第44話「旅の終わり」

 あのあと、俺は速攻で魔王城に単独で攻め込み魔王を滅ぼした。

 この世界でゆっくりしたいと思っていたが、そうもいかない。


 ノワの野郎に滅ぼされた九十九回の世界を救い直さねばならないので、この世界はさっさと平和にして後顧の憂いを経っておきたかったのだ。


 ………………。

 …………。

 ………。


「センセー、早く戻って来てね! あたし、いつまでも待ってるから!」


 いよいよ今夜、転生魔法を使おうとする俺にサキがすがるように抱きついてくる。


 傍(かたわ)らには、ミナミとトヨハもいた。


 あとは、あのあとも俺に何度も突っかかってきたもののどういう風の吹き回しかみんなと仲よくなったメサもいて、この場にいる。

 ダークエルフはエルフ族なので魔王の死とともに消滅する魔族とは別なのだ。


「安心しろ。速攻で九十九回世界を救い直して戻ってくる。そしたら、また稽古をつけてやるからな。あと……もし万が一なにかあったら、俺に念波を送ってくれ」


 サキに直結解呪を行使したことで、俺とサキには特別な繋がりができていた。

 これなら、どれだけ世界が離れていようとも念波で意思疎通することができる。


「うん、なんかあっても雑魚ならあたしが倒すし! ミナミちゃんとトヨハ姫様もいるし!」

「そうです、あとは任せてください。……で、でも、早く帰ってきて、わたしの魔導書作りのアドバイスもお願いしますね?」

「わたくしも国の再建を急ぎつつ、もしものときのための軍備はしっかりと整えておきます!」

「ふん、貴様は我が直々に倒してやらねば気が済まぬからな! さっさと帰ってくるがいい!」


 いつも転生魔法を使うときは誰も見送りなんていなかった。

 だが、今回はサキ、ミナミ、トヨハ、メサに見送ってもらえる。


 なんか……心温まるものがあるな。

 でも、もしものときに備えて注意をしておく必要はある。


「無理するなよ。万が一ノワみたいなのが現れたら、すぐに俺を呼んでくれ。あと、過去に一度魔王が滅んだ世界で三か月経たずに復活したこともあったから油断はするなよ」


 あんな変態野郎がまた出るとは思わないが、物事に絶対はない。

 ここを旅立つ前にみんなを徹底的に鍛えておいたので、大丈夫だとは思うが。


「うん、大丈夫だって! それよりさ、センセー。帰ってきたら、あたしと結婚してね!」

「ぶはっ……! なに言ってるんだよ!」

「あたし、子どもは三人くらいほしい!」

「ちょ、俺の集中を乱すな! そういうの早すぎるだろが!」


 本当に、サキは困った教え子だ。だが、それでいい。


 以前の俺は戦うことだけが楽しみの戦闘狂だったのだが――今は、さっさと帰ってサキと一緒にいたいとすら思える。変われば変わるもんだ。


「ちょ、ちょっとサキ、大胆すぎですわよ!? わ、わたしだって先生と……」

「ご主人様! どうか、わたくしにも御慈悲を! 側室扱いでいいですから!」

「ふん、穢らわしい! ……だ、だが、我よりも強いおまえとなら……か、考えないでもないぞ?」


 ……というか、ここに来て謎のモテ期が到来している気がするのだが……。

 童貞の俺には、荷が重い。やっぱり、戦っているほうが気楽だ!


「んじゃ、サクッと九十九回世界を救い直してくるわ!」


 俺は四人に手を振ると転生魔法を行使し始めた。


 転移した世界で時間遡行魔法を使って九十九回もノワの野郎を倒す日々を送るなんてげんなりするのだが……もうマジでさっさとぶっ潰す。ほんとに、面倒な野郎だ。


★ ☆ ★ 


 ………………。

 …………。

 ……。


 ……というわけで、最速ルートでノワを滅殺しまくって、俺は元の世界に戻ってきた。


 一日に十回以上転生してノワを倒す日まであったので、三か月かからずで俺は戻ってくることができた。やると決めたら容赦しないのが俺だ。俺マジ鬼畜。


 夕暮れの校庭。俺は転生・急速成長・さらに元の容姿に戻る魔法で以前と同じ姿になって出現した。


 校庭では、サキが魔導武術の自主練習をしているところだった。


「よう、サキ。元気だったか?」

「わっ!? センセー、もう帰ってきたの!?」

「おう、変わったことはなかったか?」


 といっても、念波で定期的に連絡をとってたので久しぶりという気がしない。

 映像投影魔法も使って、顔出し通信までして会話してたし。


「うん、なにもなかったよ! 毎日、稽古しまくってた!」

「おお、いい心がけだな」


 魔王復活などの面倒な事態が起こらなくてよかった。


 さすがに九十九回世界を救い直すとバトルばかりで飽きたし、しばらくはこの世界でスローライフを楽しむのもいいかもしれない。


「よし、それじゃ、そうだな……この世界の各地を回ってみるか。学園の連中も連れて。一度、修学旅行っての、してみたかったんだよな」


 学園を中退した俺に、そんな機会がなかった。

 ついでに留守番をがんばったぶん、みんなを旅行に連れていくのもいいだろう。


「わあ、それナイスアイディア! みんな喜ぶよ! あたしもすごく楽しみ!」


 サキも踊りだしそうなほど喜んでいる。

 というか踊りながら魔導武術の演武をしている。


 どうせなら古代の遺跡とかを探査するのも面白そうだな。

 古代魔術あたりを調査すれば、ミナミの魔術書作りの足しにもだろう。


 まぁ、これから魔王が復活するかもしれないし、古代遺跡からヤバイ奴が甦るかもしれない。


 でも、それも面白そうだ。

 これからのサキたちの成長も含めて――。


「センセー! これからもよろしくね!」

「おう!」


 笑顔を弾けさせるサキに、俺は力強く頷いた。

 百一回目の世界を、これからゆっくり満喫していこう。


 今度こそ、この世界で――永住の地と決めたこの場所で――俺は、ゆっくりすることにした。時空を越え続けた俺の長い旅も、ようやく終わったようだ。


 ま、滅びに瀕する世界があったらまた救いに行くがな!


(完)

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101回目の救世主~最強魔導剣士は学園で臨時講師を務めてフリーダムすぎる教え子たちと姫騎士を鍛えながらバトルライフを楽しむ! 秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家 @natsukiakiha

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