第19話 精霊の願い〜新たなる厄災

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっぁ!よくもよくも!この私を倒すとは貴様何者だ!」


「俺はベルチア。覚えておけ。」


「くそう!その名、冥土の土産として覚えてやる!」


「なんだ!…なんだこのあたたかいものは。」


「我が斬ったのはそなたに取り付きし邪気。そなたは冥土へ行かずあるべき姿に戻るだけだ。」


「あるべき姿に…そうか、僕は邪気に囚われていただけだったんだ。ありがとう戦士ベルチア」サアア…


「行ったか…」ガクッ


タタタタ!

「ベルチア!ひどい怪我じゃないか!待ってろ、今手当てしてやる!」


「フィルェンか。俺は…もうじき死ぬ。」


「馬鹿言え!まだ助かる!」

「君に託したいことがある。街の人たちに「魔物は倒した」とだけ伝えて欲しい…」チーン…


「ベルチアッーーーー!」


その後フィルェンは街の人たちにこのことを全て伝えました。人々は戦士ベルチアの功績を讃え、街の名前をベルチアに変えたのでした。



戦士ベルチアの伝説〜完〜


「マサル〜お前は真の英雄だ!」

「まさしく戦士ベルチアそのものだ!」

「オルカマン様〜!」

ウオオオ!

薄暗い明かりに灯された広場の周りから大歓声が湧き上がる。


なんでこうなったのかって?

ベルチアの領主から今の英雄である俺たちに戦士ベルチアの劇をやってくれないかとお願いされたのだ。ちなみに俺が主役の戦士ベルチア、オルカマンがフィルェン役、トレカがナレーターだ。


「マサルのおかげで大盛り上がりだったな。」

俺の後ろでオルカマンは囁いた。

「当然ですよオルカマン。マサルさんは前世ではそこそこの有名人で、こういう大きなイベントの司会を何度もこなしたと聞いているのです。」


「そうだとしても、演劇に活かせるのは才能だと思うがな。」


「ほら、トレカも、オルカマンも、ルルも今日はパーっとやっちゃおうぜ!」


ステージを降りた俺はみんなを誘い、祭りの会場へ踊り出た。


それにしてもこの祭りはすごい。街の住民だけでなく、遠くからやってきた人々も集まったため、『ら◯ぽーと』が米粒に見えるくらいの出店が並んだのだ。

多くの飯、多くのスイーツ、多くの文化…このベルチア一帯の全てがそこにあった。


「みんな!たくさんもらってきたぜ!」

祭りの終わりに人々は俺たちにいろいろなものをくれた。頼んだ料理や飲み物に収まらず、家宝として宝石を差し出す人までいた。おかげで、歩くのがやっとな感じだ。


やっとの思いで宿に戻った俺たちはお土産を分ける事にした。

「これはトレカの分」「ありがとうなのです。」

「これはオルカマンの分」 「感謝する。」

「これはルルの分」 「ありがとー。」

「これはローラの分」 「ありがとうございます。」


よしこれで全員分揃った!………ん?


「ローラ?なぜここに!」


「実は…大切な話をしに来ました。」


「あなたにお願いがあります。この世界のどこかに隠れている私の仲間たちを見つけ出して欲しいのです。」


「いいけど、8人もいるんだろ?どうやって見つけ出すんだ?」


「これを見て下さい。」

ローラは宝石を俺の前に差し出した。さっき街で貰ったものだ。


「あなたが眠っている間、使い魔を使役し見つけ出したものです。触れて見て下さい。」


そっと宝石に触れる。 パリィィィィィン

すると宝石が割れ、中から一枚のカードが現れた。

「ゴット9の一つ『パール・ローズ』か!」


「そうよ。我ら精霊は他のものに擬態して邪神の目から逃れることにしたのよ。」

ガントレットから声がする。画面を除くと、真珠色のショートヘアの見知らぬ女性がいた。



「あんたがパール・ローズか」


「初対面の相手にあんたなんて失礼よ。改めた方が良いわね。そうよ。私はパール・ローズ。願いを叶える精霊の1人よ。」


「よろしくな。」


「あなたと話してると疲れるわ。私はもう休むから、全員集まったら起こして。」

彼女は背を向けるとどこかに消えてしまった。


「申し訳ない。彼女の機嫌を損ねてしま…

いました…」

俺は忘れていた。言葉使いに気をつける事を。よく考えてみれば、精霊って人間を遥かに超越した存在…敬う必要がある。だから、敬う態度を見せなかった事に彼女は怒ったのだろう。


「ごめんなさいね。ローズは気が強いから誰に対してもああいう態度をとってしまうの。…そんなに気を負わなくてもいいですよ。」


「ああ、ありがとな。」


ペカー

唐突にガントレットが光りだし、モニターが現れた。

「これは、地図?!」

地形的にこの近くでは無さそうだ。


「これは私の仲間がいる場所を表しています。散り散りに別れた時にそれぞれ1人だけ居場所を共有できるようにしたのです。」

「これを辿っていけば全ての精霊に出会えるでしょう。そして、精霊とあなたの力を合わせて邪神を倒す。これが私の計画です。」

「勝さんに問います。この道はとても困難です。それでも進みますか?」


「進むぜ。あの邪神を放置する訳にいかないからな。」


「そう言ってくれると信じてました。ではこれからについて話しましょう。」シュン


そう言うと、

〔それでは目的地を説明します。場所はここより西方の都市メラノ。ここにいるようです。〕


「メラノ…ですか。懐かしいのです。」


〔トレカさんはご存知なのですね。〕


「そこには大切な人がいるのです。久々に会いたいのです。」


そうか、トレカにも大切な人がいたんだな。

多分だけど、一緒にこの世界を救った仲間ってとこかな。


〔では道案内は任せましたよ。よろしくお願いしますね。〕


「まかしてなのです!」

トレカは嬉しそうにうなづいた。


ブゥン!

突然モニターの表示が変わった。画面には遊禅が映っている。


〔大変だ!メラノという都市がクリーチャーによって制圧された。2、3日でこっちに来るらしい。僕は逃げる。トレカさん達も逃げた方がいい。〕

ブチッ!


「本当ですか…?行かなくては!」


トレカはカタパルトフロッグを召喚し、


「目標はメラノ!私、射出!」 ドーン


彼方へと飛び去った。


「すまない!私も共に向かう!」 ドーン

オルカマンは彼女を追いかけるように飛び立った。


地図をみるとメラノはここよりも大きな都市のようだ。それを制圧したとなると強力なクリーチャーが徒労を組んでやってきたに違いない。…このままだとトレカとオルカマンが危ない。


「ルルごめん!」


「みんなが行くなら私も行く!」


「ルル…君は残って、この事を街の人達に伝えてくれないか?今なら間に合う。」


「私たち仲間でしょ?だから行く!」


「君にこの事を頼んだのは何故だと思う?」


「…わたしにしか出来ない事だから?」


「ルルは食事を配達するために町中を回ってるだろ?その繋がりを使うんだ。」


「…分かった!やってみるよ!」


「良い返事だ。」

俺は懐からカードを出しルルに渡した。

「これは勇気のお守りだ。大切にしろよ!」


「ありがとう!」


「頼んだぜ!」ドーン

そうして俺はトレカ達の後を追った。


色々な事が頭をよぎる。それでも1番心配なのは…

(トレカ…待ってろよ!)


急に飛び出した彼女の事だった。

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