第5話 ベルチアにて

「ふう…どうなるかと思ったが何とかなったようだ。」

まず、鯱頭が起き上がる。


「こ、怖かった…」

次に少女が顔を上げた。


「な。何とかなるもんだろ?」

俺は2人の方をたたいた。


「全く…君には驚かされた。まさかの人間大砲とはね。」


「フロッグの効果から思いついたのさ。」

「そこにいたクリーチャーも一体仕留めたみたいだし、結果オーライだろ。」

俺はオルカマンの足元を指さした。


「おお…やたら地面が硬いと思ったが、こういうことか。」

オルカマンの下にぺしゃんこに潰れたクリーチャーの死体があった。


「かわいそうに…」

トレカは思わず口元を押さえた。


「こいつは多分『シザー・デス』だな。」


「というと…バトマ最初期から君臨しているネタカードの王ですね。コストの割にパワーが低く、効果も無い。当然ダメージに耐えられなかったのでしょうね。」


「…哀れな奴だな。」

俺は奴に手を合わせた。


「ありがとう!お陰で助かったよ。」


シザーデスに襲われていた少女に声をかけられた。


「とんだ災難だったな。怪我が無いようでよかったぜ。」

「それじゃ失礼するぜ。」

俺はその場を離れようとした。


「待って!助けてもらったお礼がしたいんだ。うちの宿に来てくれる?」


〜店〜


「うまい!女将さん、おかわりしてもいいか?」ガツガツ


「良いわよ!うちのルルを救ってくれたお礼よ。沢山食べてね。」


俺達は少女の母親が経営している宿で食事をご馳走になっていた。


「女将さん、この料理にはどのような

食材を?とても美味なのだが。」


ここの料理にはオルカマンもご満悦のようだ。


「ああ、それね。トレカちゃんが持ってきてくれた大きな蟹を使ったのよ。」


『え"〜〜〜』


衝撃の真実に驚愕する俺とオルカマン。その横でトレカは美味しそうにシザーデス料理を味わっていた。


「ん?どうしたのですか?」


「あのシザー・デスがこんなにもうまい物とは思わなくてな。つい驚いちまったよ。」


「漆黒海の主として君臨している暴虐な鮭。その身は漆黒海一の美味と知られている。」


「それはタイラントキングサーモンの

FT(フレーバーテキスト)※。はっ!」

※カードの説明の中でキャラクターや世界観など雰囲気を演出させる文


「気付いたようですね。私はそのFTから『もしかするとシザー・デスも食えるのでは?』と考えたのです。」

トレカは得意げに答えた。


「そっから思いついたのか。流石、女神様ってとこだな。」

彼女の考えることは面白い。


「いえ、褒められる程では…」


ガチャ


「ただいま!」


怪物に襲われていた少女ールルが帰ってきた。急な依頼があって配達に行っていたようだ。


「おかえり。品物は渡せた?」


「ばっちりだよ!あ、これお金ね」

ルルは母親に金を渡すと、俺達が座ってるテーブルにやってきた。


「お、いっぱい食べてるね。どう?うちの味は?」


「めちゃくちゃうまい!」

俺はフォークを思いっきり突き上げた。


「でしょ!母ちゃんが作る料理は世界一なんだから!」


「ああ、とても美味だった。少女よ、これは本当に世界一だ。」

オルカマンは美味しさのあまり震えている。


「えー、本当に?あなた、マスクしてるから喜んでるのか、ただ震えてるのか分かりづらいや。」

ルルは不思議そうにオルカマンを見つめる。


確かにそうだ。オルカマンはマスクを外さず、フォークやスプーンをマスクの奥に突っ込んで食事をしていたのだ。


「ねえ、マスクを外してよ。あなたの顔見てみたいな〜」

彼女はオルカマンのマスクを外そうと構える。

「いや、このマスクは外す訳にはいかない。正義の味方だからな。」

オルカマンは頑なにマスクを外そうとしない。


「えー!外してよ。」ユサユサ

オルカマンの体を必死に揺する。

そんな彼女がちょっとかわいそうだ。そこで、俺は助けてあげることにした。


スッ

こっそり椅子の裏に回り込みマスクを取る。

なんでこんな事ができるのかって?カードショップのストレージから掘り出し物を取るために反射神経を鍛えたからだ。


「な、何をする!」


「子供が困ってるだろ?だから、助けただけだぜ。ん?」

顕になったオルカマンの素顔をまじまじと見つめる。どこかで見たことある顔だ。確か…


「嘘でしょ…」

トレカが震えるように声を出す。

「オルカマンの正体が『漆黒海の闘神オウガ』だったなんて…」


色白の顔、額に刻まれた漆黒海の紋章。

その男の前に固まるしか無かった。

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