第14話 裏切り行為(梨烏ふるりさんにいただいたお題「ストレス」)
信じられない!
まさか浮気されるなんて!
付き合って五年にもなれば会える日を待ち遠しく思ったり、連絡ひとつで一喜一憂したり、手を繋ぐだけで胸がきゅんってしたりはしなくなるけど!
私は隆一と穏やかに過ごせる時間がなにより大切で幸せだなって感じてたのに。
なんたる裏切り!
しかも相手が小学生からずっと仲良くしてた香澄だったから余計に。
ショックが大きい。
サラサラの長い黒髪に大人っぽい仕草。すっきりとした顔立ちはキレイで男の子にすごくモテる。
そんな香澄と二人きりでカフェでお茶してるなんて。
できれば見たくなかった。
なんの雑誌か知らないけどそれを覗き込んで楽しそうに笑う隆一と香澄は私の目から見てもお似合いで。
怒るよりも先に涙が流れた。
立ち止まって見つめていた視線に気づいたのか。
隆一が顔を上げて私を見た。
目が合った途端にヤバいって顔をして視線を逸らしたから。私はその隙に逃げ出して、今、なぜかカラオケボックスにいる。
泣きながら受付に立った私を店員さんはなにもいわずにマイクと伝票を用意して部屋へ案内をしてくれた。
流行りの曲が流れる狭い部屋で大声で泣いたらちょっとすっきりした。
「すみません。ウーロン茶とピザとポテトください」
内線で注文すると受付をしてくれたお兄さんがウーロン茶と温かいおしぼりを持って来てくれたけどびっくりするほど気が利くな。
お礼を言っておしぼりで目元を温めると気持ちよくてほっと力が抜ける。
ウーロン茶を置いて下がった店員さん普通にイケメンだったなぁ。
つぎ付き合うならあんな気の利く素敵な人にしよう。
そうしよう。
彼女の友だちと浮気するような最低な男なんてさっさと忘れて新しい恋をした方が建設的だ。
「最近のやつはあんまわからんしな」
せっかくだから歌おうかとリモコン端末を操作するけどランキングにのっている曲のほとんどが知らない曲名だった。
「カラオケも久しぶりだし」
結局選んで入れたのは五年前に流行った飲料水のCMソング。
アップテンポで恋する楽しさを高らかに歌っている曲で失恋ソングを歌うよりは気分も上がるってもんだ。
ノリノリで歌いサビの部分に来たところで思い出す。
この曲を歌っていると必ず隆一がハモってくれて盛り上げてくれたことを。
そして「これ歌ってるときの愛理めちゃくちゃかわいいな」ってニカって笑った顔を。
「なによ……なによ、ほんと」
止まったはずの涙が溢れてくる。
悲しい。
寂しい。
「私あいつがいないときっとストレスでどうにかなっちゃうよ」
それくらい傍にいるのが当たり前になっているんだって思い知らされた。
香澄と浮気なんて絶対許せない。
許せないのに。
会って話がしたい。
下手クソな言い訳でもいい。
「もうしない」って約束してくれたら許してあげるから。
気づいた時にはカラオケボックスを飛び出してカフェまでの道を戻っていた。
「隆一!」
「愛理!」
向こうから走って来た彼を見つけた時、私は無我夢中で抱きついていた。
隆一はちゃんと受け止めてくれたし抱きしめ返してくれた――それだけでもう半分くらいは許してたよね。
「……よかった」
震える声が上から聞こえて私はおずおずと顔を上げる。
もしかして泣いてる?
泣いてなくても相当動揺してるのは分かった。
「隆一?」
「お前ほんと昔からタイミング悪いんだよ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめる腕に力が込められて苦しい。
「タイミング悪いってなによ。浮気現場見られたのは私が悪いんじゃなくてそっちが悪いんでしょうが」
「だから、浮気じゃないっての」
「はあ?二人で楽しそうに肩寄せてなんか見てたじゃないのさ」
「それは」
なにを見てたんだって問い詰めたら、なんと旅行パンフレットだった。
二人で楽しい所に行こうって計画立ててたのかってむくれたらその唇に隆一がキスしてくる。
ちょっとやめてよ。
「そこでプロポーズしようと思ってたんだよ。香澄ちゃんは愛理の一番の友だちだからアドバイスもらってたわけだ」
どういうシチュエーションがいいか。
どんな言葉や演出だったら愛理に響くのか。
「残念だけど全部ナシな?」
「え!?」
「これ以上誤解されちゃ困る」
隆一がポケットから小さな箱を取り出して蓋をパカッと開けて差し出してきた。
そこに輝くのは一番固い石。
「隆一……これ」
「愛理。どうか俺と結婚してください。タイミングの悪い所もすぐに勘違いする所も怒っていいのに泣きながら戻ってきてくれる所も全部かわいいと思ってるし愛してるから」
なによこれ。
こんな道端で普通プロポーズとかしちゃう?
なのに心が喜びで震えて幸せでいっぱいになる。
もちろん答えは決まっている。
「はい。よろこんで」
だって私は隆一がいないとストレスで死んじゃうんだからね。
ちゃんと死ぬまで愛してね。
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