第30話 食事会
結婚式が終わった後、健司と美月は着替えた。
お色直しではない。
健司はスーツ。美月は、カジュアルなドレス。
この後行うのは、披露宴ではない。親しい人物だけの食事会である。
そもそも、タキシードやウェディングドレスだと、食事をするのも気を遣う。だから、気取らなくてよい服装に着替えたのだ。
といっても、美月のドレスは今日のために新調した。ただし、今後の他の用途にも使えるようなドレスにしてある。
「え~?お色直しじゃないの?」
約一名。高橋ミキだけは不満なようであった。
「不満なら、自分の結婚式でお色直しをすればいいんじゃないか?」
「あはは・・・」
一緒に参加してもらった海斗君が照れている。
そりゃあそうだろう。まだ18歳だ。結婚式なんか考えてもいないだろう。
「そうね!結婚式いいかも!どんな結婚式にしようか?海斗君!」
そんな彼氏の思いを分かっていないようである。
食事会は、フランス料理。
ワインは健司が持ち込んだものである。
乾杯の音頭の後、ワインが注がれ振舞われる。
「うわあ・・これはおいしい」
「さすがだね・・・」
ワインと食事に喜んでもらえているようである。
さて、食べるだけでは間が持たない。
「それでは、家族の方からのお祝いの言葉をいただきたいと思います」
それぞれの参加者からお祝いの挨拶をしてもらうことにしているのだ。
そして、瀬戸家の両親からの挨拶が行われた。
「健司さん、美月。おめでとう。
美月が生まれた時は、代書の子供という事もあって、本当にうれしくかったのを覚えています。
美月が小学生になり、中学生になり・・・
そして、美月が悩み苦しんでいることに気づいていました。でも、親として何もできなかった。ふがいなく、悔しかったことを覚えています・・・」
気づくと、瀬戸菊夫は涙を流していた。瀬戸さくらも、涙をこぼしている。
「親として、ふがいなく悲しい思いをしていました。
それでも、美月はここに参加している友人のおかげで元気になってくれました。
本当に、ふがいなく、無力な親で申し訳なく思っております……」
涙をハンカチで拭う。
「そして、健司君と出会うことができ、この度このように結婚式を挙げることができたことを親として本当にうれしく思っています。
美月。本当にありがとう。
ふがいない親だったけど、これからは健司さんといっしょに幸せな家庭を築いてほしいと思います。
健司さん。美月を、どうぞよろしくお願いいたします」
父親からの心からの言葉。
父からこのような思いを聞いたことは初めてであった。
美月も、涙を流した。
美月が苦しんでいた時期、両親も悲しい思いをしていた。
それを知ったことだけでも、今回の結婚式はやってよかったと思えた。
「ほら、せっかくの結婚式なんだから泣いてちゃだめですよ!幸せな二人の前途を祝さなきゃ!」
ミキちゃんが声をかけてくれた。
「そうだ・・そうだよ。二人の前途を祝して・・・かんぱーい!」
残念ながら、瀬戸菊夫はお酒が弱いので、この後酔っ払って寝てしまったのだった。
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