第3話 馬上から。
今は、サンチェスト王国のアードルク子爵軍とバルベス帝国軍の戦場に火龍魔法兵団が援軍として参入してから一時間が経ち、日暮れが迫る頃だった。
火龍魔法兵団の団長であるアレンはゴーダ平原の小高い丘に立っていた。
「バルベス帝国のヤツら……逃げるのが早いな」
アレンが十人前後兵団員を連れ、馬上から火龍魔法兵団の猛攻によって押し込まれて撤退していくバルベス帝国軍を眺めながら呟いた。そして、口元に手を当てた。
今回の帝国の侵攻は……なんだろう?
例年の頻度に比べてかなり早い。
前の侵攻から一カ月と経っていない。
いくら帝国が大国とはいえ、数万規模の侵攻に出るにはどう考えても早すぎる。
無理をしている?
何か無理をする理由があったのだろうか?
何か狙いがある?
ふと、自身の頭によぎった嫌な予感にアレンは視線を帝国軍へと向ける。
アレンの視線の先ではアレンの部下である兵団員が放つ魔法によって多少の被害を出しながらも帝国軍はロコッラの森へと逃げ込もうとしていた。
そして、日が傾き出していることを確認して呟く。
「何か狙いがあるにしても……今日はもうすぐで日が落ちる。深追いは避けるべきだろう。それに……相手のことも気になるが、今は自分達のことを考えるべきだろう、どう見ても兵団全体の動きは重い。今回の帝国軍の侵攻する場にたどり着くにも結構無理しているし。冬が明けて約二ヶ月、いくつかの劣勢の状況の戦場で戦い続けたことによる疲れが出る頃だろう」
しばらく、アレンは俯いてブツブツと呟いていた。考えがまとまったところで顔を上げて周囲に控えていた兵団員に声を掛けた。
「ホーテとアリソン、ラーセットの三隊に伝令」
「は!」
兵団員の一人がアレンの声に反応し、近くに寄ってくる。
「ロコッラの森までバルベス帝国軍を押し込んだらあまり深追いせず戻って来るようにっと」
アレンが命令を口にすると、周囲に控えていた兵団員内三人が今戦っている連中のもとへ馬に跨ってかけていった。
「今日の戦闘は終わりだ。どう見ても全員動きが重い」
アレンが戦いの様子を眺めながら呟いた。すると、アレンの近くで控えていた兵団員の一人が頷く。
「ですな。連戦全勝ですが……さすがに疲れが見えますね」
「しかし、今回の侵攻は例年に比べて無謀で……頻度が早すぎないか?」
「確かに……そういえば、帝国で皇帝が先月代替わりしたと聞きました。それが関係しているのでしょうか? 功績作りに無理矢理攻めに行けって命令されたとか?」
「……うわ、鮮明にイメージできるな。それはあり得る」
「それに我々の王国も先月国王様が天に召されて急に代替わして、王宮内がゴタゴタしていると聞いていますので、攻め時だと思ったのでは?」
「あぁ……そういえば、先月王宮に顔を出せって指令が来ていたな。確か、その時は敵が攻めてきていたから……行けるか! っと伝令兵を突き返したんだったか」
「そうでしたね。上の連中は現場のことが見えていないのですかね」
「……かもな」
アレンは目つきを鋭くした。
そして、十代半ばの少年に見えないアレンから発せられたとはとても思えないほどのすさまじい威圧が発せられた。
その威圧はアレンの周りに控えていた歴戦の戦士であるはず兵団員達ですら表情を強張らせて冷や汗を流させるほどだった。
「「「……っ」」」
「……はぁ。いかんな」
アレンが怒りに囚われていると感じたのか、その感情を抑えているように腰に吊るしていた剣の柄を握って少し鞘から抜いてすぐにカチンッと音をたてて鞘に戻した。
すると、アレンから発せられていた威圧はすぐに飛散し、周りの兵団員達もホッと胸をなでおろした。
「あの……野営の準備もさせましょう。場所はこの丘がよろしいですな」
「ああ、野営の準備だ」
兵団員の提案に頷いたアレンは野営の準備の命令を兵団員達に出した。すると、兵団員達は急ぎ野営の準備に取り掛かるためにアレンから離れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます