想いを込めたお菓子

黒夜

本編

今日はバレンタインと気づいたのは、幼馴染であり、親友の彩乃に教えてもらったからだった。


「はい、これあげる。……意味は察してね」


貰ったのはお菓子の詰め合わせであった。

……中身は布に包まれてよく判らないけど。


バレンタインは元々女子が好意を抱いた男子にあげるイベントだと思っていたが私の通っているここは女子高……学校内で男子はいるはずもなく、私も当然女子である。


でも最近は義理チョコやら友チョコやらが流行っているらしい……中学でお菓子の持ち込みは校則で禁止だったことも関係していて、高校一年の今年に初めて知った。


多分、彩乃が渡してくれたこのお菓子も友チョコとかいうやつだろう。

本命ではないだろうに市販で売っているようなものではなく、手作りで作ったという感じのお菓子を渡してきたのは如何にも生真面目な彩乃らしいと笑みがこぼれ出そうになる。


多分、料理が得意な彩乃の作るお菓子はとても美味しい物となっているだろう。

何回か彩乃の作ってくれた料理やお菓子の味を知る私は渡されたお菓子の味に大いに期待した。

今食べても良いかもしれないが、あいにく私は昼に食べ過ぎるとまともに頭が働くなる。

満腹になると副交感神経が働いて眠くなると生物の教材で読んだことがあるが私の場合は特にそれが顕著だ。

だからこそ、私は昼飯は空腹は感じないが満腹には決してならない量に調整しながら昼飯を取っているために今食べれないのが口惜しい。

まぁ、それは家の自室で静かに食べることにしよう。


「そういえば、知ってた?」

「何が?」

「バレンタインのお菓子はそれぞれに意味があるらしいよ」

「へぇ、そうなんだ!じゃあこのクッキーはどういう意味があるの?」

「ふっふっふ、それは秘密だよ」

「え~~~~!」


何気ないクラスの人の会話が耳に入ってきただけだったのだが今の私は妙に気になった。

もしかしたら、このお菓子も意味があるかもしれないと思うと妙な感情が胸を支配しようと溢れてくる。

そして気になったのは彩乃の素っ気ない態度に見えたが妙に顔がほんのり赤くなっていたことだ。


少々気になるなぁ……綾乃は美人だし、家庭的だし、素敵なお嫁さんになれると思う。

何故か彼女の浮いた話はないが、私が男なら叶うかどうかは分からないが告白していただろう。

まぁ、女同士だし、そんなもしもの話など考えても仕方ないかもしれない。

そんなことを考えながら私は午後の授業の準備を始めた。




帰宅した私は早速、貰ったお菓子を食べることにした。

片手にはスマホが備えられている……今の時代は便利なもので分からない時はネットで調べれば大抵はすぐに答えが返ってくる。

いざ食べようとした時に昼の何気ない話を私は思い出したのだった。

クッキーは【あなたとはお友達です】という意味であった。

友チョコ……チョコですらないが……として送るお菓子としてはクッキーはベストな選択肢だと思えた。


布包みを開いてみると一目で手作りだと分かる四種のお菓子があった。

どれもこれも非常に綺麗で美味しそうなお菓子である。

マドレーヌ、マカロン、カップケーキ、そしてお菓子作りなどまるっきり素人である私でも手の込っていると分かる可愛らしい文字を表面に削られた正方形のチョコレートだった。


チョコに書かれた文字は【Que ce sentiment vous atteigne】……英語が貧弱な私でも明らかに英語じゃないと判断できる外国語であった。

文字を調べるという意味でもチョコレートは最後に食べることにしてまずはマドレーヌとかの他のお菓子から食べることにしよう。


「ん!やっぱり美味い」


くどい甘さという物が嫌いな私でもはっきり美味いと感じられる上品な甘さに仕立てられたお菓子であった。

相変わらずというか、何度も食べさせて貰ったからかというか私の食べ物の好みはすっかりと把握されているようだ。

……これならチョコレートも大いに期待できるだろう。


その前にスマホを弄ってお菓子の意味について検索する。

多分、お菓子としては定番な物ばかりだからそれほど重要な意味を隠されていないだろう。


「マドレーヌは【もっと親しくなりたい】【もっと近づきたい】」


……今でも充分に親しい関係だと思っているのだが、これはどういうことだろうか。

そもそも親友以上の関係ってあるのだろうか……心の友?


「マカロンは【あなたは特別な存在】」


確かに綾乃にとって自惚れでなければ私が一番の友人で親友で幼馴染である。

だが、マドレーヌの意味とは少し矛盾してるように感じてしまう。

もっと親しくなりたい、特別な存在という解釈で良いのだろうか。

カップケーキの意味とチョコレートの文字を読み解けばハッキリと分かるようになるのだろうか?


「カップケーキ【あなたは特別な人】……!?」


思わず私はスマホを落としてとしてしまう。

顔を赤くして渡してきた彩乃の様子を覚えていなければ多分、察すること出来なかっただろう。

ネットを見て分かったが私が貰ったお菓子はどれもこれも恋愛に関わりのあるお菓子ばかりだ。

つまり……そういうことだろうか?


「チョコレートの意味も……調べよう」


書かれていた言葉はどうやらフランス語のようだ。

意味は……【この気持ちがあなたに届きますように】


顔の火照りを感じるがそれは無視して食べるとしよう。

この熱気は気のせい……気のせいのはずだ。


「美味しい、けど……」


チョコレートの味は私の好みにあったほろ苦さの中に甘みのあるビターなチョコレートだった。

……だったのだが、私にはこのチョコレートが途轍もなく甘く……砂糖のような甘みが口の中に広がるのだった。

私の好きな無糖の缶コーヒーを開けて飲むが、この甘さは珈琲の苦みをも意味をなさないような甘さだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

想いを込めたお菓子 黒夜 @ideal5890

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ