マシュマロ家に王子様がやってきた!


 北大路きたおおじのヤマカンは本当に大当たりして、教わったところが全部出題された。おかげで俺は、今回のテストで過去最高順位を獲得。さらにはご褒美に、親からお小遣いも弾んでもらえた。


 いやー、これからは王子様じゃなくて神様と呼びたい!


 だが神様に願いを叶えてもらったら、ちゃんとお返ししなきゃならないと聞いたことがある。貸していただいた力に感謝して返却しないと、神様が疲弊して弱っちゃう……みたいな話を、小さい頃に母さんがよく言っていた。


 だから、というわけではないんだけれど。



「ねえ……本当に俺が行って大丈夫なの? 迷惑じゃない?」



 俺の隣を歩く北大路が、不安そうにイケメンフェイスを曇らせて尋ねてくる。その表情は、憂いを帯びた美青年という言葉がピッタリだ。

 けれどもう見慣れすぎるほど見慣れたので、見惚れることはない。むしろ、面倒臭くなっている。



「お前なー、それ聞くの何度目だよ。何回も言ってるけど、大丈夫だって」



 うんざり声で答えると、俺は自分より少し高い位置にある北大路の肩をべしべし叩いた。


 ふん、身長は負けてるけど体重は勝ってるもんね! 自慢にならないけどな!



「だって……みなみくんの家、すごく厳しいって高野たかのくんが言ってたから。俺みたいなのがいきなり行ったら、塩撒いて追い払われるんじゃないかな」



 帰り際、高野に告げられた言葉を気にしているらしい。あいつめ、余計なこと言いやがって。



「おい、塩撒くって何だよ? また力士扱いか? どすこいごっつぁんからの、うっちゃりすんぞ?」


「ち、違うって! そういう意味じゃないよ。うっちゃらないで、せめて押し出しにして」



 冗談ぽく返してみたが、北大路の固い表情は変わらなかった。



 俺達が今向かっているのは、南家――そう、俺の家だ。テストの点数が良かったのは北大路に教わったからだと打ち明けたら、母さんが連れてこい連れてこいとうるさく言い出したもので。


 それに俺は北大路の家に何度も行ってるけれど、北大路はまだ俺の家に来たことがない。これもいい機会だと思って母さんの提案に乗り、今日は北大路を我が家の夕食に呼んだのだ。


 ちなみに高野は、俺の家にはほぼ来ない。というのも、何度か来て懲りたからである。だから北大路に注意喚起したようだけれど……あんな紛らわしい言い方されたら、北大路じゃなくても萎縮するよな。



『南の家、すっげー厳しいから気を付けてな! 特に母ちゃんの機嫌損ねたら、下手すると死ぬぞ! ヤベーと思ったらすぐに逃げろよ!』



 ったく高野の野郎、俺の母さんを何だと思ってるんだ。死ぬような思いさせたのは認めるけど、あれは『善意』だったんだぞ?



 広くも狭くもない住宅街の中にある、大きくも小さくもない、古くも新しくもない普通ここに極まれりといった我が家に到着すると、俺はドアを開けた。



「ただいまー。北大路、連れてきたよー」


「おかえりぃー!」



 ドスンドスンと足音を轟かせ、母さんが飛び出してくる。いつか廊下が抜けるんじゃないかと心配だ。いや、母さんだけのせいじゃないな。床板に負担かけてるのは、俺も同じだし。



「き、北大路、トワ、です……」



 俺の背後から恐る恐るといった感じで進み出てくると、北大路は自己紹介した。途端に、母さんは雪だるまみたいにデカくて白い顔に笑みを咲かせた。



「アサヒがいつもお世話になってますぅー。あらあらまあまあ、随分と細い体してるわねぇ。これは食べさせ甲斐のありそうな子だこと! 母さん、頑張っちゃう!」


「えっと、こちらこそお世話に……食べさせ甲斐……? はい、楽しみにしてます……?」



 北大路が懸命に受け答えする。しかし母さんは最後まで聞いていたのか聞いていないのか、ドコドコとキッチンに戻っていった。

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