第14話 朝日と魔王

[☆100越え……えっ、100越え?!いつも、ありがとうございます。作者は嬉しさで溶けそうです……]


 屋上に出るころには、太陽は登ろうとするところだった。

 階段から出た背後が丁度北東らしく、俺達の背中を照らす。テイファが前で、俺とレイが並んで後ろ。前衛後衛の役割的にはそんなものだろう。背後が怖いが、この際仕方がない。


 屋上はやはりひどい状態で、おそらくもともと花壇などがあったのだろうレンガの囲いの中には、土や植物の代わりに毒液で満たされている。

 所々は浸食されたのか、穴が開いてそこから下の階へと毒が滴っている。



 屋上には、やはりと言うべきか先客がいた。ぼんやりと空を眺めている様子の彼は、おそらく、先ほど見かけた少年で間違いない。

 声をかけるべきか悩んだが、その間に少年がこちらに気が付いたのか、振り返った。


「あの……」


 恐る恐るという様子で、少年は声を出した。どことなく、声質はヘイルに似ている。とは言っても、ヘイルの声を聞いたのはあの街道のみなので、確信は持てないが……まあ、服装が同じなので、ヘイルだろう。

 ただ、奴は金髪に紫の肌だったはずだ。

 ともかく、何か言いたげなのだから、こちらもリアクションしよう。そのほうが話しやすいだろうし。


「どうした――――」


「……あ、あぁぁ、ぅっ……!」


「だ、大丈夫か?!」


 少年は突如頭を抑えながら苦しみだした。聞こえる何かから耳を塞ぐように、手を伸ばしてくる何かを振り払おうとするように、うずくまる。

 

「お、おい!」

「出ちゃダメ。今手出ししたらダメだよ」


 状態を視ようと一歩前に踏み出そうとするのを、テイファに止められる。

 心配になりながらも、おとなしく様子を見る。


 すると、少年の姿がみるみるうちに変わっていく。

 ベージュ色の肌は指先や額から徐々に侵蝕されるように紫色へと変わっていき、白銀の髪は絵の具が滲むように金色へと変化していく。


 変化が進むにつれて、少年は静かになっていく。髪が完全に金色に変わる頃には、少年は完全に『魔王ヘイル』となっていた。


「……よぉ、俺様の家にようこそ?」

「驚いたよ。キミが変身するとか、はじめて知ったよ」


 顔を上げたヘイルに、テイファが剣を抜き構えながら言う。いつの間にか、レイも水を象った長杖を持っていた。どこかに持っていた様子はなかったんだが……。


「変身……?あー、アイツのことか?クソ弱臆病者クンのことか?」

「それって、ヘレテイール王子のこと?」

「どーだろー……なっ!」


 ヘイルが放った拳を、テイファが剣で受け止める。ヘイルの拳は宝石やら指輪やらでメリケンサックのようになっているためか、金属がカイィィィンとぶつかる音が鳴った。


「”霧氷針アイシクル・ダスト”」


 そこへ、レイの氷魔法が飛来する。小さめだが鋭く硬いの氷の針の群れがヘイルへ向かう。それをヘイルはバク宙で回避。

 その着地点を狙い、テイファが電撃を纏いながらとてつもない速さで刺突を繰り出す。が、ヘイルは即座に反応し、跳び上がる。そこを狙ったレイの氷魔法は、なんと氷塊を拳で砕いて防いでみせた。

 しかし、その頃にはテイファが背後に回っており、流石に回避しきれないのか攻撃をくらい、吹っ飛ばされる。その直前、何やら紫の霧を吹きかけたのが見えたが、テイファはなんともないといった様子だ。


「な、なんで!”鋳変の毒ヴォルファー・ギフト”が!!効いてねえんだよ!!!いっつも回避してるクセに!!!!」


 どうやら、テイファに対して使っていた――――テイファが「耐性を貫通してくる」と言っていた奴だろう。効果を解析したところ、『対象の持つ耐性によって効くまで時間がかかるが、耐性に関係なく効く』ものだと表示された。致死性のものだそうだ。


 まあ、それも俺が付与した”持続浄化付与スステ・アイニグル”によって打ち消されたのだろう。それを貫通してきたところで、毒に変わりがないのなら、俺のチカラでどうとでも解毒できるのだが。


「さー、なんでだろーね?答えなーい」


「あぁぁぁぁぁ!!!ッチ、ウッゼェ!」


「惜しい、躱されましたか……」


 話の途中でレイが放った氷の鎖は、すんでのところで無理矢理起き上がったヘイルに躱されてしまった。



 それを皮切りに、再度攻防が始まった。


 ヘイルが殴り掛かるのをテイファが防ぎ、回避した隙を突いてレイが氷魔法を放つ。それをかいくぐってヘイルは毒を伴った攻撃を仕掛ける。およそ、その繰り返しだ。


 その様子を、俺は階段近くで様子を解析しつつ見ていた。といか、それ以外にできることがない。


 俺には、攻撃できるようなチカラはない。攻撃魔法も、今のところ使えたためしはない。できることと言えば、回復や支援。

 しかし、ヒーラーは、仲間が傷つかなければ出番がない。バッファーも、バフをかけ切ってしまえば一旦出番はなくなってしまう。

 つまり、ヒーラー兼バッファーみたいな立ち位置の俺は、ぶっちゃけ現在出番がない。そうなると、邪魔にならないように、かついつでも回復を掛けることができるように、端っこから見てるしかできない。

 そもそも、俺は戦いに関してはどう足掻いても素人で、一応格闘は村人に教えてもらったりはしたけど、「格闘家」と名乗れるようなものじゃない。ほぼ護身用だ。


 ……そういや、転生してから初めての本格的な戦闘が、どうして魔王戦なんだと俺はツッコミたい。



 そう考えていて、一瞬目をそらしたのが悪かったのだろう。レイとティファの叫ぶ声、それからヘイルの拳がすぐ前までに迫っていることに気が付くのに、少し遅れてしまったのは。


「クソ魔族、テメェの所為かぁぁぁぁぁぁ!!」

「ヒルフェくん!」「ヒルフェさん!」


「ちょ、っ……とぉ?!」


 俺が近すぎるせいかテイファもレイも攻撃できない様子だ。このままでは、ヘイルの拳が俺の顔面を殴り飛ばすだろう。

 

 どうする、俺。【思考加速】みたいなスキルを持ってない俺に、悠長に考えている暇はない。


 俺は咄嗟反射で、翼で自分を包むようにガードした。ヘイルの拳が、俺の翼の膜に当たり、衝撃が吸収される。

 痛いが、箪笥の小指……ではなく、箪笥の角で小指をぶつけた時くらいの痛さだ。このくらいなら、ノーダメージ。


「なっ!」

「おっけー、そのまま飛ばしていいよ!」


 テイファの声に応え、そのまま、翼を一気に広げると、風圧と勢いでヘイルは空中に放り出される。空中で態勢を立て直すことができなかったのか、もがいている。


 テイファは狙いを定め、構えをとる。

 周囲にスパークが走ったかと思えば、ドン!という音だけを残してヘイルのすぐそばで、胴体を狙って剣を振りかぶっていた。



「”天雷光斬スパークブレード”!」


 稲光が走り、ヘイルに直撃する。雷撃を纏った剣がヘイルの胴体をとらえ、彼を思いっきり地面に叩きつけることとなった。

 感電したのと衝撃とで、ヘイルはピクピクとしながら気絶していた。




「ふう……なんとかなった、かな?」

「一応、縛っておきましょうか」


 テイファは納刀し、レイは氷の鎖を作り出し、気絶しているヘイルへと巻き付ける。


「とりあえず、終わりだねー。帰るにしても、1回この結界から出ないとだね」

「そう……だな?」


 首を傾げつつ、ふとヘイルの方に視線をやる。


 するとどうだ。ヘイルの肌と髪の色が変わっていこうとしているではないか!


 思い立って、目の前で気絶し縛られているヘイルに対して【解放の魔】を使ってみる。

 すると、表示されたのは、メッセージウインドウが一つ。ヘイルについて、『種族:人魔族デミヒューマン』だとか、スキル名が【紫怨の毒】ではなく【詩恩の毒】という表示になっているだとか、気になる部分はたくさんあるものの、それ以上に目を引いたのは、『状態』の項目。


「……『状態:被憑依[ヘレテイール]』?解除カウント……!」


 状態のその項目の横に表示された数字は、12,11……と減っていく。嫌な予感がして、叫んだ。


「どうしまし……」

「2人とも、離れろ!」

「え?あ、あ、うん?!」


 戸惑いながらも全員が大きく一歩離れた瞬間、ヘイルの体から、怪しい黒い煙が立ち昇った。すぐさま、煙へと解析を掛けてみる。表示題は、『ヘレテイール・ボウ・メイツボウ』という名前。種族表示は『悪霊ガイスト』。


 どう感じたかは分からないが、テイファも何か感じ取ったのだろう。すぐさま煙へ向けて、電撃を纏った剣戟を放っていた。

 しかし、煙は霧散したかと思えば上空で人型を取ったため、テイファの剣は当たらなかった。


『あーーークソ!!毒でいーーっぱい無双してたのに!?たった3人にやられたっての?!』

「キミは……ねえ、これどういうこと?」

「俺にも分からん!正直展開が速くて混乱してる!けど、あれはこう……逃がさないほうがいい気がする!」


 俺がそう言うと、またテイファは剣で攻撃しようとするものの、煙のようなそれには届かない。レイの氷も同じく、だ。


『そーんな攻撃、当たんねーどころか効かねーよ!でも、あー、クッソ、あーーーー!!このヘレテイール様に恥をかかせたこと、覚えてろよ!!!!』


「あ、待てっとわぁあ?!」


 追いかけようと翼を広げるものの、結界のせいか、縛り付けられたかの世に飛ぶことができなかった。その間に、煙――――ヘレテイールは、するりと浮いて逃げていってしまった。


 どうすることもできなく、場は沈黙に包まれた。


「……とりあえず、この子を運ぼっか」


 そのテイファの言葉に、俺達は頷く。

 俺は銀髪の少年を抱え、2人について行き、ハートフィルを目指した。

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