ヤンデレな幼馴染みの要求の全ての上をいってみた

りゅーと

ヤンデレ

この世には『ヤンデレ』という概念が存在する。

『ヤンデレ』とは、相手のことを好きで好きでたまらない人のことを指し、相手のためなら何もかもを犠牲にする。

時に好きな人に近づく異性を排除したり、連絡を取る親しげな異性を牽制けんせいしたり......。

そのような者たちのことを『病んでいるデレ』略して『ヤンデレ』と呼んでいる訳だ。

そしてここにもその『ヤンデレ』が1人......。


「ねぇ、私たち知り合ってもう16年経つじゃない?ということはもう結婚してると言っても過言じゃないんじゃないかしら?でも私たちは別に付き合っている訳でもない。でも私は彰くんのことが好き。狂おしいほど愛してるわ。彰くんのためならなんでも出来る。勿論死ねと言われればすぐにでも死ぬし、彰くんの言ったことはなんでも出来るわ。だから私と付き合って欲しいの。彰くんに彼女が居ないことは知ってるからどうかしら?」


「......」


屋上でつらつらと饒舌じょうぜつに話す彼女の名前は佐原さはら しおり

長く、透き通る様な黒髪を風がなびかせ、その隙間からは夕陽の光が射し込んでいる。

その様子だけでも絵になる彼女は、美そのものを表しているような顔もあわせ持っており、入学当初からかなりの数の男子に告白されたが、その全てを断っている。

何故なら、彼女の言葉を受けて押し黙る彼、明智あけち しょう以外は男として見られていないからである。

そう彼女は、俗に言う『ヤンデレ』である


「あら、黙っちゃうの?私自分で言うのもなんだけど結構可愛いと思うわよ。この黒髪もあなたに好かれるために毎日しっかり手入れして、お肌も真っ白でシミ1つ無いし、顔も整ってるとよく言われる。それに彰くんが好きな巨乳でもあるわ?どう?彰くんに釣り合わないかもしれないけれど、周りの女の中では断トツで可愛い自信があるわ」


「あのさぁ、栞」


ここに来て、押し黙っていた彰が口を開く。

その声は呆れたような音色だった。

それもそうだろう。

世の中では『ヤンデレ』は地雷だの、面倒臭いだのといった印象が強い。

この少年、彰も栞に面倒臭いと言う感情を抱いていることだろう。


「何かしら?彰くんが私の名前を呼んでくれるだけで既に幸せだけれど、私は彰くんと付き合いたいの。もっと幸せになりたいの。ほかの女に取られる前に彰くんを私のものにしたいの」


さらに独占欲を見せる栞。

そんな彼女に彰が突きつけるのは嫌悪感か、はたまた拒否か......。


「......俺たちって付き合ってないのか?」


えっ......?


「えっ......?」


「栞と付き合ってると思ってたから俺は他の女子との会話を全て絶ってるし、L○NEにも栞以外の女子はいないんだよ。お陰で女子に愛想のない俺は女子たちからめちゃくちゃ嫌われてるの知ってた?」


え、あぁ、そういう感じ?

シリアスな感じのお話じゃないんだこれ。

ギャグだわ。

あと、彰も絶対これヤンデレ入ってると思うわ。


「え待って、いつからなの?いつから付き合ってるって思ってたの?」


「2歳の時に告白してOK貰ったろ?」


ほらね!

言った通りじゃん!

イカれてるってこいつも!!!

なんだよ2歳とか、なんも覚えてねーわ!

まぁ補足しとくと、彰が初めて栞に会った時に話した言葉が人生で初めて話した言葉らしいんだけど、それが『付き合って下さい』で、同じく栞も初めて話した言葉が『よろしくお願いします』だったんだって。

良かったな、両思いだぞ。


「ち、ちょっと待って、思い出すから」


「栞は可愛いなぁ」


必死に頭を手で押さえつけて思い出そうとする様子の栞と、それを眺めて幸せそうな笑みを浮かべる彰。


「あん、好きっ......!ねぇ、結婚しましょう!今すぐに!そして夢のマイホームに2人で住みましょう!」


急な提案に彰は......


「......」


あー。

そこで黙っちゃダメだよー。

女の子が言う結婚って結構重いんだからね。

そこでチキって黙っちゃったら絶対ヒステリー起こすって〜。


「何?もしかして全部嘘だったのかしら?馬鹿な私を弄んで『ドッキリでした!』って魂胆かしら?でもいいわ、一瞬でも彰くんと付き合ってると思えたことと、可愛いって言ってくれた幸福感があるから。でも絶対に彰くんと付き合うのを諦めないわ」


ほらね、言ったでしょ?

ヤンデレ作品ってだいたいこういうのって相場が決まってんの。

まぁこれは黙ってた彰が悪いわ。

どんまい。


「違うんだ、結婚するまで内緒にしたかったんだが、俺はもう2人で住むための家を探し始めて候補をいくつか決めてるんだ。マイホームって言われたからバレたのかと思って焦っちゃったけど、やっぱり隠し事は良くないな!2人で決めよう!」


前言撤回、やっぱりお前ヤベーよ彰。

未来予想図10000くらい行ってるって。

相手が同じヤンデレでよかったな。


「そっ、そうだったのね!もうそこまで考えてるのね......。もしかして彰くんって私の事結構好きなの?」


「まぁ、世界で1番くらいには好きかな」


「ばか♡♡♡」




――――――――――――


え、なに、あれで終わりじゃなかったの?

あ、もうちょい続く?

なんかその後2人は結婚して、マイホームに住んでんだってさ。

どうせ幸せに暮らしてるんだろうな。


「ねぇ、彰くん。私もう耐えられないわ......」


「......」


え、待ってどゆこと!?

しばらく見ない間にめちゃくちゃ不穏な空気漂ってんじゃん!

この2人が喧嘩とか相当な事じゃない?

一体何があっt、


「私たちの子供のために彰くんがずっと子育ての本を読んでいるのが耐えられないの!ちょっとは休んだらどうかしら!心配で夜も眠れないわ......」


「大丈夫。栞の寝顔を見ているだけで疲れなんか吹っ飛ぶからな!それに産まれてくる子供に不自由させたくないし!」


「この子を産んだらすぐにでも2人目行きましょう」


「ばっちこい」


くたばれバカップル。

一瞬でも心配したけどヤンデレ同士だし、大丈夫か。




――――――――――――


あれ?

なに?

まだあんの?

あと少し?

まぁ別にいいけどさ。


「あったあった」


彰が買い物に行っている間に彰のスマホを弄る栞。

うわぁ、やっぱりやるんだそういうの。


「えと、L○NE、L○NE......。あったわ、これね」


ちょっとL○NEはマジでやめといた方がいいって。

プライベートってあんまり覗かない方が幸せなこともあるんだよ?


「友達は私だけっと♡」


マジか!!!

すげーな彰!!!

どうやって生きてんだマジで!?

しかも栞は当然って感じで言ってるけどそれってホントすごいことだからね?


「写真は......ぜ、全部私の写真じゃないの......」


写真フォルダの中には色々な角度から盗さ......元い、撮影された栞の写真が数万枚保存されていた。

うっわきっしょ。

流石にこれは引くっしょ〜。


「幸せ♡♡♡」


......まぁ、2人が幸せならそれでいいのか?


「ただいまー、さっき頼まれたアイス買ってきたぞ」


帰って来た彰に思いっきり走ってハグをする栞。


「ありがとう!ねぇ、彰くん?」


「なんだ栞?いつにも増して幸せそうじゃないか」


恋人の表情の違いを見分けるのは大事ってよく言うけど、ヤンデレの人って結構わかりやすいよね。


「私、彰くんと結婚出来て幸せよ?彰くんは?」


「あぁ、俺も幸せだぞ」


はいはい、テンプレテンプレ。

どうせこの後イチャイチャするんでしょ?

またかよ。

もう読者も飽きるって。

そろそろ終わろ?

ね?


「あぁ!彰が浮気してる!離れろこのクソビッチ!」


そこに現れたのは藍色に染めた髪の毛をサイドテールにした恐らく中学生の女子。

いや誰この子!?

見損なったぞ彰!!!

え?

なに?

あ、子供!?

おめでとう!

じゃなくて、子供までヤンデレだったの?

遺伝ってすげぇな。


「はぁ?いくらあなたが私たちの子供だからって超えちゃいけないラインがあることを知らないわけじゃないでしょ?痛い目見るわよ?」


子供に大人気ねーな!

もうちょっとはぐらかすとかなんかないの!?


「さぁ?わかんなーい!ねぇ、彰?私の方が若くて可愛いと思わない?」


彰の腕にまとわりつきすりすりと頭を擦り付ける彼女。


「いや、亜希あきも可愛いが、俺は栞一筋だ。諦めてくれ」


お前もめちゃくちゃハッキリ言うな!

そこは、『どっちも同じくらい可愛いよ』とか言うところじゃん!


「彰く〜ん♡♡♡」


歳をとっても幸せそうなことで。

まぁ、こういう愛もあってもいいんじゃない?


「じゃあこの女殺したら私が1番ってことか〜」


「はん!かかって来なさい!母の偉大さ見せてやるわ」


......前言撤回していいかな?




――――――――――――


「いやこれでいいじゃん!ヤンデレ最高じゃん!」


は?

誰だ!?


「作者だよ!」


いや作者が物語に出ちゃダメでしょ!


「お前何もわかってねーな!ヤンデレっていいんだぞ!浮気しなさそうだし、自分のマイナスな部分も肯定してくれそうだし、常に寄り添ってくれそうだし!」


お前もだいぶこじらせてんな!

あと『〜そうだし』って全部妄想じゃねーか!


「うるせーよ!未来○記の我妻由○ちゃんとか、SHU○FLE!(アニメ版)の芙蓉○ちゃんとか、下ネ○という概念が存在しない退屈な世界のアンナ・錦○宮とか、恋○暴君の○山茜ちゃんとか可愛いだろーが!」


呪文詠唱やめろよ!


「いいじゃん!願望書いたって!どーせ大体のラノベだって作者がなりたい自分とかやりたいこと詰め込んでるんだしさ」


それ以上はダメだ!!!


「第一さ、お前も俺が作った偶像なんだからさ、反論すんのやめてくんない?」


ついに権力ふりかざしてきたなぁお前!


「いいの?お前とか言っちゃってさー!?」


仕方ない、お前を止めるにはこれしかない......。


「俺を止める?書いてるのが俺なのに止まるわけねーじゃん!」


......付き合ってた彼女に重いって言われて振られた。


「自分で書いてんのにめっちゃナーバスになってきた......死ぬか......」


まぁ、生きてりゃいい事あるっしょ。


「お前、良い奴だな」


そうだな、俺もまたお前だしな。


「それなんてペルソ○?」


最後くらい真面目にできねーのか!?

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