第23話 反撃のケルベロトゥースだにゃ!

「――アア、アアア、アアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」


 なんだ!? 今まで何を見ていた!? 夢!? 走馬灯!? この声はなんだ!? 自分の声か! 叫んでいる! 現実!? まだ生きてる!! 死んでない!! まだ、まだ、まだ、まだ!!!


「そうだ――死なねぇ!! このくっだらねぇ世界をブッ壊してやるまでは死んでやらねぇ!!」


 意識を取り戻したケルベロトゥースは、猛然と迫り来る天井に向かって「開け!」と命じ、瞬間的に生じた亞空間の裂け目へと滑りこんだ!


 魔技・チャック・オブ・トゥース! あらゆる空間の下に亞空間を発生させる、ケルベロストゥースの魔技である! ケルベロトゥースはこの能力によって地面、天井、壁を自由に動き回ることが可能なのだ!


 間一髪、激突を逃れたケルベロトゥースは冷静に呼吸を整えた後――急ぎ、グラシアの元へと向かったッ!


(もう全身ボロッボロだが、意識を保つのすらやっとだが――まだやれるッ! 虚勢を張れッ! なんでもいいから体を動かせッ! 俺にはまだ最終手段が残ってんだぜ――!)


 グラシアの足元へ忍び寄ったケルベロトゥースは勢いよく飛び出し、確保! そのままローリエルに向け、盾のように構えたッ!


「グラシア君ッ! くそッ!!」


 ローリエルは形相を変えグラシアの元へ向かおうとするが――「動くんじゃねェぞ酒女ァ!!」ケルベロトゥースによって機先を制される!


「シャハハハ……まァ二人とも、そう怖い顔すんじゃねぇよ。まずは俺の話を聞け。な? でないとこの可愛い弟子が、どうなっちまうか――分かるよな?」


 ケルベロトゥースの腕が、サメの顔が! グラシアの細い首をかぷりとくわえる! 甘噛み――死と隣り合わせの恐怖! さすがのローリエルもこの状況には手も足も出せぬ!

 ケルベロトゥース、形成逆転!


「シャハハハ……聞け酒女ァ! 俺ァな、テメェと事を構えるにあたって、あらゆる策を講じてきた! 百体ものジョーズ遊撃隊を招集し! ダンジョン・シャークを従え! だがそれで終わりじゃねぇ! 俺ァ、テメェの弟子に――!」


「「なっ――!?」」


 ローリエルとグラシアの表情に衝撃が走る! その瞬間、グラシアの口から血が零れ出す!!


「グ、グラシア君!?」


「シャハハハハ!! ようやく廻ってきたみてェだなァ毒がよォ!! 小僧、助かりたいか!? 助かりたいよな! こんなところで死にたくねェよな!? 安心しろ、ちゃーんと血清を用意してある! だが、!」


 ケルベロトゥースは、もう反対の腕――サメと化した腕を、ローリエルへと向ける!


「俺ァ、血清けっせいを教えてやってもいいと思っているッ!! だが勿論タダなわけァねェ!! 酒女ァ!! テメェの命とガキの命を等価交換だァ!!」


 なんという申し出か!? 卑怯千万!! 外道の所業!! ローリエルは固く拳を握りしめる!


「し、師匠……僕のことは気にしないで、ゴフッ――! 僕ごと、コイツを倒してください!」


 グラシアは血を吐きながらも、必死でローリエルに呼びかける!


「コイツの言う通りです――! 僕は弱い! そのせいで、師匠の足をいつも引っ張ってしまっている! 師匠をいつも危険な目に遭わせてしまっている! それでっ、師匠が、こんな奴にやられてしまうくらいなら、僕は――!」


「シャハハハハッッッ!! 素晴らしいなァ、美しいなァ! 師弟の絆ってかァ!? シャハハ、感動的すぎて反吐が出るぜ! で、どうすんだァ酒女ァ!? 早く決めねぇと可愛い弟子が死んじまうぞ!!」


 自らの首を搔っ切るジェスチャーでローリエルを挑発し、ケルベロトゥースは慟哭どうこくするッッ!!


「自殺しろ、酒女ァ!! 自殺しろォォォォォォォッッ!!! さっさと自殺しやがれェェェェェェ!!!!」


「師匠……! 僕のことは構わず……! どうか……!」


 ローリエルは固く拳を握りしめたまま、しばらく俯いていた――だが!

 おもむろに顔を上げ、そして大声で叫ぶ!


「――どっちの言うことも、お断りだにゃァァァァァァァァッッッ!!!」


 ローリエルは、拳を堅く握りしめたまま! 

 猛然とケルベロトゥース目掛け、疾走していく――!!

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