The calm before the storm ①

 ターゲットとの戦闘から命からがら逃げ延びたレオは、しばらくの間ベッドでの生活を余儀なくされていた。病室はとにかく暇でやる事がない。暇はあるから仕方なくずっと窓の外を眺めていると、部屋のドアがノックされる。

「ピザは頼んでないぞと」

「頼まれてない」

 冗談を軽く受け流して部屋に入って来たのは、レオよりも一足先に退院していたロリーナだった。

 特に負傷もしていなかったため、あっという間の検査入院を終えた彼女は、今まで無かった習慣を2つ増やしていた。

 ひとつはレオが入院しているこの国立病院に通う事、そしてもうひとつは今まで必要としてこなかった訓練施設への出入り。


 クラヴィスとの初戦闘、その時に直面した己の弱さ。あの日はほとんど座って見ているだけで、レオが叩き付けられた時に運良くナイフを手渡されたから良かったものの、もし他の鉄柱に叩きつけられていたらそれこそ何も出来なかった。

 今までないがいから感じていた才能と言う余裕が一瞬で焦りに変わった頃には、彼女の脳の奥底に敗北と言うトラウマがこびり付いていた。それを振り払う為に訓練を始めてはみたが、何も掴めない事が更に焦りを生んでいた。


「どうした相棒、座らないのか」

「本部と間違えて迷った、来る予定もなかった」

 はっと顔を上げて逃げる様にロリーナは退室し、閉まったドアの前で溜息を吐きながらうずくまる。膝に額を当ててもう一度溜息を吐きながら、フラッシュバックするあの日の映像がまた焦りを積もらせる。

「どうしたロリーナ君、病室の前で蹲って」

 突然声を掛けられたロリーナは顔を上げると、いつも模擬実践演習に付き合ってくれる教官が立っていた。ロリーナはすぐに立ち上がって敬礼をする。

「ニコラ中尉、なんで病院に」

「私の息子が入院していてね、今日はお見舞いにと思ったらロリーナ君が居たからつい声をね」

 にこにこと笑いながら手に持った勲章とゲーム機を見せる。いつもロリーナの訓練を担当してくれていて、寄宿の時間が過ぎてもずっと見守ってくれている。ついこの間昇進したと聞いていた為、普段持ち歩くはずのない勲章を手に持っているのも納得出来た。

「お子さんに昇進の報告なら早く行った方が良いです」

「そうだね、また息子にも会ってくれると嬉しいよ。私の話はあまり面白くないようで」

「いえ、寝る時には丁度良いです」

 そっかそっかと笑いながら手を振って歩いて行った少尉を見送って、再びレオの病室に入ろうとカードキーをパネルに近付ける。

「最後のはフォローになってないぞと」

 中から聞こえたレオの言葉で急激に冷め、ドアに思い切り拳を叩きつけて病院を後にする。

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