□爆弾を解除する・その二

 しかし、誰が何のために、こんな手の込んだイタズラを仕掛けたのだろうか。目覚まし時計を爆発物に見せ掛けてセットしておくなんて──。

 私を驚かすためだけにしては、随分とたちが悪い。


 そもそも、拉致監禁までしておいて単なるイタズラを仕掛けるとは、どういうことだ。──犯人の思考がまるで読めない。


──まぁ何にせよ、爆弾の脅威が去ったのである。後はゆっくりと時間を掛けて、此処から脱出する方法を模索していけば良い。


 窓や扉は塞がれているが時間制限がなくなったので、ゆっくりでもチマチマ壊していけばいつかは外に辿り着くことは出来るだろうし、何なら針金などで解錠もできそうである。

 一つの問題を解決したことで、私の気持ちは大きくなっていた。

──大きな物音を立てれば、いつかは誰かが気付いて助けを呼んでくれるかもしれない。


 まぁ、唯一の不安要因といえば、私を此処に閉じ込めた犯人のことである。犯人とはまだ一度も出会していないが、もしも顔を合わせたら殺しに来るかもしれない──。

 会わないなら、それに越したことはないだろう。


 私は家中を見て歩き、押入れから巨大なハンマーを発見した。護身用には丁度よいだろう。

 それに、脱出口を作るのにももってこいである。


 その足で私は台所に向かった。

 窓を塞いでいる鉄格子やベニヤ板に向かってそのハンマーを振り下ろした。凄まじい威力であった。

 鉄格子は弾け飛び、板は簡単に砕け散った──。


──もう少しだ!


 希望が見えてきた。

 私の胸は高鳴ったものである。

──ところがどうしたことか。ここに来て、どっと疲れが押し寄せてきた。

 しかし、此処まできて、休めるわけもない。もう一息なのだ。

 私が休んで眠っている間に、誰かに別の場所に移動させられたら溜まったものじゃない。

 それで、以前は部屋の中に罠を仕掛けられたことだってあるのだ。


──ならば、と私は考えた。

 こちらも自分自身の身を守るために、何か仕掛けをしておけば良いのだ。

 そうすれば、ゆっくりと休める。


 私の思考は窓から脱出することよりも、身を守るための罠を仕掛けることに向いてしまった。意図的にそうさせられたとしか思えない。

 生命線であるハンマーから手を離し、私は頭を悩ませていた──。

 相手は殺す気で罠を仕掛けてきている。部屋の罠や今回の爆弾などは不発やイタズラであったが、次回もそうだとは限らない。

 生命を脅かすような危険な罠を設置してくる可能性だってあるのだ。


──それならば、こちらも相手を抹殺するような殺傷能力の強い罠を設置してやろう。

 私は口元を歪めて怪しく笑った。ここまで残忍な思考を抱けるとは──自分自身が驚きであった。


 しかし、どうにも強い眠気が押し寄せてきて堪らない。お陰で頭がボーッとしてきて、瞼も鉛みたいに重くなってきた。

 今は必死に抗ってはいるが、残された時間も僅かなようだ──。


 私は台所へと向かった。歩行が不安定になり覚束ない足取りだったので、何度も体を壁にぶつけてしまった。

 それでもなんとか台所へと辿り着いた。

 眠気を覚まそうと、コップに水を入れて飲んだ。

──それでも駄目だ。

 顔を洗っても無駄だ──。

 冷蔵庫からペットボトルのコーヒーを取り出してコップに注いだ。

 更に、栄養ドリンクをコップに移した。

 それらを全部、一気に飲み干した。


 これだけ飲めば、流石に少しばかり眠気も覚めた。

 代わりに吐き気を催したが、少しタイムリミットが伸びたと思えば有り難い。

 私はこの三つの液体をコップに入れ、トレイに乗せて慎重にプレゼントボックスの部屋へと運んだ。


 プレゼントボックスが置かれた台の上にトレイを乗せた瞬間──やはり、激しい睡魔に堪えることが出来なくなってしまう。

 再び強烈な眠気が押し寄せてきて、立っているのもやっとな状態になってしまった。

──このままでは駄目だ。

 せめて、何か一つだけでも──仕掛けて、一矢報いてやりたいものである。

 私はドアノブの下側に縫い針を貼り付けた。テープで留めて、触れば刺さるような仕掛けを施した。

 残念ながら毒を入手して塗ることは出来なかったので、単なる嫌がらせ程度の仕掛けである。相手の皮膚にちょっとしたダメージと痛みを与えるだけである。


 でも、それだけ出来ただけでも私は満足だった。

 一方的にやられるだけなのも癪であったから、僅かながらでも反撃が出来たならそれで良い。

──まぁ、それに相手が引っ掛かってくれるかどうかは別として──。


 もう限界だ──。

 私は床に寝転がって目を閉じた。これ以上、眠気を我慢している必要もない。

 余程眠かったのだろう。

 私の寝入りは早かった。


 一瞬で、眠りの中へと旅立っていったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る