第30話 新兵器護衛

 衛星軌道上で改修中の新兵器。

 これは、駆逐艦を掘削機に改造して小惑星を破砕するという特殊作戦艦だ。全長は50メートル程で、細長い艦体の艦首に、掘削用の巨大なドリルが据え付けられている。元々の艦名はラエ。外観はもう別物と言っていい位に改修されている。この新兵器には名前がまだついていない。

 その隣には、大型のレーザー砲を抱いた別の特殊作戦艦がいる。こちらはポートモレスビー。周囲には多数の運搬用シャトルや工作船がいる。また、宇宙服を着ている作業員も多数いた。この二隻を護衛する事が今回の任務だった。

 

「こいつは駆逐艦というよりミサイルだな」


 オレは周囲を警戒しながらつぶやく。


「ドリルミサイルって感じですね。何だかアニメに出て来そうなスタイルだよね。ボク、こういうの大好き」


 今はバリオンで哨戒中だ。宇宙戦用のB装備で固めている。

 今回も玲香がオレの相棒になっている。これは仕方がない。俺以外に玲香を引き受ける奴がいなかった為だ。この作戦に参加しているトリプルDのパイロットは、オレと玲香を含め6人だ。しかし、他の連中は玲香の先輩であるにもかかわらず、玲香と組むのを断りやがった。


「ねえ大尉。聞いてる? 少佐の事ばっかり考えてるの? それとも可愛いお嬢さんの事かな?」


 少佐とは妻の紀里香の事だ。相変わらず俺の上官である。紀里香との間に娘がいるのだが、まだ一歳だ。当然と言えば当然の振りだった。


「いや。お前の事だ」

「やだー。それ、愛の告白ですか? ボク、大尉の事は嫌いじゃないんですけど、告白はちょっと困るなぁ」

「どうして告白の話になるんだ。お前が面倒だという話なんだが」

「えー。ボクがお荷物だって事?」

「お前の面倒を誰も見たがらない」

「何で? ボク、可愛くないの?」

「可愛いとかそうじゃないとかの話じゃない」

「じゃあ何なのさ。ボクが嫌いって事?」

「違う。もう喋るな」

「え~大尉のケチんぼ。もうちょっと相手してよ」


 玲香とのこんなやり取りも平常運転である。任務中も賑やかなものだ。


「今日は暢気だな」

「そうだね。何も感じないし、何もないと思うよ。ボクの勘はよく当たるんだ」

「知ってる」


「任務終了まであと3分です。帰還準備に入ります」


 AIのツバキが会話に割り込んできた。


「分かった。任せる」

「進路変更。ラバウルへ向かいます」


 AIのコントロールで帰還軌道へと変更した。ラバウルは護衛の巡洋艦だ。今、オレ達のねぐらはラバウルになっている。


「もう帰還なの? もっと飛んでいたいなぁ~」

「我慢しろ」

「はーい」


 不満げな玲香を引き連れ、オレはラバウルへ着艦した。

 

 その後、数回の哨戒任務をこなしたが何も起きなかった。しかし、転機は訪れる。秋山と技術将校の山本大佐が乗艦してきたのだ。3機の新型トリプルDと共に。


 オレ達はミーティングルームに集められていた。

 話をしているのは山本大佐だった。


「この機体の原型はハドロンですが、安定化の為に出力を押さえてあります。代りに外部リアクターを強化してあります。その結果、機動性と火力が大幅に向上しています」


 山本大佐が説明しているのは、新型トリプルDの高機動型ハドロン改であった。これは高出力のビーム砲を標準で装備しており、宇宙戦専用の機体となっていた。


「明日より、この新型機の実証試験を行います。参加者は秋山大尉と斉藤大尉、それと」

「遠山上等兵であります」


 山本大佐の目線にいち早く気付いた玲香が返答した。

 

「そう。遠山君だな。君の才能には期待しているよ。よろしく頼む」

「了解であります」


 きちんと敬礼する玲香である。新型機搭乗に期待しているのだろうか。今日は大真面目だった。


 その後、オレ達3人は食堂へ行き昼食を取っていた。


「意外と復帰は早かったな。もう体は動くのか?」

「ええ、問題ありません」

「じゃあ、思いっきりイチャイチャできるね」


 ゴツン!

 こうして玲香に拳骨を食らわせるのもオレの日常になっている。


「この馬鹿者。秋山にはな、ちゃんと彼女さんがいるんだよ。余計なちょっかいを出すんじゃない」

「えー。ボク知らなかったよ。何て名前の人?」


 秋山の顔を見ると頷いている。喋ってもいいって事だろう。


「シキシマの操舵士。アイリーン時山少尉だ。長身で色白の美人さんだぞ。お前とは月とスッポンだ」

「ボクが月かな?」

「お前がスッポンだ!」

「もう酷いな。そんなに可愛くないの?」

「ん? スッポンは可愛いだろうが」

「え~。ごまかすの止めてよ」


 オレと玲香のやり取りは、何故か下手なコントになってしまう事が多い。それに対し、秋山は声を出して笑っている。


「イケメン様。今の、ウケましたか? ウケてますよね? ボクだって月とスッポンの意味くらい知ってますよ。わざとボケてるんですよ」

「分かってるよ」


 秋山が笑顔で返事をする。玲香の明るさは場を和ませる良いアクセントになっている。ボケも絶妙だ。


「ところで秋山。ここに来たのは囮か?」

「恐らくそうでしょう。地上だと何処から攻められるか判りづらい。しかし、此処なら攻撃意図を読みやすい。紀里香さんにそう説明されました」

「なるほど」

「それに、此処なら民間人への被害は最小に抑えられる」

「そうかもな。で、自分の事はどうなんだ。ここの方が死ぬ確率は高いと思うが」

「そういう事は深く考えていませんよ」


 あっさりと返事をする秋山だった。恐怖心はないのか。それとも達観しているのか。なかなか図太い神経をしている。


「大丈夫。ボクが全力で守ります!」

「ありがとう。心強いよ」


 立ち上がって宣言する玲香に、秋山は笑顔で頷いていた。

 その時、TVのモニターにニュース速報が流れる。


――ユーロとPRA連合の空爆開始。目標はイラク北東部にあると推測されるWFAの本拠地――

 

 対WFA作戦が始まった。AAL(アジアアフリカ連盟)承認の元、ユーロと我らPRA(環太平洋同盟)の作戦が開始されたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る