第18話 「推しのお手伝しちゃう?」

 とある日の昼下がり。


「さぁ、今だ! 俺ごと撃つんだココナちゃ――さん!」


 虫のようなパーツをいくつか併せ持ったような怪人? みたいな魔物を、羽交い絞めにして押さえつけつつ叫ぶ俺。


「そ、そんなことできません! というか、心弥さんならそこからいくらでも攻撃できるんじゃ……」

「あ~、いいから撃ってやれココナ。心弥殿の心意気を無駄にせんようにな」

「で、でも」

「あ~、大丈夫だよココナっち。全力でぶっ放してやってよ。心弥ならへーきへーき」

「そ、そうなんですかね?」

「うんうん、よゆーよゆー」

「のぅ、ところでなんでシノ殿までこっちにいるんじゃ?」

「え? 心弥と一緒にいたらウチまで巻き込まれちゃうもん」

「はなっからこういうシナリオじゃったんかい……」


 なんかゴチャゴチャ話してるけど、大丈夫なのかなあっちは?

 まぁこっちはいくらでも抑えてつけておけるからいいけど。

 いや早くしないとこの魔物の肩が外れたりはするかもしれないけど。


「よ、よく分らないけど、じゃぁいきますよ心弥さん!」

「おなしゃす!」


 ココナちゃんから太陽の様な光があふれ出す。

 あぁ……美しい光景だ。


「ストナーハート・スプラッシュ!!」


 ココナちゃんの必殺技が放たれた。

 あぁ~、この光、暖かいナリィ……。


「無事ですかっ、心弥さん!」


 ココナちゃんの光に癒やされていたら、いつの間にか目の前に彼女自身が駆け寄ってきていた。

 俺的にはココナちゃんの攻撃を受けた感じは、真夏の暑い日差しを海パン一丁でジリジリと受けた時くらいのノリである。日焼けするかもしれない。


 因みに、魔物はぐったりと地面に倒れている。

 一撃で沈めてしまうと浄化ができないので、上手いことストナーハート・スプラッシュが当たる角度や位置を調整しといたのだ。

 後はシノが浄化の魔法をかければオッケーってわけである。


「うっす、無事です。今日もココナちゃ――さんの活躍で魔物は倒されたってわけだ」

「え? えっと、私はただ最後に攻撃を撃っただけなんですけど……」

「うん。だからココナちゃ――さんのお陰だなぁって」

「え~っと……えと、取りあえず、ココナって呼び捨てにしていいですよ?」


 呼び捨てっ――これは、えらい難問が来たッ。


「なんで魔物と相対していた時よりも冷や汗かいとるんじゃ、心弥殿は?」

「心弥はココナっちにちょっとばかし偏った意識を持ってるからねぇ。ほらほらぁ、早く呼んであげなよ~?」


 やかましい! 浄化作業しながら人を煽るなっ。


「え~、あ~。じゃぁ」

「はいっ」


 うあぁかわいいっ。


「えっと、今日もお疲れ様っす。ココナぱいせん」

「ぱいせ……先輩!? あの、私は後輩なんですけど」


 そうなのだ。最近判明したことのだが、ココナちゃんって実は俺と同じ高校の後輩だったのである。

 学校殆ど行かないから気が付かなかったんだけど、同じ制服着てたんで聞いてみたのだ。

 俺が不登校の引き籠もりってバレるのも時間の問題な気がして気が気がじゃない。


「いや、魔物退治では先輩かなぁっと思って」

「どっちにしても、呼び捨てって話だったじゃないですかぁ」

「そ、そうだった。えっと~、コ、ココナ、ちゃん」

「は、はい。心弥先輩! あははっ、結局呼び捨てじゃなかったですけど」


 ぐほぁッ!!?

 せ、せんぱいだと!?


「えっと、さっきの仕返しというか? みたいな、です」


 あ、かわいい。死ぬ。


「心弥殿はどうしたんじゃ? なんか目の焦点が定まっておらんぞ? 大丈夫か?」

「あー、へーきへーき。あれは発作みたいなもんだから。そのうち治るから」


 あぁ……何度やっても、ココナちゃんとの魔物退治は幸せだわぁ……。







 とある日の夜。


「さぁ、今です! 俺ごと貫いてください、リリさん!」


 でっかいツノが生えた熊みたいな魔物をベアハッグみたいな状態で抑えこみつつ叫ぶ俺。


「嫌よ。あなたごと突らぬくつもりで突っ込んだら刀が折れるじゃない。魔術兵装とはいえ、折れたら修復するのにそこそこ時間かかるんだから」


 ……あ、さーせん。


 あっさり断られた。

 どうも、リリさんには本来なら俺一人でも余裕で魔物を倒せることがバレているようだ。当り前かもだけど。

 まぁココナちゃんの方も、正直気が付いているけど付き合ってくれているだけの可能性は多分にあるのだが。


「まぁまぁ、リリっち。きっと心弥なら上手いことギリギリで避けて折れるのは回避してくれるから、気にせずいっちゃいなよ」

「そのリリっちっていう呼び方やめて。はぁ……分かったわよ」


 リリさんは刀を構えると、一気に真剣な目つきになる。

 うう~む、ふつくしぃ……。


貫け闇の刃ッテネブラストライキエーンス・クリンゲ


 空中に発生した魔方陣をくぐって超加速したリリさんが流星のように突っ込んできて、熊の胴体にずぶりと刀が突き刺さった。

 そのまま、魔力を回収していくリリさん。


 因みに、俺はぎりぎりで体をぐにっと横に逸らして刀を避けている。


「ふぅ」

「お疲れ様っす!」

「あのねぇ、その部下みたいな言葉使いやめてもらえる? 最初にあった頃みたいに普通に喋ればいいでしょ」


 あの時の言葉使いは変身して素顔が隠せていると思っていたから出来たことなんだよなぁ。

 でも、推しからの頼みはなるべく遂行したいところだし……。


「ご、ご苦労だった、である?」

「…………ま、今はそれでいいわ。そのうち慣れてよね、私との会話」


 はい、さーせん。鋭意努力しますです。


「あははっ、心弥ってリリっちと目を合わせるのも大変そうだもんねぇ」


 やかましいその口縫い合わすぞこのちびっ子が。


「ふーん。魔眼が気になるってことかしら? それなら、不快な思いをさせて悪かったわ」


 リリさんが色違いの片目を手で覆い隠すようにしながらそうこぼした。


「んなっ!? 不快とかそんなわけないって! 寧ろリリさんの超然とした雰囲気や綺麗な銀髪と相まってトータルバランス的に最高に綺麗っていうか、もうハマりすぎてて最高っていうか。とにかく最高だから!」


 ――あっ。


「…………あ、ありがとう」


 しまったあああああぁ!!!

 思わず本音がだだ漏れたっ。思いっきり迫って引かれてもうたああぁっ!!


 くうぅっ、しかし、推しに不快だと思っているなどと勘違いされるのはあまりにも不本意というもの。ここは多少引かれてもやむなし!


「ふーん。この顔が、ね」


 リリさんはさすさすと頬をさすりながら呟いた。

 自分の美貌にあまり自覚がないのだろうか? これほどの美人なのに。

 彼女の育った環境を考えると、もしかしたらそういう可能性もあるのかもしれない。


「リリっち、もしや照れてるの?」

「はぁ? 照れる? 意味が分らないわ」

「最高にかわいいよって言われて恥ずかしいのかなぁってことだよ」

「違うわ」

「ほんとぉ~?」

「それ以上侮辱するなら例え元神といえど切り捨てるわよ」


 ちょっと! 何をしてんだよシノは! 


 慌ててミニサイズな美少女の口を塞ぎにいく。


「ふぐっ」

「あ、あはは。すまん、うちのちびっ子がご迷惑を」

「……ふん。ま、いいわ。とにかく、今日も協力に感謝を。次も連絡する」

「あ、あぁ。了解」

「じゃ、またね」


 リリさんは、そう言い残して夜の空へと消えていった。


 ふぅ。

 やっぱり、リリさんとの魔物退治は最高だわぁ。


 ――ガリッ。


「痛った!?」


 余韻に浸っていたら指を噛まれた。

 口を塞ぎっぱなしにしていたシノに噛まれたらしい。


「いつまでウチの顔面圧迫してんのっ! 苦しいでしょ!」

「す、すまん。ぼーっとしてた」

「ったくもう。大体、こんな生活がいつまでもつと思ってるのっ」

「こんな、って?」


 どういう意味のこんな、だろう?

 引き籠もり生活のことなのか、不登校生活のことなのか。


「だから~、ココナっちにはリリっちのこと言わないで、リリっちにはココナっちのこと言ってないでしょ! 今は上手くタイミングをズラしてるけど、どっかで間違ってブッキングしたらどうすんのさ」


 あ~、そのことか。

 うーん……。


「ま、別にいいんじゃないか? 確かに二人とも別の目的で戦ってるけどさ。どっちも誰かの為に戦ってるってことには変らないわけだし。もしかち合っても、その時は平和的な譲り合いってことになるだろ、多分」

「え~? そんなことになるかなぁ……?」


 なるなる。多分、きっと、恐らく。

 何にしても、俺は推しの活動を助けつつ近くで見守っていられればそれが一番だ。


 ま、正直言えば二人が揃っているところも一度見てみたいけどなぁ~。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る