文学少女は恋がしたい

空乃ウタ

第1話


 文学少女と聞いて思い浮かぶ事は何だろうか。本をよく読み、眼鏡をかけ、髪をおさげにし、物静かな図書委員をやってるような女の子を想像するだろうか。恐らく、多くの人が同じようなイメージを持っているだろう。


 実際の所、どういった条件を満たせば文学少女になるのだろうか。


 私は小さい頃から本を読むのが好きだった。暇さえあれば図書館に行って新しい本を探す。冒険、SF、ミステリー、恋愛、自伝。ジャンルに好き嫌いは無く、興味のあるものは片っ端から読み漁った。


 そんな学校生活を送っていると、中学にあがる頃には、クラスの中で文学少女と呼ばれるようになった。私自身そんなつもりは無かったけれど、気が付いたら世間的には文学少女になっていた。


 私は、眼鏡もかけてないし髪もショートカット。クラスではうるさい方だし、図書委員もやってない。ただ本が好きという理由で文学少女の称号を頂いている。


 と、ここまで文学少女が何なのかについて考えてきたが、ぶっちゃけ凄くどうでもいい。高校生になった私にとって重要なのは、好きな人が本嫌いという事実であった。


 高校の入学式で、ラブコメ主人公よろしくクラスメイトの男子に一目惚れしてしまい、それからはずっと彼に思いを馳せていた。


 それなりの距離感をつかんで、一日に二、三言は会話するようになった。その中で、彼は本が好きではないという情報を手に入れた。運動部所属でインドアではなく、アウトドア派の彼は文字を読むのが得意ではないらしい。


 私と彼がある一定の距離から近づくことのない決定的な理由は、共通の話題がない事だった。本しか読んでこなかった私は、本に興味が無い人と何を話せばいいのだろう。


 悩み続けて数ヶ月。私はある決意をして、放課後に彼を図書室に呼び出すことにした。


 私は文学少女。世界で誰よりも――なんて大それた事は言えないけれど、その辺の本好きには負けない自信がある。


 自分の好きなものを好きな人に沢山知って貰おう。私の大好きな世界を。私の大好きなヒーロー達を。私の大好きな物語を。


 ガラガラと扉が開く音がする。


「――いらっしゃい!今日はね、知って欲しい事があるの」


 机の上に積まれた本の中から一冊を手に取り、彼へと渡す。


 今から紡がれていくのはどんな物語だろうか。それは文学少女にも分からない――。

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