ナンバー・オブ・ザ・ビースト:TCGプロ・プレイヤーを引退した俺ですが、復帰してまた世界最強を目指します。

春日康徳

序 章 記憶消去 ―Reset―

 フィーチャーテーブル――そこは殿堂でんどうプレイヤーや全勝ぜんしょう者同士による対戦が行なわれる、カードゲーム大会の最前線。


 全プレイヤーの目標であり、あこがれでもあるその舞台――『メイジ・ノワール』世界大会決勝。決勝進出者ファイナリストとして、フィーチャーテーブルに着席した駿河秋人するが・あきとは、スポットライトのまばゆい光に目を細めた。


 たかがカードゲーム。所詮しょせんは〝運ゲー〟。負けるたびに愚痴ぐちり、引きの悪さを、ゲームシステムをのろい。それと同じく。いや、それ以上に、こうしたら勝てるんじゃないかとあわいい期待を抱いて、持てるカードを引っかき回し、紙の束をにぎりしめ。

 歯車がみ合ったようにカチリ、と的中てきちゅうしたときのうれしさ、高揚感こうようかん

 誰も注目していなかったカードの組み合わせで、ライバルたちの度肝どぎもを抜く爽快感そうかいかん


 ひとつのミスが敗けに繋がる緊張のなか、ふるえる指先でカードをあやつり、活路かつろを切り開いていく勝利のよろこび――。


 あんなにドキドキしていたはずのゲームプレイは、しかし、いつしか自分を追い込む重荷おもにになっていた。


 カードパックをむくときのあのハラハラは、ただの作業になり――強いレアカードや箔押フォイルしカードは、使い捨ての消耗品しょうもうひんになった。


 負けたらあとがない選手を追い詰め、投了させることになんの罪悪感もなくなり、自分よりも弱いプレイヤーに苛立いらだち、気がつけば自分の周りには誰もいなかった。


 ぐるりと囲む中継のカメラ。表情のない審判ジャッジ目。相手を屈服くっぷくさせてやるというような、酷薄こくはくな目つきの対戦者。

 これが――自分の追い求めていたものなのか? 秋人は空虚くうきょな胸の内をながめ、呆然とした。


「キミ、イヤホンを外して」


 ジャッジが俺に声をかけてくる。

 しかし、秋人はジャッジを無視し、スマートフォンを操作した。ハイレゾフォーマット対応のプレイヤーを起動して、〝それ〟を流す。


 ――キュゥイン。


 高周波が耳の奥で鳴ったのを最後に――駿河秋人するが・あきとの意識は暗転した。

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