黄金 騒動のおわり

 帝都レオンハルトへの帰路、帝国からの使節団は5台の馬車の列で進んでいた。

 先頭2台と最後尾が近衛の護衛車。後ろから2番目がネロス含む文官の馬車。そして真ん中がレブライト専用の馬車だ。

 皇族専用の馬車は、一人で乗っているにも関わらず、最も大きく設備も最新式だ。底部に埋め込まれた高品質なスプリングは振動を軽減し、馬車にも関わらず後方にはベッドが設置されている。ゆったりとした背もたれのある椅子と、壁に取り付けられた収納式の小さな机。馬車とは思えない豪華な造りになっている。

 そして、なんと言っても天井に吊るされた白熱電球──。

 日本で暮らしていたときの知識を便りに、アル・トープグラム時代にアイデアだけを残しておいたものだ。それが、レブライトまでの200年の間に完成していたようだ。

 本来の白熱電球は、フィラメントに電流を流して発光させるが、この世界の物は魔力を流し込んで発光させる。魔物を倒したときに手に入る魔石が電池の代わりになっていて、そこから魔力を取り出して流し込んでいる。

 魔石は魔物から手に入るといっても、電球の需要から考えると圧倒的に足りない。それ故電球は高価な代物だ。実際、5台の馬車で電球が取り付けられているのは、レブライト専用車の1台のみである。


 電気のない時代に似つかわしくない電球のおかげで、日が落ちても報告書を読む事ができる。

 ネロスがまとめ上げた、ここ数ヶ月に起きた勇者への襲撃の全てだ。


 大陸歴208年12月10日。漆黒の勇者アシュリー・アル・ルフリンを襲った、瘴気を纏った怪力の男。

 大陸歴208年12月12日。紺青の勇者ファナン・アル・ユークレイドが参加した剣術大会で起こった、魔物に変身した男。

 そして大陸歴209年1月20日。ドーリエ伯爵邸での戦闘。元を辿れば、エンティーナ・アル・ユークレイドと、ビーツアンナ王国第2皇子の婚約を妨害するところから始まっている。


 黒幕は、伯爵を脅迫した「霧の帝国」なる組織……狙いは勇者の力を削ぐものと思われる。

 その最終的な目的は何か?ヒントになるのは、前世のアル・トープグラムの時に星の意思から伝えられた【今から200年の後、再び魔族の驚異が世界を襲う】という言葉。

 魔族絡みの陰謀であることは確かなのだろう。


  霧の帝国の計画とは一体何なのか。まだいくつかの疑問が残る。


1,もし魔族が生き残っていたというのなら、200年も待っていたというのは不自然である。もっと早くに行動を起こしているはずだ。

2,今から新しく魔族へ成るというのであれば、「瘴気を纏って戦う」という今までにない技術を使用してくることに、どういう意図があるのか。

3,人間を魔物に変身させるという意味。いくら魔物が強力とはいえ、魔族と比べれば戦力では劣る。


 来月からは学園生活が始まる。ということは、4人の勇者が同じ建物に集うことになるわけだ。

 何事もなければ良いのだが、果たして……。

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