0-1 滅びの都は観光地

 滅びの都。


 そう呼ばれる大都市がある。

 滅びの都と聞くと、どんなイメージがわくだろうか。



 建物や城壁が倒壊し、もはや修繕されることのないそれは道路を塞ぎ、危険極まりない。都市機能はまったく意味をなさず、住民はそこから避難を余儀なくされたまま戻ることなく長い年月が経ってしまった。

 そこにまだ住んでいる人がいるとしたら、それはお尋ね者か、浮浪者か。


 滅ぶ原因は、大都市一つを呑み込む地震、津波か、噴火かのような天災か。

 繁栄した大都市が戦争や革命、テロ等、人災で蹂躙されることは他国では良くある。滅びの都があるオウトル大公国は現在では平和な国だ。三十年ほど前に海で隔たれた島国が滅んで以来、他国との関係も良好だ。


 魔獣の大群に襲われたり、魔法の大暴発だったり、神の怒りに触れて一夜で崩壊することはこの世界では多くはないが、ないとは言えない。

 ただ神の逆鱗と呼ばれる一撃は、基本的にクレーターが残るのみで、大都市の痕跡すらも残らないので、滅びの都と呼ぶよりは都跡と表記するのが正しいだろう。


 滅びの都と聞くと、原因はともかく死に絶えた都市を想像する。





 俺はジル・フィーセ。

 隣国レガド王国の出身。伯爵家三男として生まれ、騎士団で騎士をしていた。

 王国で厄介事に巻き込まれたため国外逃亡して、今は冒険者としてオウトル大公国のガゼ辺境伯領「滅びの都」に滞在している。


 滅びの都と呼ばれる大都市は、公都と並ぶ最大規模の都市で、この国でのダントツの人気を誇る。

 公国の南に位置し、海に面しており、年中比較的温暖な気候で、国内外問わず人気の観光地だ。都市のそばにある海岸ではコテージが並び、高級宿泊地として名高い。


 大都市を囲うのは白壁であり、広大な都市の建物は白で統一されており、青い空、青い海を背景とした色彩が非日常感を演出する。ヨーロッパで有名な立派で堅牢な白いお城とは違い、少々こじんまりしてかわいくて白いお城も人気のひとつだ。白い街として有名なこの大都市は、世界中の人々が人生で一度は訪れたいと憧れる場所なのだ。


 これらの説明は現在進行形である。

 この都市は今でも観光業でにぎわっている。



 それでは、なぜこの大都市が「滅びの都」と呼ばれているのか疑問に思うだろう。滅んでいる要素が見当たらないと思うだろう。





 それは十九年前に遡る。

 突然、ガゼ辺境伯は白い外壁に囲まれているこの都市が「迷宮」になったことを発表した。

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