第12話 勝利の美酒は朝焼けの味にゃ!

 夜空から、ようやく白光が消え去ろうとしていた。

 ローリエルの放った絶酔魔拳奥義ぜっすいまけんおうぎ狂華酔天破墜砲きょうかすいてんはついほうの残光が、ようやく燃え尽きようとしているのだ。

 

「すごい……! すごいです師匠!」


 戦闘が終わり、荷車の後ろで見守っていたグラシアが、ローリエルの元へと駆け寄った。彼の目元からは、ぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちていた。


「にゃっ!? なんで泣いてるにゃ!?」


「だって師匠ッ! 今回もめちゃくちゃ強い化け物が相手だったじゃないですか! なんですかあのエビ人間! 早すぎて何が起こってるのか全然分かりませんでしたよ! 僕は師匠がやられてしまわないかと心配で心配で……!」


「にゃ、にゃにー!? 私があんなエビ野郎に負けると思ってたのにゃ!? 弟子のくせにけしからん奴だにゃ!!」


 ローリエルは細心の注意を払って、グラシアの頭を優しく叩いた。すると、グラシアはふらりと横になって倒れてしまう。


「にゃああああああッ!? 力加減を間違ったかにゃ!? も、もしかして死――」


 彼女は慌ててグラシアを抱えたが、彼が穏やかな寝息を立てていることに気がついて、ほっと胸を撫でおろしたのだった。


「う~ん……師匠……ご無事で何より……むにゃむにゃ……」


 考えてみれば、一日中荷車を引きっぱなしで、体力も限界だったところに十壊衆じゅっかいしゅうの襲撃だ。今になって、緊張の糸が解れてしまったとしても無理はない。


「僕もいつか師匠みたいに……強く……」


 寝言でも相変わらずなグラシアに、ローリエルは思わず微笑んだ。


「なれるにゃ! ゆっくりでいいから、ちょっとずつ強くなるにゃ!」


 グラシアの髪を優しく撫でていると、向こうの山から静かに、太陽の光が昇り始める。

 もう、夜が明ける。新しい朝が来る。


 ローリエルはしばらくの間、まぶしそうに眼を細めたままグラシアの寝顔を見守り、それをさかなにして酒瓶を一つ空にしたのだった。

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