王子様は勘違いさせ上手!?


 風呂上がりのホカホカな俺を見て、『蒸し上がった肉まんみたい』とからかってきた母さんに頭突きしてから自室に戻ると、スマホから着信音が鳴っていた。慌てて手に取るも、間に合わず。


 すぐにラインを開いて、俺はビビッた。北大路きたおおじからである。


 しかも一件や二件じゃない。スクロールしても追い付かないほどに、不在着信の表示が並んでいる。


 これは、ただ事じゃない。何かあったんじゃないかと心配になって、俺は即座に北大路に電話した。



『あ……みなみくん?』


「北大路!? どうした!? 何があった!?」


『うん……あの……』



 北大路の声は、ひどく暗い。電話越しだからというのもあるんだろうけど、数時間前に遊んでいた奴とはまるで別人みたいだった。



『その……俺…………ごめん』


「ごめんって何!? おい北大路、本当にどうした!? 今からお前ん家、行こうか!?」



 アホほど電話をかけてきたくせに、なかなか口を割ろうとしない北大路に焦れて、俺は必死に尋ねた。掛け時計は、夜九時を指している。姉ちゃんにチャリを借りれば、北大路の家には十五分くらいで着くだろう。


 そんなことを考えていると。



『南くんに……嫌な思い、させたんじゃないかと思って』



 やっとのことで絞り出したといった言葉が、耳に届いた。



『俺、南くんのこと、力士扱い、したよね?』


「ああ……したな?」


『お腹撫でて、鏡餅みたいって言ったよね?』


「うん、丸呑みしたいって言った。ついでに、ほっぺ突っついてマシュマロみたいで美味そうとも言ったし、二の腕を揉んでフロマージュにして食いたいとも言ったけど?」


『ご、ごめんなさい!』



 いきなりデカイ声を出されたもんだから、俺はスマホを耳から離して頭を押さえた。


 うおお、キーンってしたぁぁぁ……ったく! こいつ、本当に何でも唐突だよな!



『母さんに今日のこと話したら、人の体についていじるのは良くないって言われて、やっと失礼なことしたって気付いたんだ。しかも馴れ馴れしくベタベタ触ったし……我慢して、無理矢理付き合ってくれたんだよね?』



 警戒して、スマホをやや遠ざけて話を聞いていた俺、ぽかーんですよ。



『友達だなんて言われて、俺、浮かれてたんだ……って、こんなの言い訳だよね。本当にごめん。これからは、南くんを傷付けるようなこと言わない。気を付けるから……だから友達、やめないでほしいんだ』



 北大路の声は、真剣を通り越して必死だった。


 えっと……もしかしなくてもこいつ、こんなことのために履歴を埋め尽くす勢いで電話してきたのか? 俺がデブいじりで怒ってるかもしれないと、もう友達付き合いをやめると思ってないか心配して……?


 そうとわかるや、俺は盛大に吹き出してしまった。もう笑って笑って、笑えて笑えて止まらない。



『み、南くん、どうしたの? 何か面白いテレビでもやってる? 俺の話、聞いてた? 取り敢えず深呼吸してみようか? もう一回話すから』



 焦りながらもなだめてくる北大路が、また笑いに拍車をかける。



「いやー、北大路って…………ほんっとーに不器用だなーと思って。王子様なんて呼ばれてんのに、すっげー人付き合いヘッタクソだなー。お前が王子だったら、国終わるわ!」


『そんなあだ名、初めて聞いたんだけど。勝手に国の未来を背負わせないでほしい……俺には荷が重いよ……』


「真面目に答えるなっつーの! 北大路式腹筋ダイエットさせる気か!」



 ひとしきり笑って落ち着くと、俺は改めて北大路に告げた。



「よし! じゃあこれからは、友達付き合いの方法も俺で学ぶがいい。アウトな発言したら、アヤカで唐揚げ一個奢りな!」


『え、うん? それはいいけど……』



 何か言いたげに、北大路が口籠る。その先を読み取って、俺は答えた。



「あのくらいで、友達やめるわけないだろ。俺、嫌だと思ったらちゃんと言うよ? だって、何でも言い合えてこそ友達じゃん。だから北大路もさ、気を遣わずに俺に腹立ったら言ってくれよな。俺も結構、無神経なとこあるし」


『南くんは、無神経なんかじゃないよ』



 俺の言葉を遮るように、北大路は柔らかな声音で返した。今気付いたが、こいつ、顔だけでなく声も良い。低すぎず高すぎず、すんなり浸透して落ち着くイケボだ。



『いつもお腹空いててぼーっとしてたり不機嫌だったりする俺を、いつも気にかけてくれたじゃん。南くんは、すごく優しいよ。友達になれて、本当に嬉しい。これからもずっと一緒にいられたら嬉しいな』



 北大路のイケボに耳をくすぐられている内に、俺は自分の顔が熱くなってくるのを感じた。


 ちょ……ちょっと落ち着こうか、俺。


 あの超絶美青年がデレて、イケボで優しく囁いたからといって何だ? 何で俺が照れる必要ある?



『あ、そうだ。明日のテスト、多分今日一緒に勉強したところ出るよ。俺、ヤマカン当たるんだ。これも俺の秘密の一つなんだけど、教えるのは南くんにだけだからね?』


「お、おう……さんきゅな……」



 通話を切っても顔の熱は収まらず、それどころか心臓まで無駄にドキドキしていた。



 …………北大路トワ、おそろしいこ!


 さらっと『ずっと一緒にいたいな♡』だとか『キミだけだよ♡』だとか言うなし! 俺が女だったら、秒で惚れてるぞ!? 自分だけ特別扱いされてると勘違いするぞ!?

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