第13話 フラグはきちんと見つけるもの

 その部屋は、今まで見てきた景色とは一変し、小奇麗だった。

 多少の劣化だとか、埃をかぶっているとかはあるものの、絨毯が破れているとか壁が大きく破損したりだとかはしていない。


 部屋の中には天蓋付きのベッドがひとつあり、棚がふたつほどある。本棚も一つだけ、大きめのものが置いてある。

 壁に掛けられた絵には、片方は人が5人描かれている。

 黒髪蒼眼の凛々しい印象の男と、その隣に銀髪金眼の優しそうな女性がいる。その男女の前に、3人の子供。

 一人は黒髪金眼の青年で、その隣に、黒髪蒼眼の少年。その少年に少し隠れるようにして、銀髪金眼の少年が描かれている。服装などからして、メイツボウの王と妃、それから子供たちなのだろうか。

 反対側の壁に掛かっている絵は、その5人の中のうちの1人の青年が描かれている。剣を持った青年は凛々しく、推測するに父親譲りの黒い髪に、母親譲りの金色の瞳が映える。


「第一王子の部屋……かな?この絵の子は第一王子だし」

「やたら綺麗ですね。あまり時間をかけることはできませんが……」


 棚にはトロフィーや砂時計が飾られている。ほとんどの引き出しや棚は、鍵がかかってか痛んでかは分からないが開かない。ただ、ベッド傍の棚は、1か所だけ開いた。


 中には、2冊の本が入っていた。

 片方は題名から察するに、各地の伝承や伝説が纏められたものだ。いや、察するっていうか、ほとんど同じものが塔にあったので読んだことあるってのが正しい。


 もう片方は表紙に何も書かれていない。開いて見てみると、日記のようだった。


「最初が13年前で、最終日付は……滅ぶ数日前ですね。第一王子のものとみて間違いないでしょう」

「やけに保存状態がいいねー。なんでだろ」

「とりあえず、読んでみるな」


 最初のページ。


 『――――ヘレテイールが行方不明となった。せっかく日記をつけ始めたのに、最悪だ。

 確かに奴は素行も悪いし、問題児だ。

 しかし、可愛い弟であることには違いない。ヘレテイールの騒がしさのない城は、どうも静かで仕方がない。

 恨みをよく買っていただろうから、誘拐でもされてしまったのだろうか。そういえば、ペーレスティの商人と仲良くなれたなどと言っていたが、どういうことだろうか。調査してみるとしよう。』


 数ページ飛ばして。


 『――――ヘレテイールが行方不明となってから、半年が経とうとしている。奴はなんだかんだでいいセンスをしていた 

 から、今年こそ闘技大会で戦えると楽しみにしていたのに。


 調査結果:ヘレテイールはペーレスティに行ったっきりだと判明。ペーレスティにいい噂はあまり聞かない。あそこの祠

 には、なにかが封じられていると聞く。間違って封印を解いたりしてないだろうか……。奴ならやりかねない気がしてき

 た。

 嫌な予感がする。』


 しばらく、ヘレテイールを心配するような内容と共に、総魔会議の結果を受けた話などが書かれていた。中には、なんと俺……であろう魔王のことも書かれていた。


 飛ばし飛ばしに読んで、最後のページ。いや、日付が書かれていたページの後、しばらく白紙が続いた。ただ1ページ、一言だけしか書かれていないところがあったのだ。


         『   ヘレテイール、どうして   』


「……これって」

「……だよね?」

「……でしょうね、ほぼ間違いなく」


 俺達の中で、「ヘイル=ヘレテイール」説がほぼ確実になった。なんだよこれ。なんでピンポイントにこれが読めたんだ。なんでこれが入っている引き出しだけ開いたんだ。RPGかよ。


 とはいえ、これ以上他にめぼしいものはない。時間を食わせてしまったなと思いつつ、部屋を出ようと扉へ向かって振り返ったときだった。


「しっ。誰か来るよ」


 テイファの空間把握に何か引っかかったのか、口元に指をあてて静かにするように合図する。動きを止め、全員の視線が、完全に閉まりきらなかった扉の隙間へと集まる。



 扉の隙間から、銀髪の少年が、ゆっくりと階段の方へ向かって歩いていくのが見えた。 何者かが分からないので、声をかけるわけにもいかない。

 しばらく息を潜め、少年が見えなくなって少しして、やっとテイファがまた口を開いた。


「……いいよ。彼は屋上に出たみたいだけど……」

「誰なんだ……?」

「それがさ、変な感じで……ヘイルっぽいんだけど、ちょっと違うっていうか……」


 もしかして、ヘイルに憑いているほうの反応を感じているのだろうか?憑いてるとかは解析してないのでよくわかってなのだが。


「とにかく、追いかけましょう」


 お互いに頷きあい、扉から出、少年の向かった方向である屋上へと向かう。 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る