第31話
三十三、
まだ
その
宮城が、方形の城市のやや北寄りに位置しているのに対し、中央広場は文字通りホーロンの中心にある。碧天南路とクシュ街道のまさに交差地点〈溺れ分岐〉の象徴が中央広場なのである。
サラとラムルは、広場に面した
昨日、侍医団長の許に渡った
取次役の女に圧力を掛けたのも
なに喰わぬ顔で
格子の向こうから、秋の気配を感じさせる物憂い光が
サラは頭をふると、小さく伸びをした。その拍子に伸ばした爪先が、こつんとラムルに触れた。ごめん、と囁く。む、む、とこれは、ラムルの
(集中しないとーー)
目をパチパチと
「出たぞ」
とラムルが、短く言った。
異変は、カリムが広場を横断しているときに起こった。八角柱に差し掛かったカリムの歩みが鈍った。急に身体の自由が利かなくなったみたく、足を引きずるような動きになる。ついには立ち止まってしまった。進みたい意思はあるのに足が拒否しているーーそんな容子に見える。
「おかしいーー」
サラは思わず立ち上がった。ラムルも同じ思いのようだった。
広場の真ん中には、人だかりが出来はじめていた。その半円形の中で、ギクシャクした明らかに不可解な動きのカリムが、辻説法の行者のように、あるいは
「天神エフリアよ!
サラとラムルは人をかき分けて進んだ。カリムが弁舌をふるい出す。
「我、畏れ多くもユスナル・ロカンドロン陛下を
人だかりに
「冥府王よ、慎んでお願い申し上げる!
茶番劇だ、とサラは胸の
金切声が沸き上がった。何人かが、ワッと退いた。尻もちをつく者さえいた。その場の誰もがーーサラとラムルを除いてーー
その
このときカリムに急接近した物体は三つあった。初めに到達したのはサラーー正確に言えばサラの振るった剣ーーであった。但し手首を返し、刃のない部分でカリムの片足を打ったのである。
到達した二番手はワルラチである。いつもの如く喉笛に喰いつこうとして僅かに旋回したことと、サラに痛打されてカリムの体が傾いだことで、目標を外してしまった。しかし強靭な顎はカリムの肩の肉を噛み千切った。
三番手は
倒れたカリムにサラが駆け寄り、それにラムルが手を貸して引き摺っていった。上方では〈
「退いて!」
と、そこに雄叫びを挙げ突撃してきた者があった。
「
マルガは疾走の速度をゆるめず、そのままワルラチに斬り込んだ。マルガのそれは細く長い刀身の
やはり、マルガとタルガの連繋は際立っていた。折しも
こうして〈
うつ伏せに倒れたカリムの体の下から、赤黒い液体が地面に這いだしてきた。
サラは、頭を廻らしてアクバを警戒した。
(また逃がしたか!)
「サラ! 見ろ!」
ラムルが、必死にカリムを介抱している。
「まだ息がある!」
ラムルが叫ぶ。カリムの口から、苦痛の呻き声が漏れた。生きている。
二人は必死の蘇生にかかった。
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