第26話 再会は食卓を思ふ

「え、ちょっ……ココ!?」

「シャルルルル、ぶ、無事だったたか!」

「リアナにアキューも……はぁ〜」


 地面に座り木に体を預けてるシャルちゃんの身体には、あちこち切り傷や擦り傷がいっぱいあった。強い彼女がどれだけがんばって、危険なモンスターと戦っていたのかすぐに想像できる。


「コラー、あんたたちがどうしてここにいるのー」

「えへへ、来ちゃった」

「来ちゃった、じゃないよー、もー」


 驚いた表情を見せたが、すぐに呆れ顔になって文句を言い出した。そんな彼女の態度も愛おしく感じる。それはどうやらリアナちゃんとアキューちゃんも同じのようだ。

 

 私たちはカバンから傷薬を取り出し傷口に塗布していく。シャルちゃんは痛そうに顔をしかめたが……文句を言った娘には、我慢してもらう!


「コラーココ、何か楽しんでるだろー、もー」

「あははは、ほれほれ染みるじゃろー♪」

「痛っ、痛い痛いって、もー後でおぼえとけよー」


 もーもー怒るのがかわいくてつい遊んでしまう。

 さっきまで魂抜けかけてたリアナちゃんも、怖さを忘れるくらい喜んでシャルちゃんを弄っていた。


「ははっ、げげげ元気そうで、安心しししした」

「バカヤロー、リアナあんた今も震えてるじゃん。怖いなら無理して来るんじゃないよまったくー。今回はさすがにヤバくて危険だってみんなわかってるだろー」

「……だから来た」


 アキューちゃんが私たちの気持ちをまとめて答え、いつものように親指を立てた拳を突き出す。私とリアナちゃんもアキューちゃんのマネをして笑った。


 シャルちゃんは深い深〜いため息をついて私たちを睨み頬を膨らませる。


「あんたたち、帰ったらごはん食べながらお説教だかんねー」

「うん!」

「ははは、わかったわかった」

「……何を食べるか決めておかないと」


 ごはんの時間が楽しみになってきたぞ!

 私も何を食べるか決めておかなきゃ!


「おおぉん……ひとつ星ぃ、無事に仲間と会えて良かったなぁ……うぉぉぉん!」


 ダインさんは大粒の涙を流して私たちの再会を喜び、少し遅れて駆けつけたルミーアさんも優しく微笑み一緒に喜んでくれた。


「ダインさん、ルミーアさんありがとう!」

「俺の方こそ熱い友情を見せてもらって礼を言いたいくらいだ……おぉぉん」

「ふふ、無事に会えて本当によかったわね。じゃあこの戦いが終わるようにもうひと頑張りして、みんなでレルエネッグに帰りましょう」

「おー!」


 ダインさんとルミーアさんは戦闘中のA班B班の援護に、私たちは引き続き救助活動を担当することになった。

 この先はいつモンスターに攻撃されてもおかしくない状況だから気を引き締め直して挑もう。


「ダインさん、ルミーアさんお気を付けて!」

「ありがと、貴方たちもね」


 2人と別れて私たちもまた活動を再開した。

 シャルちゃんを1人残して行くのは心苦しいけど今回ばかりは仕方ない。


 私たちはさっきと同じように森の精霊たちの力を借りて、負傷者を1人、2人と順調に発見して応急処置を施していった。


 今ではもうB班がモンスターと戦っているところが見えるくらいの距離まで近づいている。


「ゴアアアアアアアアアアッ!」

「ぴいぃっ!?」


 轟くモンスターの咆哮が心臓に悪い!

 唸り声だけでも心臓止まりそうなくらい怖い!


「こ、怖いね……リアナちゃんアキューちゃん大丈夫?」


 リアナちゃんは口をパクパクしている。もはや何を言ってるのかは聞き取れないが危険状態だ。


「……チキンポークビーフフィッシュ、んー」


 アキューちゃんは……今日の献立を迷ってた!

 怖くて混乱してるのか、それとも本当にごはんのこと考えてるのか……わからないが今この瞬間も大切にね!


 森の精霊が揺らしている木の葉を目印に、次の場所へ駆け抜ける。木の元へ到着するとすぐにカバンから傷薬を取り出して応急処置を施す。


 今回の人は打撲傷が目立っているから、打撲に効く薬を患部を塗って痛み止めの薬草をぺたり。後は包帯を巻けば終わりなのだが、怖くて手が震えて包帯がうまく巻けない。


 落ち着け落ち着け、しゅしゅっと巻いてきゅっと結ぶだけ。落ち着けばできるから落ち着け私!


 そう頭では考えるのだけども、どうしても気になってチラっと戦闘の様子を見ては、また怖くなりを繰り返してしまう。


 見ちゃダメ見ちゃダメ!

 見ないように何か別のことを考えよう。何が良いかな、そうだ今日のごはんのメインディッシュは何が良いか考えよう。

 お肉も良いしお魚も良いなぁ、でも今日はお肉の気分かなぁ。どんなお肉料理にしようかなぁ。

 あ、そういえばこの前冒険者ギルドで見た料理が、おいしそうで今度食べようと思ってたなぁ。よし、今日はあの鶏料理にしよう。あそこにいる鶏の大きさならみんなで一緒に食べれて良いね。うん、今日のメインディッシュはチキンにしよう!


 気が付けば私の視線は、B班の冒険者と激闘を繰り広げている大きな赤い鶏に注がれていた。

 大きな赤い鶏は冒険者を蹴散らして、次の対戦相手を探すように首を振ってこっちを見た。


 ……目が合ってしまった。


 いやいや気のせいだろうと思って、一度視線を外してからもう一度見てみると、やっぱり大きな赤い鶏は私を見ていてもう一度目があった。


 ばさばさっと翼を広げて私の方に向き直り、大きな赤い鶏はゆっくりと歩きだす。


「まずいっ、デッドリーチキンが標的を変えた!」

「そこにいる奴ら逃げろぉ!」


 B班の冒険者が叫び、リアナちゃんとアキューちゃんが私を見つめる。


「ココ……もももしかししして、ピンチかか?」

「うん……大ピンチ」

「…………チキンに決定」

「コケーーーーーーーーーーッ!」


 大きな赤い鶏デッドリーチキンは、B班の攻撃も無視してこっちに狙いを定めて走ってきた!

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さぁ、冒険に出かけよう! お茶の。つづく @tuduku

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