに妙なからかい方をしてくるなこの義姉は! なんでそんな性格でこんなコス出来んだよって思ったけどだからプロなんだよねすげぇわ!
そこで俺はさっさと話を戻し、さらに深く尋ねてみることにした。
「で、でもさ夕姉。なりきるっていっても、そのキャラが夕姉とは全然違う考え方をするタイプだったどうする? 今コスしてる『キスティ』もそうだろうけど、夕姉なら絶対言わない、しないようなことをキャラがしたりしたらさ。同人イベならともかく、仕事の依頼とかだと断れないだろ」
「ん-、そゆときはちょっと困るかもね。感情移入がしづらいからさ。でもコスしちゃうと平気なんだなーこれが!」
「そうなのか?」
「うん。だってコスしてるときは自分がそのキャラクターそのものだからさ。考え方もそっちに変わるの。自分の考えで動いちゃったら見てくれてる人もなんか違うやって思っちゃうでしょ。ホントのあたしはどっか別のところで見下ろしててね。いざってときだけ出てくるの。演技……ってワケでもないけど、コスにはそういう変身の魔力があんの。まーそんな感じっ! なんなら弟くんも一緒にコスしてみればわかるっしょ! 今度一緒にやっちゃう~?」
軽い感じで言った夕姉だが、俺は内心でかなり驚き、そして尊敬していた。やはり夕姉もプロのレイヤーとして人並み外れた努力をしている。こういう人だからこそ、多くの人を惹きつけるコスプレが出来るわけだ。伊達に奇跡の美少女レイヤーと呼ばれてないわ。
真剣に考えていた俺を見て、夕姉がじと~っと目を細めた。
「あ~弟くん。今、お姉ちゃんにエッチなキャラのコスプレさせればエッチなこと出来るじゃ~んなんて考えてんでしょ? ほらスケベじゃん! 思春期全開少年! やっぱりやらしー弟くん!」
「ぶふっ! なんでそうなるんじゃ! 単純に創作の相談に来ただけじゃい!」
「ホントかなぁ? いつもこっそりお姉ちゃんのブラとかパンツをクンクンしてるんじゃないの? はぁはぁ、お姉ちゃんのイイニオイする~って」
「や、やってるわけねぇだろ! そんなのヘンタイ弟くんじゃん!」
「えーでも男子ってみんなそうなんじゃないの? お姉ちゃんは心が広いからさっ、たまに弟くんがあたしの下着を自分の部屋に持って行っちゃったりしても許してあげるよ~? 男の子っていろいろ大変なんでしょ? 一人でさ、えっと、その…………ほら、や、やるじゃん。……あの、マ、マジでしてるの……?」
上目遣いで恥ずかしそうに訊いてくる姉。その顔はどんどん赤くなっていく。なにを訊いてきてんのこの人!?
「だから照れるならセンシティブ発言すんなって! 真っ赤な顔で訊いてきやがって、ホントにやってたらどうすんの!?」
「そ、そのときは責任とってもらうしかないっていうかっ?」
「言っとくがマジでやってねぇからな! いっつもネットに入れて洗濯して畳んで持ってきて引き出しに並べてしまってやってる弟くんの純粋な気持ち考えたことあんの!? 感謝しろ感謝!」
「か、感謝はめちゃくちゃしてるじゃーん! だってお姉ちゃん、もう弟くんがいないと生きていけない身体になっちゃったもん♥」
「いやマジでな」
「あ、あれ!? 全然ドキドキしてくれてない!?」
「はー。ホント俺がいなくなったら夕姉どうすんだよ。つーか俺が来るまでよく生活が成り立ってたよな。夜雨に良くない影響与えるからもう少ししっかりしてくれ」
「もー弟くんってホントよるちゃんに甘い! ずるい! お姉ちゃんもずぶずぶに甘やかしてほしい! 一生面倒みてほしー! ばぶばぶー!」
「夜雨なら一生面倒見たいけど、って欲望をだだ漏らしにしながらくっついてくるな! 幼児退行すな! そっちがバブみを感じるな!」
「離れません! バブまでは!」
「どんな標語!? つーか今の格好考えてくれええええ!」
夕姉がじゃれてきて、服の海の中で組んずほぐれつになる俺たち。
そのうちに夕姉の前開きパーカーがポロリとズレて当然ながら上半身が露わになり、束縛から解放された二つの柔らかいモノに顔を押しつぶされる俺。
ハッとしてすぐに起き上がった夕姉。その赤面はさらに濃くなっていく。
「や、ややややりすぎだよバカ~~~~っ!」
そのまま真っ赤な顔でこちらを突き飛ばし、「ぐえっ!」と後ろにひっくり返る俺。全部あんたのせいなんですけどね!
ともかくそんなくだらないことをしながらも、クリエイターとしてはやはり一流である夕姉の心構えに俺は思うところがあった。
そして初めてバッチリと見てしまった夕姉の大事なところと、しばらく顔面に残り続けたその感触が無性に恥ずかしかった。本番ではマジでちゃんと対策してくれな……!
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