第3話


「コンビニのバイト、店長にシフト増やしてもらって頑張ったのよ!そのお給料はたいて、買ったの!!って...」



「その手に持ってるやつって、もしかして、

もしかすると、チョコ?」


「そんでもって、まさか、手作り?」


「あ、ああ。学校一の美少女からもらったんだ。なぜ、非モテのぽっちゃりな俺にくれたのか理解不能だけど」


「それ、味見てもいい?」


「いいけど。ちょっと待って。俺が味見てから...」


俺はチョコを1つ袋から出して

食べてみた。



そのあと。


すぐに感じた違和感。


これ、ヤバい。


味がしないばかりか、

うまく飲み込めなかった。


それもその筈、


「あ、マヒロ、

これ、なんかヤバいわ...」


と言って俺は部屋から出て、洗面所へと向かったんだ。


そして、汚い話になるが、

ペッと吐き出した。


チョコはチョコでも、大量の髪の毛入りだった。


口のなかを何度もすすいでから、

俺は部屋に戻り、義妹に告げた。


「わりぃ、おまえにはこの手作りチョコあげられないや」


「どうして?」


俺はゴミ箱に捨てた。


「髪の毛入りだった」


「うそ....!?」


「たまたまとかじゃなくて?」


「いや、かなり大量に入ってたから、

インキャな俺への嫌がらせだと思う」


「今から思い返せば、俺がチョコ受け取ったとき、彼女、やたらニヤニヤしてたな...」


「酷い...!!」


「その学校一の美少女って、もしかして林ユーコさん!?」


「あ、う、うん。まぁ、そうだけど」


「許さないわ...」


「私のお兄ちゃんを侮辱するなんて...!」


「お、おい、喧嘩はダメだぞ」


「こーなったら見返してやるわよ...お兄ちゃん!」


「え...」


「取り敢えず、痩せてイケメンになればいいのよ!そしたらチョコに髪の毛入れた事、

死ぬほど、後悔することになるわ!」


「いや、そんな。俺が痩せてイケメンになるとか無理ゲーのなかの無理ゲーだろ」


「そんなことないっ!私がトレーナーになって、お兄ちゃんをイケメンにしたげる!」


そう言って、義妹は着ていたトップスをペラリとめくってみせた。


「お、おい、なにやってんだ??」


マヒロは俺の右手を掴むと、


「こんなお腹を目指して欲しい」


とお腹を触らせにかかったんだ。


「や、やめろ..,,!」


慌てつつも、驚いていた。


マヒロのお腹は、俺の腹とは全然違い、引き締まっていた。


ていうか、チョコレートみたく割れていた。


「す、すげぇな、おまえ!」


「うん、まーね!昔とった杵柄かな?」


「へ、へぇー」


「よし!そうと決まれば、早速、

今からトレーニングよっ!千曲川の河川敷

走りまくるわよっっ!」


「えええ!今日から!?明日からにしようよ?」


「だめよっ!いつランニング始めるの!?

いまでしょっっ!!」


「林修先生みたいなことを言うなっ!」


義妹はとんでもないスパルタトレーナーだった。俺はジャージに着替えさせられ、

いきなり五キロもの道のりを走らされたのだった。


さて。


翌日。


俺は筋肉痛に苛まれ、登校した。

すると、昨日、チョコをくれた美少女、林ユーコが待ってましたとばかりに下駄箱のところで俺を腕をくんだ状態で待ち構えていた。


「どうだった?あげた手作りチョコ、ちゃんと残さず食べてくれた?」


「う、うん。まぁ...」


「捨てたりしてない?」


「う、うん...」


「うそでしょ?それ。髪の毛入ってたでしょ。だから捨てたよね?」


俺は返事をしなかった。

もう、この女とは一切かかわりたくないと思って、逃げるように駆け足で教室へと向かったのだった。


「あ、待てこら!」


美少女なのに。

言葉使いは乱暴だった。



さて。


歳月流れて。


半年後。


俺は、マヒロの毎日の地獄の特訓もあってか、かなり痩せた。

雨の日も風の日も、俺は堤防沿いを一緒に走らされたのだ。


そのなみなみならぬ努力の賜物だとは思うが。


気が付けば、モデル事務所のスカウトマンに声をかけられ、そのスカウトに舞い上がった俺は、

学生の傍ら、雑誌モデルの撮影のバイトをした。



自分で言うのもなんだが、かなりイケメン化したせいで、

あの、俺に髪の毛入りチョコをくれた女、林ユーコが、

俺にラブレターをくれたり、もう何度も面と向かって告白するなどの、

猛アタックしてきたが、俺はパーフェクト無視した。


「私と付き合ってほしい...」


「もう遅いよ...」


俺は何度もそう言って断っていた。



やがて俺は三年生に進級して

季節は変わりに変わって11月某日。


高校の文化祭の日、

大事件が起きた。


俺に対してしつこく迫る学校一の美少女、林ユーコが、

文化祭の美少女コンテストで泣きをみることになった。



二年連続、ミスコン一位だったのに、

俺の義妹がエントリーしたせいで

学校一から転落したんだ。


高二になった

義妹マヒロは、レオタード姿で、眼鏡なしの

髪の毛ポニーテールにして現れた。


「山野マヒロです。特技は新体操でっす!

今はレオタードで隠れてるけど、

腹筋も割れてますっ!宜しくお願いします!」


そのとき。あちこちから、こんな

歓声が響いた。


「お、おい、あれ、新体操の元日本代表の

真島マヒロじゃね!?」


「や、ヤバイ。うちの高校にいたなんて...!」


ざわざわ...


マヒロの旧姓はそういえば、真島だった。

親同士が再婚したことで山野になっていたが

俺はマヒロが新体操で名を上げた女の子だとは全然知らなくて、今日、このコンテスト時に初めて知った。


マヒロが親の再婚に際して、うちの

高校に編入してきたが、残念ながら

うちの学校に新体操部はなくて。


マヒロは新体操から遠ざかっていたけど。


ぼんきゅっぼんのスタイルと、身体が柔らかくて運動神経抜群なことを示す

その、新体操という

アドバンテージ。そして、

超絶可愛い顔で。


完全に、林ユーコをくってた。

一位はぶっちぎりのマヒロだった。


この事件後。


ユーコは学校一の美少女の座から転落したのが、よっぽど悔しかったのか、

転校してしまったのでした。

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学年一の美少女が手作りのバレンタインチョコを俺にくれたが髪の毛入りだった→トラウマを抱えた俺は一念発起し痩せてイケメンになったらそいつがチラチラ見てくるんだがもう遅い。 雲川はるさめ @yukibounokeitai

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