第19話 待ち受ける刺客だにゃ!

 薄暗い洞窟の足元を、海嘯石かいしょうせきの淡い水色がぼんやりと照らし出す。ルービ周辺の洞窟にだけ見られる幻想的な光景にローリエルは目もくれず、先へ先へと突き進んでいく。

 だが、少しずつローリエルは違和感を感じ始めていた。

 

(おかしいにゃ……! 本当にこの場所で合っているのかにゃ!?)


 進むにつれ、道はどんどん細くなる。やがてローリエルの頭が天井にぶつかるようになって、幅も体がようやく通り抜けられる有様となっていた。


「まさか……まさか、罠なのかにゃ!?」


 ローリエルの脳裏に、最悪の発想が過ぎる。

 時間稼ぎをされているのではないか? こうしている間にも弟子の身によからぬことが起こっているのではないか? 疑心暗鬼、不安、息苦しくて狭い空間――。状況や地理的な不利が、少しずつローリエルの精神をむしばんでいく!


「アアアアアアアアアアッッッッ!!! イライラするにゃぁ!! 誰だか知らないけどこんなチマチマしたこと考える奴は、絶対イイ性格してるに決まってるにゃ!!」


 ローリエルの怒号が、洞窟の中に虚しく木霊する――と、その時!


「サーメサメサメ!! ようやく自分が罠にかかったと気付いたか、マヌケめ!」


「! 誰だにゃ!?」


 声はすれども姿は見えず! いくら辺りを見渡しても、海嘯石かいしょうせきの淡い水色がぼんやりと漂うだけである! 不穏!


「サーメサメサメ!! ここだよォォォォォォォ!!」


 足元から殺意! ローリエルは敏感に気配を察知、目にも止まらぬ超速ステップで背後へと飛び退すさった!

 次の瞬間、DRRRRRRRRRRRR!!!!! 削岩機さくがんきのような凄まじい爆音が地底から駆け上がってきたかと思うと、数瞬前までローリエルの体があった場所へ巨大ドリルが突き出した! 間一髪!


「サメサメサメ……! イイ動きするじゃねぇか、酒女! この俺――ドリルシャーク様の攻撃を避けるとはな!」


 地中から顔を覗かせたのは、奇怪な魔獣! 全身が黒い体毛で覆われており、顔の大部分は削岩刃さくがんじんの付いた巨大ドリルで占められている! さらに背中と腕からは鋭利なヒレが生え、口元からは鋭い牙が見え隠れする! こんな規格外な化物はガイヤー以外あり得ない! ローリエルは思わず悲鳴を上げる!


「ぎゃー!? 気持ち悪いにゃ!! どうしてガイヤーって奴はみんな気持ち悪い奴ばっかりなんだにゃ! ていうか酒女ってなんだにゃ、ゴラァ! さっさとグラシア君を返すにゃァァァァァ!」


「サメサメサメ! 残念ながら愛しい弟子ちゃんはここにいないゼ! お前、騙されたんだよ! ケルベロトゥースの旦那になァ!」


「ケルベロトゥース!? そいつが主犯ってわけかにゃ!?」


「その通り! ――だが知ったところでもう遅い!」


 ドリルシャークは再び地中へと姿をくらませる! ローリエルはすぐに集中、敵の気配を察知しようと試みるが――突如、地響きが発生! なんと足元が崩落してしまう! 流石のローリエルといえども、空を飛ぶことは不可能! 為す術なく周囲の岩盤ごと洞窟の奥底へと落下してゆく!

 しかし、ローリエルは冷静ッ! 周囲を見渡し、落下先を瞬時に確認すると、着地のタイミングを見極めて四回転サマーソルト! 華麗に着地ッ! 

 水深は浅い――せいぜい足首が浸かる程度である!


「サーメサメサメ! ここがお前の墓場だよ!」


 ローリエルを待ち構えていたのは、異形の群れ! 先ほどのドリルシャーク以外にも数匹の気配が近づいているッッ!


「お前はここで、弟子に会うこともなく死ぬんだよォ! 俺たちケルベロトゥース特戦部隊――”ジョーズ遊撃隊”の餌になってなァ!」


 ローリエルの額に太い青筋が浮かび上がり、ビキビキと音を立てる――!


「アアアアアアアアアアッッッッもう!! お前らみたいな雑魚を相手にしてる暇は無いんだにゃ! こうなったら全員ブッ飛ばしてやるから、さっさとかかってこいにゃァァァァァァァッッ!」


 ローリエルVSジョーズ遊撃隊!

 恐ろしい戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた……!

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