二巡目・後手

【二回目・僕】その一

「イテテテ……」

──顔が痛んだ。

 それも、ちょっとやそっとの痛みじゃない。

 我慢出来ないような尋常じゃない痛みで、僕はのたうち回ったものである。


──自分の身に何が起こっているのだ?

 原因を探るべく、顔を触る。──瘤が出来ていて、デコボコしていた。

 更に、顔を触った手には血が付着していた。鼻血も垂れている──。


 この顔の痛み具合からして、恐らく骨の一本や二本は折られているのではないか。

──やられた!

 僕はすぐに察しが付いた。

 部屋の中が荒らされており、いくつかトラップが発動した痕跡もある。

 自分の身に起こった状況も合わせて考えてみる。

 そして──ある一つの結論に辿り着くことが出来た。

「僕は……殺されるところだったのか……」

 危ういところであったらしい。

──つまり、侵入者に殴られ蹴られ──危うく殺されるところであったようだ。

 しかし、疑問も残る。

 何故、侵入者は僕にとどめを刺さずに、この部屋を出て行ったのであろうか。

 開け放たれた扉の外に目を向ける。

「まさか……」

 嫌な予感がして僕は直ぐ様立ち上がった。

 慌てて部屋を飛び出し、玄関へと向かう。


 ドアノブを捻ってみるが──大丈夫、扉の鍵は掛かったままだ。僕はホッと胸を撫で下ろした。


 次いで、キッチンや風呂場などにも行ってみる。

 いずれも鍵は閉まったままで、釘や板を打ち付けた封印も解かれた様子はない。

──ということは──。

 まだこの家の中に侵入者は潜んでいるに違いない。他に脱出の道はないのだから、そうとしか考えられない。


「おいっ! いるのか!?」


 叫んでみたが返事はない。自分の声が虚しく家の中に反響するだけであった。


「どこだ! どこにいる!?」

──やはり反応はない。

 必死で叫ぶ僕の目に、いつしか涙が浮かんでいた。


「もう、いい加減にしてくれよ! 僕が何をしたって言うんだ! どうして僕を苦しめるんだよ……。頼む。頼むから……もう、やめてくれ!」

 膝をつき、泣き崩れた。

 色々な感情が押し寄せ、限界点を突破してしまう。

 床に突っ伏しながらオンオンと泣き、僕は嗚咽を漏らした。

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