第19話 早口になる時って自分じゃ気が付かないよね
[新学期ですね。私も学業が再開し、ドッタンバッタン大騒ぎなため、かなり更新頻度が落ちています。申し訳ないです……]
「……この森を根城にするという魔王を討つためである!」
「ンッ!!?」
思わず紅茶を吹き出しそうになった。同じく紅茶を飲もうとしていたレイも吹きかけたのが見えた。あぶない。村長はなんでそんな平然としているんだ。ヘイルはむせていたので、背中をさする。
「どうされましたかな?もしや、魔王について心当たりが?」
「いやー、あはは、えーっと……」
答えに困って笑っていると、紅茶を飲みほした村長から助け船が飛んできた。
「……そういえば、魔書塔の。さっき、バグミラージの死骸を後で片付けるとか言っていなかったかな」
「あ、そ、そうだったな!レイ、ちょっと手伝ってもらえるか?」
「いいですよ。場合によっては凍らせた方がいいですし」
「ぼ、僕もて、手伝います、です……!」
「ぼくも、被害をちゃんと見ないとだからね。行くよ」
「ならば、吾輩も行こうぞ」
アーロが立ち上がりながら言った。それを見て、俺は来るのを止めようとした。
「アーロ……さん?は気絶してたんだし、休んでたほうがいいんじゃ?」
「アーロで良い。いや、吾輩が不覚を取ったことにより、偶然とはいえどこの村に迷惑をかけたのは事実。ならば、吾輩も後始末は手伝うのは道理である」
そう言われると納得してしまう。言動はちょっとアレな気配がするものの、思ったより根底は常識的なのだろうか。
「分かった。んじゃあ、行くか」
▼▼▼
「……それにしても、どうしてバグミラージがここまで来たのかな」
「そこなんだよな。群れの長って基本的に縄張りから出ないし、最寄りの縄張りでも森の奥だし」
バグミラージは、長の見た目こそ結構グロテスクなものの、温和で知能の高い種族だ。特に長の個体は言葉を理解するだけでなく、話せる個体も存在する。俺の出会った青い目の個体がそうだった。
仲間意識や縄張り意識が強めなのか、縄張りを守るため、長は基本的に縄張りの範囲から出ることはない。
「あ、その、なら……何か緊急事態とかです……?」
「ありそうなんだけど、それなら群れごと移動しそうなんだよな」
「群れが長以外全滅、もあり得なくはなさそうですが、そのようなことができる魔物や人物がいるか
……」
「この森でもバグミラージの長は一・二を争う実力者なんだよ。渡り合えて
「なれば、やはり魔王の……」
そんなアーロの言葉を聞き流しつつ、バグミラージが出現した果樹園の場所まで来た。
「……あれ?」
しかし、そこにバグミラージの死骸はなかった。
バグミラージが倒れた跡や、暴れた時にできた樹の傷、なぎ倒された茂みなどがあるので、確かにそこにバグミラージがいた痕跡はある。
「たしかにほったらかしにしていたよね。まだ生きていたとか……」
【万象の閲覧者】にしっかりと『死亡・負化』とあったから、まだ生きていた……なんてことはないはずだ。
「そ、それはないとおもう、です……ぼ、僕、トドメはその、ちゃんと刺したと思います、ですし……」
「む、ケセド殿でなくイェソド殿が倒されたのか?」
「せ、先生だって強いです!あ、で、でも、その……考える前に体が動いて、その……」
……ん?待てよ?『負化』?
ぼんやりとその内容を思い出してきた。後で本で調べようと思っていたが、これはそう悠長に言ってる場合な案件ではないような。
「ここの木の幹についた跡は、ヘイルくんの蹴った跡ですね。こっちはおそらく、バグミラージの尾がぶつかった跡で……おや」
視界にメッセージウインドウを呼び出す。
《状態:負化
・術式が組み込まれた場合、一定確率で状態異常として起こる。死亡時、一度だけ歪化した状態で蘇生される。自然発生は例外を除き、しない。》
つまり、『人工的に歪化を起こすことのできる前段階』ってところか。しかも『自動蘇生付き』の……って、ヤバくないか?
どう伝えようかと悩んでいると、レイが何やら拾ったらしく。
「失礼。これが落ちていました」
「む、それは……」
それは、片手のひらに収まるくらいの大きさの紋章だった。ピンバッジとかに似ている。
紋章は全体的に見るとハート形をさかさまにしたような形で、そのハート形の中に蟷螂のような形の模様が入っている。日本の家紋みたいな感じのやつだ。
その紋章をアーロは知っている様子だった。しばらく悩むそぶりを見せた後、合点が行ったのか、掌にポンと片手を打ち付ける。
「おお!それは吾輩が探していた盗賊団の紋章ではないか!」
「え、盗賊団って紋章を付けてるものなの?」
「うむ。一体感を高めたりなどの士気高揚目的に作る盗賊団は多い。小さな盗賊団から、かの有名な『金のランプ』盗賊団のような巨大組織まで、それぞれ紋章があるのだ」
「へぇー」
『金のランプ』盗賊団ってなんだろう。そう思ったが、それについては後回しだ。多分絶対に今関係ない。後で調べるなり聞くなりしよう。ティファなら詳しそうだ。
「つまり、あのバグミラージはアーロさんの追ってた盗賊団関係ってことかな」
「ほぼ確定だと思うな。どうも、負化していたみたいだし、何かしらの魔法が……」
「負化ですって?!」「負化だと?!」
『負化』と言った瞬間、レイとアーロが大声をあげた。ビックリした。同じくびっくりしたであろうヘイルは、俺の後ろに隠れてしまった。村長はなんかニコニコしてるけど。
「それを早く言ってください!!というかどうして分かったので……ああいや、これについてはいいんですが、とにかく、かなり緊急事態ですよ」
「その通りである!一刻も早く盗賊団の居場所を突き止めねば……!」
「待って??緊急事態なのはわかるけど、そんな叫ぶほどなのか?」
いまいち状況が呑み込み切れていなくて首を傾げる。
「……あー、分かりました。教えますから、とりあえず、イドラさんは村に戻り警備を強化してください」
「そのつもりだよ。それじゃあ、魔書塔の。盗賊退治頑張ってね」
「あ、うん――――って、えっ、俺盗賊退治に駆り出されるの確定なの?!」
「あなたの回復のチカラは強力ですしね。一応この森もハートフィル領内ではありますし、負化を起こせるような盗賊団に国内にいてもらっては困りますし……村が襲われたのなら、確実に狙われていますし」
「わ、分かったから」
「……と、いうことでキーバさん、でしたね。盗賊団退治、私たちも同行しますが、良いでしょうか」
「うむ。吾輩としても、協力者はありがたいのでな」
俺が口を挟むこともできないまま、盗賊団退治に協力することとなってしまった。いやまあ、村が狙われたって訳なのだから協力するけども。それでも、ちょっと強引すぎないかと、ヘイルを撫でながら思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます