第33話 とある少年の話⑤
笑香の家を後にしたニコは町中を目的もなく歩き続けた。
自分はどこに行けばいい。人間では無くなった自分に居場所はあるのだろうか。
ニコの心の中に巣喰った黒い何かはその
こんな恐ろしい力を持った自分は誰にも受け入れてもらえない。そう思うと、まだ自分の居場所として存在していたあの地獄は幾分かマシに思えてくる。
ぽつんぽつんと、ニコの頭のてっぺんに水滴が落ちてくる。
見上げれば星を覆い隠すように広がった雲から雨が降ってくる。徐々に勢いを増していき、数秒後には周辺の音を掻き消すほどの土砂降りになった。
そんな雨の冷たさも人ではない何かになったニコの体には鈍く感じられた。
とにかく町から離れようと思い立った彼は町の東にある山道へと向かう。
そうしてニコは歩き続け奇妙な建物に行き着いた。
町のものとは違い、どこか異端の雰囲気を持つその建物に親近感の沸いたニコは一旦そこに身を置く事にした。
ニコは中を一通り探索し偶然見つけた地下室にあるものを隠し、自分は月明かりが照らす二階の一室に落ち着いた。
それから数ヶ月間、ニコはただ部屋の隅でじっとしていた。
眠気も空腹感も失った体はひどく退屈で止まった時の中に閉じ込められているような気がした。
頭の中では笑香が残した言葉が響き続ける。
――こんな世界、壊れちゃえばいいのにね
ある日、ニコは気が付いた。
これが笑香の残してくれた光。この言葉が、想いが、自分を導く指標だと。
そんな中、ニコは部屋の中である一冊の本を見つける。それは誰かの日記であった。
その日記からは様々な情報を得ることができた。
世界には自分と同じ
日記を読み終える頃には、ニコにはある決意が固まっていた。
人間に戻る方法がないのならば、もう居場所がないのなら、壊してしまえばいい。二人だけの世界の世界を作ればいい。そうすれば――
「人の日記を勝手に見るなんて不遜な輩だな。まさか、
「……誰?」
ニコに声を掛けた人物はフードを深く被り顔を隠していた。ニコは直感的にその人物が自分を討伐に来たのだと察する。
直ぐさま、ニコは
「そんなに警戒しないでよ。今日は挨拶に来ただけさ。それに、君と戦うのは私の役目じゃない」
「……?」
拍子抜けしてしまいそうなほど軽い口調でフードを被った人物は話を続け、
「君が何をしようとしているのか、私は理解している。でも、まだ時期尚早だ。焦らず、準備を進めなよ――そうだ、たまには星でも見に行くといい。きっと良い出会いが待っているよ」
それだけ伝えると、どこかへ去っていった。
正体不明の人間を信用した訳ではないが、久しぶりにあの場所へ行くのも悪くないと考えたニコは建物の外へ出る。
そうして向かった先で、ニコはある少年と出会うことになる。
「おい少年。こんな夜に一人で何してんだ? しかも半袖って……。風邪引くどころじゃすまねーぞ?」
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