第23話蛇:見かけない妖怪

 次の日、公園で見かけない妖怪に出会った。


「ようかいさん、はじめまして」


 私は良い子だから挨拶した。


「はじめまして」


 その妖怪は、私の倍くらい大きい蛇だった。


「ようかいさん、あやとりしよう」

「あやとり?」

「そうよ。こうやって遊ぶの」


 私は妖怪の前であやとりをやってみせた。


「それは何?」

「東京スカイツリー」

「……どこが?」


 絡まって1本の細い何かになっていた。


「えっへへ。まだできないんだ」

「お主、やる気はあるのか?」

「もちろんだよ。おとといからズーッとやっているよ」

「それでこれはひどすぎないか」

「だったら、ようかいさんがやってみせてよ」

「いや、わし、やり方知らないし」

「だから、こうやるんだよ」


 私はもう1回見せた。今度は太い何かになっていた。


「いや、見本になっていないよ」


 蛇がそういうので、私は意地になった。

 何回も挑戦し、何回も見本になっていないと言われた。

 そうしているうちに、暗くなった。

 空は曇っていた。

 ――翌日の学校。

 蛇はついてきていた。といっても、妖怪だから周りから見えない。


「ようかいさん、どうしてついてくるの?」


 妖怪は何かを考えているふうで、聞こえていなかった。


「ようかいさん、どうしてついてくるの?」

「え? ああ、そうだな。人の生活を見てみたいんじゃ」

「そうなの?」

「あと、お主がどういう生活をしているか見たいんじゃ」

「ふーん。そうなのが見たいの?」

「そうだ。わしにとっては興味深い」

「じゃあ、いいよ」


 妖怪は何を考えているのかわからなかった。


「なに1人で喋ってるの?」


 後ろを振り向くと、友達が笑顔であやとりをしようと誘ってきた。


「うーうん。なんでもない」

「そうなの? あや、って、時々1人で話しているよ」

「えっへへ。そうなの?」

「そうだよ。なにを言っているの?」

「それは……ええっと……あやとりむずかしいなー、って」

「そうなんだ。ところで、東京スカイツリーは出来た?」


 私は成果を見せた。


「……これは何?」

「……東京スカイツリー」


 何かボールのように丸い物体だった。


「あやちゃん、どんどん下手になっているよ」

「なんでできないの?」

「こっちが聞きたいよ。これじゃあうんこよ」

「うんこ? うんこ。うんこ!」

「うんこうんこ」

「うんこうんこ」


 二人で笑い転げた。腹がよじれて、涙が出てきた。

 キャッキャウフフ。


「仕方ないわね。こうするのよ」


 友達は涙をぬぐいながら見せてくれた。それはきれいな東京スカイツリーだった。


「うんこうんこ」

「ブー」


 わたしの言葉に友達は吹き出した。

 外は今日も曇っていた。

 ――帰り道、蛇の妖怪はついてきた。


「あやとりってむずかしい」

「ちゃんとした見本を見れたよ。お主、全く出来ていないだはないか」

「うるさいな。そのうちできるよ」

「いや、そのうちできそうには見えなかったよ」


 妖怪は憎まれ口を叩いた。


「まだついてくるの?」

「興味があるんだ」

「でも、うちにはこないほうがいいかもしれないよ」

「? どうして?」

「じつはね、パパとママから、ようかいさんとあうのはダメだといわれているんだ」

「ほー。どうして?」

「なんかね、ようかいさんはわるものだから、ダメなんだった」

「どうしてそんなことを言うんだ」

「パパもママもようかいさんが見えるの。それで、いやなことがあったんだって」

「へー。悪い妖怪もいたものだ」


 妖怪はあさっても方向を見ながら言った。


「でも、ようかいさんはいいひとたちばかりだよ。こうえんでいつもあそんでくれる」

「でも、それはたまたま良い妖怪だっただけかもしれないよ」

「そうかな?」

「この世には悪い妖怪はいくらでもおる。だから、気をつけるんじゃぞ」


 妖怪は真面目な顔で言った。


「ふーん。ようかいさんがそういうのなら、そうする」

「それがいい。もしかしたら、わしが悪い妖怪で、お主に悪いことをするかもしれんぞ」

「あっははー。そうかもね」


私は笑いながら家に入ろうとした。


「では、わしはこれで」

「どうして? 入らないの」

「いや、お主の家族が妖怪と遊んだらダメだといったんだろ?」

「そうだけど」

「だったら、入らないほうがいいよ。お主が怒られるぞ」

「うん。わかった。ようかいさん、バイバイ」

「バイバイ」


私たちは別れた。

空は真っ暗だった。

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