第16話 本当の姉兄妹のように
リニューアルで昭和の街並みを再現したという園内は、なんだか俺たちにも懐かしいと感じられる作りで、みんなで食べた昔ながらのナポリタンは美味しかったし、駄菓子屋での買い物は家族全員で真剣に選んで後々交換したりした。まひるさんは小さい頃駄菓子をまったく食べたことがなかったということで、特に目を輝かせていたのが印象的だ。俺も久しぶりにココアシガレットやビッグカツを食べたがやはりいいもんだ。
それからはまたアトラクションコースに戻り、船が大きく揺れるバイキングや回るスペースシャトル、それに結構な高さでスリルのある回転空中ブランコなんかは家族全員で騒ぎながら楽しんだし、タコの形をした人気の乗り物はまひるさんのお気に入りで、少女趣味な夕姉はファンシーなメリーゴーランドに心奪われたり、 夜雨は眺めの良い大型観覧車が特に好きだったようだ。
そして日が沈み始めた頃に向かったのは、空へ向かって上昇していくジャイロタワー。ゆっくり回転する展望タワーからの夕景は抜群で、近くの湖やドーム、さらには富士山までがとても綺麗に見えて感動した。絶景だ。
「わぁ~♪ すごいですね~~~♪」
「めっちゃキレイじゃーん! ほら写真撮るからよるちゃんおいで! 弟くんも!」
「う、うんっ。本当に……綺麗、だね……!」
「なかなかよく見えるもんだなぁ」
家族で肩を寄せ合い、夕姉が手を伸ばして構えたスマホで夕景をバックに自撮りをする。あちこちで夕姉が家族写真を撮りまくってくれたから、記念の写真もかなり増えたことだろう。ちなみに俺もホラーハウス出てきたときの夕姉を一枚こっそり撮ったんだよな。言わないが。
「――見てみてっ、あの子たちカワイー♥」
「――
周囲からそんな声が聞こえてくる。見れば、女の子たちのグループが俺たちを見てキャッキャしていた。
もう慣れていることだが、うちの家族は(俺以外が)やっぱり目立つのでどこかに出掛けるとこういうことがよくあるのだ。まひるさんたちもまったく気にすることはない。ま、そりゃ俺だってこんな人たちがいたら見ちゃうだろうしな。てかまひるさん長女だと思われてるぞ。
そこで三人がそれぞれ俺にくっついてくる。
「うふふ~っ。それじゃあ仲良し姉兄妹でイルミネーションを見て帰りましょうか~♪」
「あとお土産ねお土産っ! 弟くん知ってる? ここってもうなくなったとしまえんのグッズ売ってるんだよレアじゃーん!」
「おみやげ……夜雨も、欲しいっ。兄さん……いこ?」
「はいよー。お嬢様たちについてまいりますよー」
そんなやりとりをしながらタワーを降りた俺たち。
陽が落ちた園内で少しばかりの夜のイルミネーションを楽しみ、ラストに女性組が売店でお土産をたくさん買い込んで、俺たちはようやく園内を出た――。
それから電車に乗って帰路につく。
ボックス席のある特急を待っても良かったのだが、今回は地元まで延びる直通電車で乗り換え無しのコースを選んだ。
ロングシートに家族並んで腰掛ける。同じように遊園地帰りだろう人たちもちょくちょくと見かけた。
夕姉がSNSアプリの美空家グループに送ってくれた写真を見ながら今日の思い出についてしばらくみんなで語っていたが、さすがに疲れたのだろう。いつの間にか、右隣の夜雨は俺にぴったりくっついたまますぅすぅと眠っていたし、左隣の夕姉もデカい馬のぬいぐるみを抱えたまま俺にもたれかかってグッスリモードだ。うーん、俺も自然とあくびが出てくるな……。
「ふふ♪ 朝陽ちゃんも休んでいていいですよ~。着いたら起こしますから~♪」
「ああ、すいませんまひるさん。けど、俺まで寝ちゃったらまひるさんがうとうと出来ないですし、それに、下手に動くと起こしちゃうんで」
ガタンゴトン。ガタンゴトン。小気味よい電車の揺れと音が眠気を誘う。
特に今日は睡眠時間が少なかったからついうとうとするが、しかし俺はもう少し我慢だ。姉と妹がそれぞれこっちに身を預けているので、もう少しこのままの状態で寝かせておいてやりたい。二人ともかなりはしゃいでたからなぁ。それにどっちも絶叫頑張ってたし。そりゃ疲れるだろう。
すると、まひるさんが少しぼーっとした顔で俺たちを見つめていた。
「ん……? まひるさん?」
呼びかけると、まひるさんはふっと柔らかく微笑む。
「朝陽ちゃんは、優しいですね~♪ もう、すっかり本当の
「え? そ、そうですかね」
「はい~。夕ちゃんと夜雨ちゃんが毎日こんなに楽しそうなのは、頼りがいのある弟くんと兄さんが出来たからだと思います~♪」
ニコニコと微笑んで手を合わせるまひるさん。
俺たちは血が繋がってるわけでもないし、外見が似ているようなところもない。でも、そう言ってもらえるのはちょっと嬉しかった。
「そ、それでまひるさんは今日はどうでした? なんか、朝の夕姉の発案で急にこんなことになっちゃいましたけど」
「もちろん、すっごぉく楽しかったですよ~♪ こんな風に、一日中家族で遊ぶのは久しぶりで……うふふっ♪ 何より朝陽ちゃんがいてくれたから、たくさん素敵な思い出が出来ました~♪ 写真もたくさん撮れましたね~」
「はは、そうっすか。それは良かった」
そう言ってもらえるなら、みんなで来た甲斐があっというものだ。うん、良かった。
そこでまひるさんがひそひそと小声になる。
「今だからこっそりお話しちゃいますが……夕ちゃんは、ずっと弟くんを誘いたかったみたいですよ~」
「え?」
まひるさんの不意の言葉に、俺はちょっと驚く。
「『断られたらどうしよう』、『そもそも義理の家族と行くのって嫌じゃないかな?』、なんて、ママに相談してくれたんです~」
「じゃ、じゃあまひるさんは知ってたんですか? 仕事を空けておいたのも……?」
「うふふ。夕ちゃんは、とっても純粋な子ですから~。ぎりぎりまで、勇気が出なかったのかな~♪」
俺は隣でスヤスヤ眠る義理の姉に目を向け――そして心の中で感謝しておくことにした。
こうして美空家のみんなで遊園地に来るきっかけをくれたのはこの姉だ。それはきまぐれだったかもしれないし、長女として気を遣ったところもあるのかもしれない。どちらにせよ、今日家族で思い出を作れたのは夕姉のおかげだ。
今、こうして姉兄妹らしく見られているのならそれはきっと良いことだろう。他のお客さんたちにもそう見えていたんだろうか……なんて考えると、ちょっと気恥ずかしいな。
そんな俺を見てまひるさんがくすくすと笑い、それから言った。
「ところで朝陽ちゃん~。今日の取材は、役に立ちそうですか~?」
「取材? ……ああっ!」
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