第10話 タイラントキングサーモン

『タイラントキングサーモン』

こいつは漆黒のヌシとして君臨する鮭だ。

効果こそ持たないがその力は伊達ではない。狂王はおろか三神を上回る2400という攻撃力を持っている。


「ふふ。私の効果はそれだけではありませんよ。」ヴォン

ベルガの体から黒いオーラが放たれる。


「私がいる限り、私が召喚したクリーチャーの攻撃力は1000ポイントアップします。」


「攻撃力3400か…やるな」


「あなたのクリーチャーの攻撃力では敵わないと思いますよ。あくまで、私の見立てですが。」



「それはどうかな?」

「俺はキルザークでお前を攻撃するぜ!インフィニットクロー!」


「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!」 ズバァ


ギィイイン!

「この程度ですか。」

振り下ろされた爪はベルガの体を貫くことは無く弾き返される。


「大した事ありませんね。」ビー

ベルガの拳から光線が放たれる。


「うわぁぁ!」

それは俺を直撃した。その衝撃で着ていた戦士ベルチアの衣装が砕け散った。


「なぜだ!お前の攻撃力は1600。相棒には敵わないはずだ。」

俺は体勢を立て直し、奴を睨みつける。


「私は先ほどから守備表示でしたよ。ちなみに私の守備力は2600。大した数値ではありませんよ。」


バトマには攻撃力(ATK)と別に守備力(DEF)がある。守備力が相手の攻撃力を上回っているとそのクリーチャーは破壊されず、上回った分のダメージを相手に与える事ができるのだ。

「なん…だと…守備表示なら腕を胸にクロスさせてしゃがみ込むんじゃないのか?」


「哀れですね。それはあくまであのゲーム(バトマ)での話。こちらでは通用しませんよ。」

「ではこちらの番ですね。タイラントキングサーモン。全てを喰らいなさい。」


ビチ!ビチ!ビチ!


巨大な鮭がこちらに突進してきた。

回避が間に合わない。…いや、する必要は無い。


ビチ…ビ…チ

俺の目の前で鮭は動きを止めた。


「攻撃が…止まった?!どう言う事…です……?」

(う、動けない。あのクリーチャーの効果なのでしょうか?)

ベルガも「U」を発音している唇のまま固まっている。


「残念だったな。俺のターンはまだ終了してないぜ。」

「キルザークの効果、キルザークが攻撃した時、このターンの後にもう一度自分のターンを行う。インフィニット・タイム!」


「⬛️⬛️⬛️!」

キルザークは紅く輝かせた爪を振り上げた。


(なるほど…こちらの時間を封じる能力ですか。)

(ですが、その攻撃力では我々に敵いませんよ。)


「そして俺のターン!ドロー!」


この場面を突破する方法は3つ。

・味方の攻撃力を上げる。

・相手の攻撃力、守備力をを下げる。

・相手を除去する。

これのどれかに当てはまれば希望は見えてくる。


ドローしたカードをじっと見る。

『蝶の剣ーエルーマ』

ちくしょう。このカードの効果はどれにも当てはまらない。後はキルザークの効果によるドローに賭けるしかないようだ。


「…俺はキルザークの効果を発動。自分がカードをドローした時、それが『ウェポン』カードなら相手のバリアを1枚ブレイクする。」

「インフィニットロア!」


「⬛️⬛️⬛️⬛️!」ゴオオ

咆哮が衝撃波となり敵を襲う。


「まるで効きませんね。そのような効果で私を倒せるとも?」

彼は傷一つ負っていない。本当にそのようだ。


「…」

俺は頭が真っ白になった。ありとあらゆる感覚が無くなってゆく。


…………

「…諦めないで!」

頭の中に聞いたことのない声が響く。


「誰?…」

視界がぼんやりして、よく見えない。声からしてトレカでもルルカでも無いことは確かだ。


「私を正しく使って。そうすれば、いつも以上に頑張れるから!」

剣のように真っ直ぐな声が俺の心に刺さる。

「正しく使って?………そうか。そういうことなんだな。」

「あんたの熱意。受け取ったぜ。」

……


「おやおや、戦闘中に気を失うとは…戦士として恥ずかしいと思わないのですか?」

ベルガはこちらを嘲笑うような視線を向けていた。


「…思わねえよ。そもそも俺は戦士じゃない。カードプレイヤーだ!」

その視線を潰すように俺は叫ぶ。

「待たせて悪かったな。俺の『流儀』をみせてやるよ!」

俺は再び手札のカードに手を掛けた。

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